「自分の色で、流れをつくる」バンビシャス奈良・大塚勇人の宝物『僕をつくった、あの1足。』
ゲームの流れは、いつも派手な一撃で変わるわけじゃない。ほんの一瞬の判断や、一本のパスが、空気を静かに塗り替えていく。バンビシャス奈良のポイントガード・大塚勇人は、スタッツだけでは語りきれない“流れの正体”を知っている選手だ。自分を大きく見せるよりも、ゲーム全体が前に進む選択を重ねてきた。その積み重ねが、いまのプレーをつくっている。
そんな彼が選んだのは、長く大切にしてきた一足でした。

自分の流儀を体現するプレー「ゲームをつくる」という役割
「点を取るより、“噛み合うパス”が出た瞬間のほうが、正直うれしいですね」
身長173cm。Bリーグの中では、決して大きなサイズではない。
だからこそ、大塚は早い段階で自分の立ち位置を理解していた。勝負どころで身体能力を誇示するよりも、一歩先を見て、チームの流れを整えること。
誰もが気づいていないレーンを見つけ、自然にボールを通す。観ている側が「今の、見えてたのか」と息をのむ瞬間。
「ダンクや派手なプレーで会場を沸かせるタイプじゃない。でも、パスなら自分の色を出せると思ってきました」
大塚にとってアシストは、数字ではなく“意思表示”に近い。

勝負の感覚を足元からつくる「ジョーダン」という答え
「シューズを選ぶとき、いちばん最初に見るのは“形”なんです」機能性や最新モデルの評判よりも先に、大塚が見るのはフォルムだ。

「足に入ったときの収まり方。それで、プレーのイメージが決まる気がしていて」
彼が長く惹かれてきたのが、ジョーダンシリーズ。理由は明確だ。
「バッシュなんだけど、“競技用すぎない”感じがあるんですよね。スニーカーとしてのラインが残っているというか」
高校時代、遠征や試合の移動で履いていたのもジョーダンだった。朝、紐を結ぶ時間。その所作ごと、身体が試合モードに切り替わっていく。一度、その大切な一足を失ったことがある。
「盗まれたんだと思います、多分」
それでも、足の感覚と結びついたフォルムは記憶に残り続けた。2017年に同モデルが復刻されたとき、迷う理由はなかった。
シューズは、単なる道具じゃない。プレーの感覚と結びついた“記憶のスイッチ”。大塚にとってジョーダンは、自分を“整った状態”に戻すための存在でもある。

ポイントガードとして最初にぶつかった壁
「いちばんきつかったのは、先輩に指示を出すことでした」
学生時代、ポイントガードとして最初に直面した壁。それはスキルでもフィジカルでもなく、伝えることだった。
試合中、敬語は使えない。でも、遠慮もできない。言葉が行動に変わらなければ、意味がない。
「声を出すだけじゃ、ゲームは動かない。言葉とプレーが一致していないと、信用されない」
この経験が、いまの“ベンチから流れを落ち着かせる役割”にもつながっている。派手に引っ張るのではなく、必要な一言を、必要なタイミングで。大塚の冷静さは、実戦の中で磨かれてきたものだ。

音楽はテンションを「上げすぎない」ための選択
「音楽で自分を煽る、という感じじゃないですね」
大塚は、試合前にテンションを上げすぎない。むしろ、余計な力を抜くために音楽を使う。
中学時代、はじめて自分で買ったCDはRIPSLYME『GOODJOB!』。中でも印象に残っているのが「JOINT」だ。
「歌詞を覚え込んでいたわけじゃないけど、あのリズムがちょうどよかった」
移動中や試合前、身体の奥に一定のテンポを刻んでくれる音楽。それは、ポイントガードとして冷静に状況を見るための下地にもなっていた。オレンジレンジなど、同時代の楽曲もよく聴いた。共通しているのは、自分を主役にしすぎない音。
コートで目立つより、ゲーム全体がうまく回ること。音楽の選び方にも、その価値観が表れている。
【大塚選手を表現するプレイリスト】
「考える力」が武器になる時代
「頑張るのは、もう当たり前ですよね」
次世代の若者たちにこういった言葉を残す。技術も、身体能力も、ベースが高い時代。だからこそ大塚は、現場を見て、次を選ぶ力が決定的になると考えている。
反骨心だけでは足りない。指導者の言葉と、コートで起きている現実の差を見極める視点。
「考え続けられるかどうか。そこが、最後に差になると思っています」
差を知る男の説得力ある視点だ。

大塚勇人という選手は、“流れをつくる”ための選択を、常に積み重ねてきた。数字に表れない仕事。けれど、その一つひとつが、確かにゲームを前へ進めている。派手じゃなくてもいい。自分の色で、流れをつくる。その姿勢こそが、彼のバスケットボールそのものとなっている。



