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スニーカーの権威、小澤匡行が考察する、ナイキ ショックスの誕生と再生

2018.9.19
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スニーカーの権威、小澤匡行が考察する、ナイキ ショックスの誕生と再生

2018.09.19

衝撃の吸収を主題に開発されたナイキ エアと異なり、衝撃を反発力に変えるテクノロジーを備えた『ナイキ(NIKE)』のショックス<SHOX>。久々の新作が登場したニュースを受け、その鋭敏なコンセプトとデザインについて、『東京スニーカー史』の著者、小澤匡行さんが個人的見解と仮説をもとに、ユニークな考察を展開する。

スニーカーの権威、小澤匡行が考察する、ナイキ ショックスの誕生と再生

小澤匡行 おざわ・まさゆき
1978年生まれ、千葉県出身。大学在学中に1年間のアメリカ留学を経て2001年より雑誌『Boon』にてライター業をスタート。現在は編集・ライターとして雑誌やカタログなどで活動中。2016年に『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。昨年日本語版を監修した「SNEAKERS」(スペースシャワーネットワーク発行)が発売。Instagram

1回くらいは履くだろうと思って買った唯一のナイキ ショックス

僕が唯一買ったナイキ ショックスを持参しました。これは、m-floを中心に活動していたDJのVERBALさんが2003年に結成したヒップホップユニットMIC BANDITZのCDリリース記念で製作されたコラボモデルです。ナイキ ショックスR4をベースにVERBALさんがアレンジを加えた特別仕様で、販売はHMV限定。シューズケース自体がCDケースを模していたのがユニークでした。

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なぜ僕がこのナイキ ショックスを買ったかというと、こう見えて(笑)当時はヒップホップ好きで、ファッションはさておき音楽はそっち方向を追っかけていたからです。それと、歴代のショックスに比べるとデザインがシンプルだったので、1回くらいは街で履けるだろうと。実際に1回くらいしか履かなかったですね。そんな僕の経験でナイキ ショックスのすべてを物語れるわけではありませんが、スニーカーに興味があった自分がなかなか手を出せなかったことと、このシューズの変遷がリンクするところもあるので、個人的見解と仮説をもとにナイキ ショックスについてお話しします。

吸収した衝撃を反発力に変えるというコンセプト

ナイキ ショックスとは、文字通りナイキによって開発されたテクノロジーです。デビューは2000年。初代モデルは、NBAプレーヤーのヴィンス・カーターがシドニー五輪で履いて有名になったBB4です。ナイキのソールテクノロジーの代表格はナイキ エアですが、ナイキ ショックスとはコンセプトが異なります。ナイキ エアの主題は衝撃の吸収。対するナイキ ショックスは、吸収した衝撃を反発力に変えることでした。ある文献によれば、ナイキ ショックスを開発したのは、1982年にデビューしたエアフォース 1の生みの親である、デザイナーのブルース・キルゴア。彼は陸上トラック選手がアップで行う腿上げを見て、地面から跳ね返る力にインスパイアされたそうです。

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開発が始まったのは1984年。初期のテストモデルは、ミッドソールの中に金属バネやカーボンファイバーを仕込むなど、かなり機械っぽい造りでした。しかしナイキ ショックスが実用化され販売にこぎ着けたときは、ウレタン系特殊素材でつくったコラムと呼ばれる小さな中空円柱のパーツが装備されていました。その特殊素材とは、素材メーカーのアルケマ社が開発したPebaxというゴム弾性を有する工業用材料です。それをナイキで使うようになったのが僕の知る限りでは1998年らしいので、そこから一気にナイキ ショックスの開発スピードが上がったのではないかと考えられます。

ナイキ ショックス受難の2000年代半ば

16年の開発期間を要して誕生したナイキ ショックスは、先にも話したようにまずはバスケットボールシューズで採用され、クロストレーニングシューズなどにも応用されていきました。いかにも機能的なコラムを丸見えにしたデザインは、ナイキ エア然り、アップルコンピュータもそうであったように、テクノロジーをあえて見せる当時のスケルトンブームに沿ったものだと考えます。また、ソール自体が特異だったことから、アッパーのデザインも挑戦的なものになりました。そうして2000年代は、R4、R4 PLUS、XT。あるいはヴィンス・カーターのシグネチャーモデルなど、ナイキ ショックスのバリエーションが次々に発表されました。しかし、2000年代後半になると姿を見かけなくなります。その理由を考察してみました。

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シューズの文脈で言えば、2005年に登場したナイキ フリー<FREE>の影響が大きいでしょう。素材量を減らし、極めて裸足に近い履き心地を実現させたこのミニマルなシューズは、履くことでアスリートの脚力を向上させるのが狙いでした。その頃に台頭してきたアフリカのマラソンランナーたちが、子供時代には裸足で学校に通っていた事実も、ナイキ フリーの登場を後押ししたそうです。加えて環境問題が世界規模で注目されるようになった。となると、パーツ数が多いナイキ ショックスは時代に逆行する形になってしまった……。ナイキとしても、必要な時間をかけて開発してみたものの、結果的に世間の必要とするシューズではなかった、という判断を下したのかもしれません。

ギア感が強いシューズの域から出られなかった?

そしてまた、日本でもナイキ ショックスは支持を集められませんでした。なぜなら――ここからは完全に僕の仮説ですが、スニーカーになることができなかったから。個人的な見解では、スニーカーとはファッションや音楽と結びつき、独自のカルチャーを生み出すものを指します。元々は機能重視のナイキ エアが多くのファンを持つに至ったのも、シューズからスニーカーになれたからです。しかしナイキ ショックスは、コンセプトもルックスも鋭敏過ぎたがゆえに、たとえばどんなにカッコいいサッカースパイクでも街では履かないように、ギア感が強いシューズの域から出られなかったのではないでしょうか。

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特に原宿界隈のファッションには溶け込めなかった。ナイキ ショックスを意識したのはおよそB-boyたちでしたが、それも日本では相対的に少数派で、タウンユースのカルチャーにはなれなかった。僕が唯一買ったコラボモデルのナイキ ショックスをほとんど履かなかったのも、これにどんなファッションを合わせれば良いかわからなかったからです。それらは無論、ナイキ ショックスの機能性とはまったく別の話ですが。

グラビティはショックス史上初のスニーカー目線モデル

しかし時代というのは気まぐれです。2~3年前から起こったダッドシューズブームが、一時期姿を潜めたナイキ ショックスに光を当てるのですから。ダッドシューズというのは、お父さんの靴の意。つまりダサいオジサンが好んで履くシューズのこと。形態的には、ワイズが広めでボリューム感がある、およそ白ベースのモデルを指します。ブームの発端としてはナイキのエア モナーク<Monarch>がそれにあたると言えるでしょう。そうした、レトロと言えば言えなくもないシューズが一回りして、「今ならアリじゃん」となり、バレンシアガをはじめルイ・ヴィトンなどのハイブランドもダッドシューズに参入してきました。このブームに対してナイキは、エア モナークが全米で大ヒットしつつも、ダッドシューズを謳ったモデルは発表してはいません。そんな中、今年になってナイキ ショックスの久々の新作、グラビティが発売されました。これがなかなか興味深い造りです。

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コラムが外から丸見えのソール部分はそのままに、アッパーのデザインを一新。奇しくもナイキ ショックスと同じ年にデビューしたエア プレスト<AIR PRESTO>によく似ており、懐かしくもとっつきやすいスタイルになりました。デザイナーは、ACGも担当したアーロン・クーパーという人です。グラビティのシューレースにアウトドアシューズでよく見られる留め具が備わったのは、彼なりの主張かもしれません。

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ここでまた仮定を立ち上げますが、もしナイキがショックスの再生を狙うなら、R4などの歴史的モデルを復刻させたほうが、よりインパクトを出せたのではないかと思います。ところがエア プレストを彷彿とさせるまったく新しいモデルを世に出したのは、少なからずダッドシューズブームへの意識があったと考えるのが自然です。

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いずれにせよ、オンタイムでナイキ ショックスに触れてきた僕らではなく、20代あたりの若い世代にすれば、時代的にグラビティを履きこなせる人がオシャレに映るはずです。その観点でグラビティを眺めれば、ナイキ ショックス史上初のスニーカー目線で捉えられるモデルになったと言えるでしょう。

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interview&text by 田村十七男
photo by にしゆきみ

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