小学生から決めていた美容師の仕事。PARK中津店・河野悠利の足元にあったVANS
シューズには、その人の“らしさ”が出る。何を選ぶかより、なぜそれを履き続けているのか。その理由をたどっていくと、仕事のこと、育ってきたカルチャーのこと、いま大事にしている価値観まで見えてくる。
今回話を聞いたのは、大阪・中津のヘアサロン「PARK中津店」で働く美容師、河野悠利さん。選んだのは、VANSのオーセンティック。一見するとシンプルな1足。けれど河野さんにとっては、ただの定番スニーカーではない。小学生の頃にスケートパークで見て憧れ、自分で「これが欲しい」と思って買った最初の靴の記憶にもつながっている。そして今もなお、古着や日々のスタイルに自然と馴染み、現場でも履き続けている。
話を聞いていくと、このシューズは河野さんの足元を支えてきただけじゃない。美容師としての感性や、カルチャーとの距離感、そのものに近い1足だった。

小学生の頃にはもう美容師になりたかった
河野さんが美容師を目指し始めたのは、かなり早い。きっかけは、小学生の頃に憧れていたヘアスタイルだった。当時は、襟足が長くて、少し派手で、いわゆるギャルっぽいスタイルがかっこよく見えた。美容室に行けばその髪型になれる。そう思って通い始めた場所が、だんだん特別な空間になっていったという。
髪型を変えてもらう楽しさ。美容師さんのかっこよさ。自分の髪を触ることそのものの面白さ。その全部が重なって、小学生の頃にはもう「美容師になりたい」と親に話していた。しかも、自分だけで終わらない。友達の髪をセットしてあげたりしながら、自然と“髪を触る側”にも興味が広がっていった。
この原体験は大きい。職業選択というより、もっと感覚に近い。美容師が向いていそうだった、ではなく、美容室という場所がもともと好きだった。その違いは大きいと思う。ギャルからスケーターへ。

好みが変わっても切れなかったカルチャー
その後、中学ではサッカーに熱中する。一時は髪への意識が薄れた時期もあったが、カルチャーへの興味自体が消えたわけではなかった。河野さんの父親は、スケボーやBMXのようなストリートカルチャーが好きだったという。その影響もあって、中学の頃には地元のスケートパークへ通うようになり、見るものが変わっていく。海外のスケーター、古着、雑多で作り込みすぎていないスタイル。小学生の頃に憧れていた派手な“かっこよさ”から、もう少しラフで空気感のあるものへと、自分の感覚も移っていった。
この変化は、そのまま今の河野さんの仕事にもつながっている。ただ整っているだけではなく、少し余白があること。作り込みすぎず、その人の雰囲気が残ること。そういう美意識は、たぶんこの頃から育っていた。
技術だけじゃない。美容学校で身につけたもの
高校卒業後は、そのまま美容学校へ。大阪・難波のグラムールに進んだ。河野さんの話で面白いのは、美容学校時代を“技術修得の時間”としてだけ語っていないことだ。もちろん学校だから技術も学ぶ。けれど、それ以上に印象に残っているのは、人との出会いだったという。
地方から出てきた人、大阪で育った人、感覚の違う人たちが一気に集まる。それまで大阪の中だけで暮らしてきた河野さんにとって、その交差はかなり刺激的だった。授業そのものより、人と喋るのが面白かった。美容師は技術職であると同時に、人の仕事でもある。どんな空気を好むか、どんな人と話してきたか、その蓄積が接客や提案の幅に出る。実際、今も美容師として残っている同級生は多くないという。だからこそ、今も続けている数人とは話が濃い。単なる同窓生ではなく、同じ仕事を続けてきた者同士としてつながっている。

アシスタント時代は成長の実感が見えにくい
河野さんの人生のターニングポイントはどこか。そう聞いた時に返ってきたのは、スタイリストデビューの話だった。美容師という仕事は、アシスタント期が長くてきつい。給料は低い。拘束時間は長い。遊びたい年齢なのに、仕事にほぼ一日を持っていかれる。そのうえ、技術職だから得意不得意もはっきり出る。頑張っているのに、自分に何が積み上がっているのか見えにくい。
実際、多くの人が辞めるのもこの時期だという。でも、あとから振り返ると、その時間がちゃんと効いていたことがわかる。接客、気遣い、営業の流れ、技術、周囲の見え方。スタイリストとして一人でお客さんに向き合うようになった時、アシスタント時代にやってきたことが全部つながってくる。

ここはかなり本質的だ。人は、成長している最中にその価値を実感できるとは限らない。むしろ、見えない期間の方が長い。河野さんの話は、その現実をかなり正直に語っている。
仕事とプライベートが分かれないスタイリスト
河野さんは23歳頃にスタイリストデビュー。そこから仕事の見え方が大きく変わった。自分を求めて来てくれる人がいて、その人の髪を切る。そのシンプルなことが、めちゃくちゃ楽しかったという。
同時に、プライベートとの関係も変わった。それまでは、仕事は仕事、休みは休み、と切り分けていた。けれど、スタイリストになってからは、古着屋に行くこと、本を見ること、人と出会うこと、その全部が仕事にも返ってくるようになった。
この感覚は、今のPARK中津店の空気ともよく合っている。PARKは、技術だけじゃなく“感度”でつながる場所河野さんは現在、PARK中津店で働いている。最初に驚いたのは、スタッフ同士の距離の近さだったという。
みんな個性は強い。好きなものもそれぞれ違う。でも、不思議と向いている方向は一緒。かっこいいもの、かわいいものをちゃんと作ること。お客さんと壁を作りすぎず、でも美容師としての距離感も持つこと。店の中だけで完結せず、お客さんも巻き込みながら、イベントや日常が続いていくこと。つまり、ここでいう“いい美容師”は、技術だけでは成立しない。

何を見ているか。どんな服を着ているか。どんな本を読んで、どんな人と会っているか。その感度まで含めて、美容師としての魅力になる。河野さん自身も、そこに強く共感している。
メンズを主軸にしながら、ファッションやカルチャーへの関心が高いお客さんを大阪で集めていきたい。その方向性が、自分の目指すものと重なったからだ。
VANS「オーセンティック」は感性の原点に近い
そんな河野さんが選んだのが、VANS「オーセンティック」だった。理由は明快だ。小学生の頃、スケートパークで大人たちがみんな履いていて、「この靴かっこいい」と思ったから。そして実際に、自分で欲しいと言って買った最初の1足でもあった。

たぶんABC-MARTで買ったと思う、と笑っていたのも印象的。スケーターにVANSが好まれる理由についても、河野さんの答えは実感ベースでわかりやすい。フラットで、バランスが取りやすく、価格的にも手が届きやすい。歩きやすさだけに寄せていないところが、逆にいい。そういう道具としてのちょうどよさがある。
今でもオーセンティックはかなり履いているという。4足、5足と増え、黒の1足は履き潰しすぎて元の色が抜けたほど。

でも、古着が好きだからこそ、その“育った感じ”も嫌じゃない。新品のきれいさより、使い込まれて出る雰囲気を面白がれる感覚。それは服にも、美容にも通じている。
時間が乗っているから古いものが好き
河野さんは古着も好きだし、映画なども含めて古いものに惹かれるという。ヴィンテージ加工ではなく、本当に昔から残ってきたものを着たい。古着にしか出せない雰囲気がある。そう話していた。
この感覚は、ヘアの仕事にもつながっている。休みの日にはアートブックや写真集を見る。海外のポートレートや、昔のアメリカの写真集もよく手に取るという。髪型そのものを見るだけじゃない。シルエット、空気感、人物の見え方。そういうものを見ながら、日本人の髪質でどこまで寄せられるかを考えている。

完コピではない。でも、雰囲気を翻訳することはできる。その目線は、明らかに美容師としての武器と言えるだろう。


