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「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

2026.06.02

「とにかく普通が嫌になっちゃって」

信州ブレイブウォリアーズ生原秀将選手は、高校を選んだときの理由をそう話した。県内でいちばん強い高校でも、全国大会の常連校でもない、徳島市立高校に進んだ。当時、市立高校は全国大会に出たことがなかった。普通に考えれば、強い学校を選ぶ。生原選手はそうしなかった……。

今回、選んだ一足は、ジョーダン「ブラックセメント」。中学生のときに親に頼んで買ってもらってから、31歳の今まで、靴箱に途切れずに置いてあるモデルだという。新しく2足、3足とストックして、ずっと履き続けてきた。

「このカラーしか履かないっていうこだわりがあります」

その靴の話は、父親の話と、徳島の中学・高校時代の話と、筑波で見た景色の話と、一直線に繋がっていた。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

1番も2番もポジションは状況に合わせる

今シーズン、生原選手はポイントガードとシューティングガード、両方を担っている。本来のポジションはポイントガードだが、プロに入ってからは、相手のサイズやチーム状況に応じて、1番も2番もこなしてきた。

「ポイントガードの方がボールを触る時間は多いです。高い位置から全体を見る。シューティングガードになると、横の方だったり、ボールを触る回数も少し減ったりする」

ポジションが変われば、ボールを持つ時間も、判断の種類も、立つ位置も変わる。最初は慣れるまでに時間がかかったが、今はどちらでも自分の得意なプレーが出せるようになってきた。

ひとつに固定されない働き方は、生原選手の歩み方と地続きだった。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

「めちゃくちゃ厳しくて、やめたかった」

バスケットを始めたきっかけは、父親だった。父親は社会人のクラブチームでバスケをしていて、生原選手は物心ついたときから姉と一緒にその体育館へ遊びに行っていた。そこで出会ったコーチに誘われ、ミニバスを始めた。

最初は、競技そのものが好きだったわけではない。

「めちゃくちゃ厳しくて、すごくやめたかったです。サッカーが好きだったので、サッカーをやりたかった」

それでも続けたのは、同じチームの6年生の先輩が理由だった。生原選手が1年生の頃、その先輩はチームのスターのような存在だった。なぜか自分を可愛がってくれて、2人1組の練習でも1年生と組んでくれた。

その姿を見て、バスケットはかっこいいスポーツなんだと思った。父親もNBAが好きで、選手のプレーだけでなく、服や靴、帽子を含めたカルチャーが家にあった。

「バスケットが好きというより、かっこいい人がやっているから好きになっていく感じでした」

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

競技より先に、人がいた。憧れがあった。

小学生時代に一緒にやっていた仲間たちは、中学になると強い学校へ進んだ。生原選手が進んだ地元の中学は、初心者が多く、練習試合にも勝てないようなチームだった。別の環境に行きたい、と何度も親に頼んだ。両親の答えは決まっていた。バスケットは2番目、3番目であって、勉強や友達のほうが大事。バスケットのためだけに進路を選ぶのは違う、と。

高校進学のときも同じだった。全国大会で優勝するような強豪校から声がかかっていた。学力も考えて自分なりに候補を絞った。それでも、県外はダメだ、と言われた。

「中学校3年間我慢したから、高校ではそういうところに行きたいと思っていたんですけど、ダメって言われて。もう完全にダメだって」

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

中学・高校の6年間を、生原選手は「人生でいちばん辛かった」と言う。勉強なら、成績のいい子が自分の学力に合った学校へ行くことは認められる。けれどスポーツや芸術の才能になると、同じようには見てもらえない。

なぜ、勉強なら上の環境を目指すことが自然なのに、スポーツだと止められるのか。

その問いが、ずっと残っていた。

「普通が嫌」で、市立高校を選んだ

行ける範囲の選択肢の中で、生原選手は徳島市立高校を選んだ。県内でいちばん強い高校ではない。全国大会に出たこともない高校だった。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」

そこから動いたのが面白い。生原選手は、選抜などで一緒だった同世代に声をかけ、勉強もできる選手たちを誘って、自分の進む高校に集めた。

1年生の冬、県大会で優勝。全国大会に出場し、ベスト16に入った。

行きたい場所に行けない。ならば、いる場所を変える。中学時代に得られなかったものを、高校で自分の手で作りに行った。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

大学は筑波大学に進んだ。

体育館に入って、すぐに違いがわかった。190センチ後半の選手が当たり前にいる。自分がいちばん小さい。今まで見えていたパスコースが見えない。通っていたボールが触られる。

「小学校から高校に飛び級したぐらいの差を感じました」

中学・高校の6年間で段階的に経験できなかったものが、一気に目の前に現れた。

ただ、生原選手を変えたのは、その体格差だけではなかった。

「誰と一緒にいるかで、こんなに変わる」

筑波で同じ寮や食堂で顔を合わせるのは、ハンドボール部の友人や、陸上部だった現在の妻のような人たちだった。日本のトップを目指す競技者として、毎日の練習に向き合っている人たち。

練習後に会うと、「今日の練習がダメだった」と本気でへこんでいる。日本で一番になるような人が、毎日の練習にそこまで真剣に向き合っている。

「この差なんだな」

過去の6年間を嘆いている場合ではない、と思った。今日の練習。明日の練習。目の前の一回にどう向き合うか。

「誰と一緒にいるかで、こんなに変わるんだと思いました」

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

休みの日に必ず自主練に行く友人と一緒にいた。トレーニングに行く仲間といた。食事をちゃんとする人たちについていった。引っ張られて、自分も変わっていった。

宇都宮ブレックスに進むときも、「誰と一緒にいるかで当たり前のレベルが変わる」という基準が、選択の軸になった。

サイズが合わないのに父親の靴を履いていた

スニーカーの原点も、父親にある。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

父親はNBAが好きで、靴も帽子も服も好きだった。小学生の生原選手は、父親の服を勝手に着ていた。ニックス、レイカーズ、ブルズ。サイズが全然合わないのに着る。父親の昔のピッペンの靴も、足のサイズが合わないのに履いていた。

「足のサイズも全然合わないし、父親の昔の靴とかも、とにかく履いていました」

中学生のとき、親に頼んで初めて買ってもらったのが、ジョーダンのブラックセメントだった。

学校には白を基調とした靴しか履いていけないルールだったのに、ジョーダンで行って先生に呼び出されたこともある。NikeのDUNKを自分でカスタムし、白がほとんどない靴を履いていって怒られたこともある。

その頃から、少し大きめに履くのが好きだった。父親の大きな靴を履いていた感覚。鏡で見て、ちょっと大きい方がかっこよく見えた記憶。今も、生原選手は少し大きめのサイズを選ぶ。

中学、高校、大学、プロと、ブラックセメントは途切れたことがない。新しく2足、3足とストックして、履き続けてきた。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

「このカラーしか履かないっていうこだわりがあります」

復刻のたびに買い、減れば次を出す。30年近く、同じカラーを履き続ける人は多くない。

試合前に聴くのは音楽ではなくラジオ

10代・20代の頃に聴いていた音楽について聞いたとき、返ってきた答えは少し違った。

「僕、音楽あんまり聴かなくて。中学生の時から、ラジオばっかり聴いていました」

今もそう。試合前にラジオを聴く。移動中の車でも、練習に行く道でも、ラジオを聴いている。周りの選手がイヤホンで音楽を聴いているなかで、生原選手だけがラジオを流している。

お笑い芸人が好きで、バラエティも好き。中学生の頃、勉強しながらラジオを聴いて、「ラジオってこんなに面白いのか」と思った。

音楽で気持ちを上げるのではなく、誰かの会話を聴きながら自分の状態を整える。

「そのままでいいんじゃない」

最後に、高校3年生の自分にかける言葉を聞いた。

「そのままでいいんじゃない、と言うかもしれないです」

もしそこで、筑波大学という大きな壁から逃げていたら、と生原選手は言う。違う未来があったかもしれないし、怪我をしていたかもしれない。筑波に行かなかったら、今の妻や仲間にも出会っていなかった。

そのまま進んでいい。

「とにかく普通が嫌になっちゃって」生原秀将選手と、ブラックセメントの30年『僕をつくった、あの1足。』

ブラックセメントは、新作の派手な一足ではない。中学生のときに買って、ストックを足しながら、いまも靴箱にある。

「このカラーしか履かないっていうこだわりがあります」

そう言って、生原選手は、少し大きめのサイズを選ぶのだ。

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