カウンターカルチャーな姿勢で集める“手仕事”。支える足元にはコンバース「オールスター ハイ」【LIFE IN THE GOODS.・羽田裕行】
英語で交差点を意味する「CROSSROAD」。
様々な分野で一直線に邁進するプレイヤーの「ターニングポイント」を振り返る本企画。そのポイントの以前・以後では何が変わったか。そして、変わらずに足元を支えていた“相棒”とも言えるスニーカーについて語る。
ヨーロッパで価値観が変わり、手仕事と自分に向き合うように
今回、登場するのは、手仕事を集めたギャラリーショップ「LIFE IN THE GOODS.(福岡県福岡市中央区大手門)」の店主・羽田裕行さん。羽田さん自身が本当にいいと感じた全国の作家の作品を、陶磁、木、ガラスの器を中心に扱っている。
「LIFE IN THE GOODS.」が誕生するまでの経緯は、羽田さんの大学生時代にまで遡る。
「大学生時代はレコード屋でレコードを漁ってクラブでDJをして、百貨店のハイブランドのお店で店員さんと喋り服を買う、といったことをライフワークにしていました。クラブは大学とはまた違ったコミュニティで、音楽だったりカルチャーにアンテナが高い人たちが集まるので、その空間ならではの面白さがありましたね」
DJをするようになったのは、福岡でイギリスのロックバンド・ブラーが来日公演を行ったことがキッカケ。開演前に会場内で流れていたテクノ音楽に衝撃を受け、大学の先輩に話してみたところ、それらの音楽が無数に並ぶレコード屋に連れて行ってもらったそう。そこでアンダーグラウンドな音楽の良さに気づき、レコードを買うようになり、どうせならとミキサーとターンテーブルも買い揃えた。
「金利手数料のことなんて考えずに、24回分割払いで買いました(笑)。ハイブランドが好きだったので、分割で買うことにまったく躊躇がなかったんですよね。大変と言えば大変だったけど、DJは今も続くライフワークで、いい洋服のデザインや生地についても知れたし、財産になったと思っています」
大学卒業後は大型書店に就職した羽田さん。10年のキャリアを築いた書店員時代の最中に、フランスのマルセイユにあるクラブから、現地に住む日本人の友人を通じてDJのオファーが来たそうだ。早速ミックスを送ってみたところ気に入られ、現地でのプレイが決定。しかし、連休を取るのが難しかったため、書店を一度退職することに。そして、ヨーロッパ滞在中に価値観が大きく変わったんだそう。
「日本人は周りに自分がどう映るか気にしてる人が多いけど、海外の人たちはそれよりも自分がどうしたいかを大事にしていて。音楽やファッションって自分の意思表示・表現であり、第二の皮膚とも呼ばれていて、他者からどう映るかというのが一側面としてあると思うんです。そこに全部の価値観を見出していたことに気がつきました。そして、『家の中は誰にも見られないからなんでもいい』と思っていたのを嫌だと思い始めたんです」
自己完結のものを一つ一つちゃんと選んでいくことによって、自分の価値観、心そのものが澄んでいくような気がしたと言う。本当に自分が納得いくものを選んでいった先に、手仕事の良さに行き着いた。
そして、34歳でギャラリーショップ「LIFE IN THE GOODS.」をオープン。当時、福岡には手仕事を扱うギャラリーがあまりなかったことも、自分でお店を始めようと思ったキッカケの一つだそう。29歳の時にヨーロッパを旅し、34歳でお店をオープンするまでの間に、自分の価値観を見直し、拡張した。
「今も変わらず洋服も音楽も好きですし、DJも続けていますが、プラスαで家の中のものや触れるもの全てを『自分はこれが使いたいんだ』という、ちゃんと気持ちが乗ったものを選んで買うようになりました。価値観や美的感覚を育む、アップデートするという意味でも、適当ではなくきちんと選ぶほうがいい」
羽田さんが主に扱う手仕事は器。その魅力を次のように語る。
「料理を食べ終わった後にお皿の見込(内側の部分)を見て、ひと景色楽しんだり、ガラスや木のザラザラやツルツルに触れて、自分の五感をちゃんと動かしたり。そういうものが手仕事ならではの大事な要素。次第に手仕事を紹介したいという気持ちが湧いてきて、今に至りますね」
羽田さんが手仕事にこれほどまでに魅了された原体験について、尋ねてみた。
「僕は幼い頃、転勤族で行く先々でうまく馴染めなかった。楽しそうな同級生たちを見て、教室の端っこで羨ましがってました。でも、だんだんと自分は自分の信じることで前に進んでいこうと、幼いながらに思えるように。だから音楽もアンダーグラウンドなものが好きだし、手仕事も同じで、大衆の輪から弾かれたことに対するカウンターみたいなところがあって。手仕事は擬人化すると仲間みたいなもの。自分で孤独を獲得しているつもりだけど、やっぱり寂しいって思っているところもあります。でも手仕事が自分の空間にあることで、心強く背中を押してくれるというか」
羽田さんが集める手仕事の共通点は「簡素なもの」だと言う。過剰な装飾がなく、グラフィカルな要素もないシンプルなものばかりだ。
「五感って、自分が能動的になにか得ようという意識がないと動かない。それこそシンプルなものであればあるほど、自分がそこに向き合っていかないと何も出てこない。自分はここから何を感じるかっていうところに面白さがあると思っていて」
足元から背中を押してもらってるみたい
羽田さんの足元を支える相棒は、コンバース(CONVERSE)のオールスターハイ。
「コンバースに関して、頭に焼き付いてる光景があって。大学生の頃に見ていたテレビ番組『ファッション通信』。その中で、ファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスが、自分のコレクションが終わり最後にランウェイへ挨拶しにくる時、チャコールグレーのスラックスにオールスターハイを履いていたんです。その姿がめちゃくちゃカッコよくて、惹かれて、コンバースを買うようになりました。それが原点です」
ほかにも、ラフ・シモンズが98年ごろのコレクション時に、黒い紐を通した黒コンバースなど、独自のファッションを披露したことも、同じく印象に残っているんだそう。
「僕はやっぱりローじゃなくて、ハイ。裾を溜めてもいいし、クロップドっぽくして履いてもいい。ハイカットならではの靴下を見せない安心感もあって。紐は必ず細いものに変えています。太い紐だと、紐の存在感で靴が真っ白に見えるのが嫌で。あとは全ての穴に紐を通してピタッと履くのもこだわりです」
店舗に立つ時は基本的にオールスターを履いている羽田さん。カラーはブラックかホワイトのみ。かかとがすり減るまで履き潰すため、半年に1回ほど買い替えているそう。ファッション業界を牽引してきたマーク・ジェイコブスとラフ・シモンズに背中を押してもらってるみたいだと、大学生の頃よりコンバースを愛用し続ける理由を語る。
「でも、コンバースは履けばいいってものではないと思っていて。その人の人間性や通ってきたカルチャー、そしてどんな服を着ているかによって、腑に落ちるものだと思うんです」
背景に人となりがあってこそ生きる靴。羽田さんのこの考えに、手仕事との共通点を見つけた。
羽田さんはお客さんとの素直な対話を大切にしている。ギャラリーに足を運ぶ人の口から溢れるのは「家の中のものをちゃんと選びたい」ということ。その思いに対して、いいことだけを言わないようにしていると言う。それは思ってもいない、好きでもないことを言ってものを売ることは無責任だという考えから。
「マスへのカウンターのような活動をしていくことが自分の生き方。多くの人がいいって言うものが本当にいいものとは限らないですし、たとえひとりでも大丈夫だよっていうことを、手仕事を通じて伝えていきたいです」
価値観や感性を大切にすることはきっと、自分自身を大切にすることなのだろう。内なる自分と向き合いたい人は「LIFE IN THE GOODS.」に足を運んでみると、何かヒントがあるかもしれない。