千葉ジェッツ・富樫選手はなぜプレーをやめた? バスケならではの試合終了間際の光景
今年3年目を迎えるBリーグ。単なるスポーツとしての観戦ではなく、チーム、会場が一体感をもって盛り上がる観戦方法が根付きつつあり、一つのエンターテインメントとして足を運んでいるファンも多いことでしょう。今回はそんなBリーグの試合で見られる不思議なシーンについて解説します。
チャンピオンシップの試合終了間際の不思議な光景
昨年度の優勝チームは、アルバルク東京。Bリーグ王者を決めるプレーオフのチャンピオンシップで、千葉ジェッツを85-60で下し初優勝を飾りました。白熱した同ゲームでは、第2クォーター終了時にはアルバルク東京が43-33とリードを奪い、さらに得点を重ね、第4クォーターには一挙に24得点。試合を決めました。
残り時間は20秒あまりとなった頃、アルバルク東京のベンチにいる選手は全員立ち上がり、勝利を確信したのか抱き合ったり、ハイタッチをして喜びを表現。まだ試合中なのに……と思っていたら、今度はコート上でも不思議なシーンが。
ボールを保持しているのはアルバルク東京。得点差がついているため、無理に攻めずにボールキープに入ります。そして、今度は千葉ジェッツの選手もそれに合わせたかのようにスローダウン。冨樫選手は両手のひらを下に向けて力をセーブするポーズ。コート上では選手同士が握手をしたり、健闘をたたえるように抱き合っていました。
そうなんです。バスケットでは、点差が離れた試合の第4クォーターでは、両チームがプレーをやめるのです。現実的に試合結果が決定している場合は、このように振る舞うんですね。これはBリーグだけでなくNBAなどを観ていても同じ光景が。
試合終了まで全力でプレーする、このことを当然と思って育った日本人にとっては、“クール”な場面を目の当たりにすることになるのではないでしょうか。
NBAやBリーグでおなじみの光景でも、日本の大学以下は違う
「日本における大学以下のゲームでは、このような光景は見られない」
と、こう解説してくれるのは、千葉ジェッツふなばしヘッドコーチの大野篤史さん。大野さんは自著『ボールマンがすべてではない バスケの複雑な戦術が明らかになる本』で、この特殊なシーンに触れています。
「大学以下のチームでは、目標として『ゲーム終了まで全力を尽くす』といったことが掲げられているからだと考えられる。また、こうした場面で出場しているプレーヤーは接戦のゲームでは出場する機会の少ないプレーヤーが多く、より多くの実践経験を得るためにはゲーム終了まで全力を尽くしてプレーすることが必要になる」
とのこと。大学以下では全力でプレーする明確な目標があることが理解できます。一方で、トップリーグでは、もう少し視点をあげてゲームと向き合っているのです。全力プレーはもちろんのこと、トッププレイヤーだからこその命題があるのです。
スポーツファンにとっては、最後まで全力プレーが観たいという意見もありますが、冷静に考えると、選手やチームにとっての最終目標はリーグ優勝。そんな中で、勝負が物理的に決まってしまっている残り数秒のプレーで大きなけがあっては大変。目指すべき大きな目標や、毎試合高いパフォーマンスで観客を魅了するということができなくなってしまいます。
大切なのは勝負が決まってしまった残り数秒の全力プレーではなく、そこまでの過程の部分。試合当日までのコンディション・モチベーション・戦術理解と十分な準備を行い、全力で第4クォーターまで戦いきったからこそ、相手の勝利を受け入れることができ、健闘を称えることができるのです。
Bリーグでは、試合が決していても最後まで攻めて、守る試合もありますが、多くの試合で、こういったシーンを見ることができます。他のスポーツではなかなか見ることのできないシーン。ぜひ、会場で目の当たりにしてみみませんか。紳士としてふるまうバスケット選手もまた、魅力的ですよ。