
音楽とワインが交差する“余白”のバー。 店主にリズムを与えるナイキ「ランニングシューズ」【HOWENE(京都)・江頭諒】
英語で交差点を意味する「CROSSROAD」。
様々な分野で一直線に邁進するプレイヤーの「ターニングポイント」を振り返る本企画。そのポイントの以前・以後では何が変わったか。そして、変わらずに足元を支えていた“相棒”とも言えるシューズについて語る。
哲学の道の終点、銀閣寺から歩いて数分。古い家具店だった平屋を改装したバー「HOWENE(京都)」は、昼間でも柔らかな光が射しこむ。
壁は滋賀の土を練り込んだ左官仕上げ、カウンターはウォールナット、棚の奥にも大型のウォールナット製スピーカーがある。“日本の素材”と“ミニマルな建築”を縫い合わせた空間に、レコードの低音が静かに響くのだ。
ボトルの中心はフランスのナチュラルワイン。「亜硫酸を極力加えず、身体に染み入る液体だけを選んでいます」と話すのは店主の江頭諒さん(28)。オープンは2024年12月。まだ半年だが、“音楽とワインが溶け合う余白”を求め、口コミだけで国内外のファンが足を運び始めている。
「好き」を継ぎ合わせたバックグラウンド
江頭さんの原点は高校時代に組んだバンドだ。
「ハイスタからメロコア、ポストロックへ……ギターを抱えて、千葉の老舗ライブハウス千葉LOOKでアルバイトもしていました」
大学でロサンゼルスへ語学留学。現地のサードウェーブコーヒーに触れ、「文化を運ぶカウンター」の面白さに目覚める。帰国後は東京・代々木八幡のCamelbackでバリスタとして働きながら、ナチュラルワインを飲み歩く日々。その途中で“間借り営業”を勧められ、夜だけのワインスタンドを半年間開いた。
「プロじゃなくても、注ぐ側に立てば、“好き”が急に“責任”に変わる。その緊張感が転機でした」
もうひとつの分岐点は、新型コロナに罹患した2022年夏。「健康を失えば店も人生も続かない」と痛感。それをきっかけにランニングが習慣になった。週4回、鴨川沿いを3〜10km。走る時間は「自分の身体と対話する時間」だという。
クロスロードは間借りバーからの“街のバー”
―2020年、間借りを始めた夜
「あの半年が、コーヒーからワインへ舵を切ったクロスロードでした」
量を飲み、造り手を調べ、畑の写真を眺め、テイスティングノートを溜める。“質より量”の独学が半年続くころ、ワインに敬意を持って向き合えば、学びは身体に残ると確信。
江頭さんの“ワインの道”は、この間借り営業の傍ら着実に育まれていった。その後、中野のカフェバー・LOUでは、お店の立ち上げよりワインのセレクト、サーブを担当、現場での感覚を身につけた。その後、フランス研修へ。ジュラ地方の「Domaine Bornard」(ドメーヌボールナール)で、収穫や醸造など、畑仕事からカーヴでの仕事を一通り経験した。帰国後は、京都のレストラン・LURRA゜でサービスを担当。料理との相性、空間設計、所作の一つひとつまでを意識しながら、自らの接客スタイルを深めていった。その積み重ねが、いまのHOWENEにつながっている。
2024年、京都・北白川へ舵を切る。結婚を機に“暮らしと店が溶け合う土地”を探し、選んだ先が北白川だ。老舗日本料理・草喰なかひがしや、世界的なリストランテ・monkなど、伝統と革新が同居する半径500m。その余白に「音楽とワインのバー」を置くことで街の文脈を“横に広げる”イメージが湧いた。
ランニングシューズが支える「走るバーテンダー」の日常
「ギア選びで悩むより、まず走る。身体の声が聞こえてきたら、靴を替えればいい」
ランニングを始めた当初、江頭さんが選んだのはABC-MARTで最も手頃だったNIKEのエントリーモデル。
「続くか分からないことにハイエンドはいらない。歩幅を受け止めてくれるクッションと、日常着に馴染む黒――それで十分でした」
そして一足目を履き潰し、二足目に選んだのが『ナイキ(NIKE)インタラクト ラン』。踏み込んだ瞬間の“地面を掴む感覚”が決め手だった。
いまや週4回のランニングは生活のリズムを整え、ワインを味わう感覚を研ぎ澄ます。
「走って汗をかいた日に飲む一杯は、香りも酸も芯がクリアに伝わる。ランニングは接客にも、選曲にも効く“下ごしらえ”です」
口コミはゆっくりだが、確実に広がっている。近隣レストランからの紹介、Googleマップのレビュー、ランニング仲間の来店…。
「急拡大は目指していません。じわっと広がったほうが、街にとっても店にとっても健全だから」
ワインバー・HOWENEの余白をひらくのは、これからだ。
【shop info】
HOWENE
京都府京都市左京区北白川東久保田町7
営業時間 17:00〜24:00(定休日:火曜日)
※営業日、営業時間の詳細はインスタグラムでチェックしてください。
Instgram:@howene.kyoto