「商談の場では革靴より評価されることも!?」ニューバランス「990 v5」【フェリシモ・矢野雄大】
英語で交差点を意味する「CROSSROAD」。
様々な分野で一直線に邁進するプレイヤーの「ターニングポイント」を振り返る本企画。そのポイントの以前・以後では何が変わったか。そして、変わらずに足元を支えていた“相棒”とも言えるスニーカーについて語る。
女性向けブランドに「男女でシェア」できる商品を
今回、登場するのは、通販会社「フェリシモ」(神戸市中央区新港町)で商品企画・店舗運営を担当する矢野雄大さん。実店舗を運営することで、通販だけでは提供できなかったリアルな顧客体験を実現している。
矢野さんが担当している店舗は、エキュート上野(東京)、クリスタ長堀(大阪)、天神地下街(福岡)の3店舗で、これまでは通販でしか買えなかった商品を実際に見て、触れて、試着できる場所として機能している。商品の質感やサイズ感を直接確かめられるということで、人気は上々だ。
「リアルの店舗で商品を見られるというのは、普通なら当たり前のことですが、通販会社のフェリシモではこの機会を使って新たな価値化を実現しています」と矢野さん。
フェリシモの店舗には、カタログやウェブサイトで事前に情報を見た方に加えて多くの一見さんが訪れるが、その場で商品を見て購入できるため、インバウンドの顧客や、通販での購入が難しい子供やお年寄りにも対応できる。クリスタ長堀の店舗ではインバウンドの顧客が4割を占めるほど、客層は通販と全く異なる。
フェリシモに新卒で入社した矢野さんは、今年で18年目を迎える。入社当時はファッション事業部で生産管理業務を担当し、商品企画にも携わってきた。その後、30歳を前に、雑貨事業部へと異動することに。
「ファッションが好きで入社したので、雑貨は正直興味がなく、異動はめちゃくちゃ嫌でした(笑)。最初に担当した商品は特に女性向けのものばかりで、当然自分が欲しいと思うものがなかったんです。そこで、家族全員が使える商品の開発に目を向けて、会社としての価値も高めることを目指しました」
入社10年目に男女兼用の雑貨ブランド「USEDo(ユーズド)」を立ち上げた矢野さん。当時、40人が所属していた雑貨事業部だが、男性の企画担当者は矢野さん一人。立ち上げは容易ではなかったが、男性向けとアプローチするのではなく、「シェアできる」というキーワードを軸に、男性と女性の両方がハッピーに使える商品として提案することで共感を得た。お客さんにインタビューしたところ、「息子に買いました」「旦那さんと一緒に選んでいます」など、矢野さんの目指していた手応えを感じられたそう。
部署が変わっていくなか、どんな環境でも課題を見つけて邁進する矢野さん。その原動力はどこから来るのだろうか。
「僕はいろんなことにアンチの姿勢なんです。何かを良くするのって、文句言える人じゃないとできないと思うんです。批判的な視点がないと、現状維持になってしまうから」
現在、矢野さんはリアル店舗を運営する部署に所属しており、猫の雑貨や動物のぬいぐるみなど、以前とは異なる商品を担当している。ここでの経験が矢野さんにとってターニングポイントとなった。
「自分の欲しいものとお客様の欲しいものは違うということに気付きました。自己中心的に商品を企画したものは求められない。それは自分の価値観の押し付けであり、今は客観的に商品を見て、それをどう売るかというステップに入ったんです」
また、矢野さんは地域に合わせた商品展開や店舗限定商品を開発し、お客さんの潜在的なニーズを掘り起こすことに力を入れている。例えば、上野は上野動物園があるから「パンダの商品」で、大阪はインバウンド客が多いため「漢字の商品」など。通販は全国民がターゲットだが、これはリアルな店舗ならでは。「今はお客様の潜在意識と自分のお気に入りの部分、最大公約数で重なるところを見つけ、そこにアプローチしています」とのことだ。
TPOを選ばず一番疲れないスニーカー
職業柄、全国各地を歩き回る矢野さんが愛用するスニーカーは、ニューバランス「990 v5」。「いろんな靴を試したけど、990が一番疲れないんです。履きやすくて、クッション性もあって、包まれる感覚があります」とその魅力を語る。
990は「1000点満点で990点」というところから名付けられた、ニューバランスを代表する人気シリーズ。優れた耐久性と履き心地の良さが評価されており、矢野さんもその魅力に惹かれている。
「ニューバランスのスニーカーは、商談に履いていっても許される不思議な立ち位置にあります。下手に革靴を履くより評価が高いこともあるんですよ」
靴が破れるまで愛用しているが、まだ手放すわけにはいかないようだ。破れてもなお醸す気品に矢野さんは惹きつけられる。いつ廃盤になっても困らないように、同じモデルのスニーカーをストックしているようだ。「いいものをちゃんと身につけたい。一言でまとめると、落ち着いてきました。素材感とサイズ感をかなり無理しなくなりましたね」と語る。
矢野さんは仕事とプライベートでファッションを使い分けている。「会社では動きやすく、清潔に見える服を着るようにしています。色はブルーやグレーのワントーンで、トップスは必ず襟付きのシャツかポロシャツ、パンツは無地で素材感のあるものを選んでいます」とのこと。
プライベートでは打って変わって、ジーパンにTシャツといったアメカジスタイルを好む。20代の頃にハマったバブアーやベルスタッフなどの英国ブランドも、年齢を重ねて板についてきたそうだ。
「“オシャレコーディネート”っていうものがあまり好きではなくて。こうやったらオシャレに見えるというのはハウツーであって、ファッションはその人の個性がちょっとずつ見えるものであってほしい。スニーカーにしても、“流行ってるから買う”という傾向があるように感じていて、流行より自分の好きを大切にしたい」
実店舗で、顧客目線で欲しいと思える商品の並べ方や、ポップの作り方に工夫を凝らしている矢野さん。
「もう一度、家族みんなでシェアできる、または性別問わずシェアして使えるブランドを通販ベースではなくリアルベースで作りたい」と展望を語る。商品企画と店舗運営、通販とリアルの両面を見てきたことで磨かれた目が輝く。新しい価値を生み出すその一歩に、目が離せない。