「コーヒーとカレーは通ずるものがある」原点はヴァンズ「オーセンティック」【EATS IN SPACE・与那覇至】
英語で交差点を意味する「CROSSROAD」。
様々な分野で一直線に邁進するプレイヤーの「ターニングポイント」を振り返る本企画。そのポイントの以前・以後では何が変わったか。そして、変わらずに足元を支えていた“相棒”とも言えるスニーカーについて語る。
古着を買い付けに行ったアメリカで、コーヒーに目覚める
今回、登場するのは、「EATS IN SPACE(山梨県甲府市古府中町)」の店主・与那覇至さん。アメリカ一人旅やコーヒー屋での経験を活かした一杯と、オリジナリティ溢れるスパイスカレーが人気のお店。
与那覇さんは沖縄県宮古島出身。宮古島には大学がなく、高校卒業後の進路は島に残って仕事をするか、島を出て進学または就職するか。与那覇さんは東京の大学に進学し、卒業後は家具屋に就職するはずだったが……。
「趣味のスケボーで肩を脱臼する大怪我をしてしまって。1ヶ月ほどリハビリが必要だったんですが、その間に内定が取り消されてしまったんです。親に心配をかけたくなかったので、再び就活をして、CM制作会社に勤めることになりました」
毎日スタジオに籠り続け、朝も夜もわからなくなる経験を通じて、精神的に鍛えられたという。しかし、本当にやりたいことに向き合った結果、23歳で制作会社を退職することに。
「古着がすごく好きだったので、古着屋さんになることを夢にしました。それに向けて、全米最大級のローズボールというフリーマーケットを訪れることを目標に、1年間アルバイトを掛け持ちして貯金をしました」
そして、24歳でアメリカへ。せっかくなら思い出に残ることをということで、世田谷・奥沢にある行きつけのオニバスコーヒーで買ったコーヒー豆1キロも持参。旅先のスケートパークやビーチでコーヒーを淹れて人々に振る舞い、地元の情報を教えてもらったりして交流を深めていったそう。
「アメリカ旅は充実していて、ローズボールにも行けたんですが、途中で夢が変わってしまいました。古着もいいけど、コーヒーのほうが面白い。自分が淹れたコーヒーを目の前で『美味しい』と言ってもらえて、それをきっかけに距離も縮まる。日本に帰る頃には、コーヒー屋さんに勤めることを決心していました」
コーヒーは旅を豊かにするだけでなく、与那覇さんにとって人と人を繋ぐ特別なものになっていた。
そして帰国後、オニバスコーヒーに履歴書を持って訪れ、同系列の渋谷にあるアバウトライフコーヒーで働き始めた。3年後、同じ宮古島出身の奥さんと地元に帰るか、東京に留まるか迷ったが、最終的に選んだのは山梨だった。友人を通じて何度か訪れていた土地で、移住という壮大なプロジェクトというより、八王子の向こう側になんとなく引っ越してみる感覚で。
「28歳で山梨に移り住み、アパートで暮らした1年後、自然に近い生活に憧れがあったので、甲府の古い一軒家を購入してコツコツ直しながら住み始めました。山梨では、同じく甲府にあるAKITO COFFEEで3年ほど勤めて、街中よりも自然豊かな場所が性に合ってるのだと気がついたんです」
そして31歳で独立し、「EATS IN SPACE」をオープン。今ではコーヒーだけでなく、スパイスカレーも販売し人気を集めている。
「コーヒーは、豆のブレンド、粉の粗さ、お湯の温度など細かいレシピで味が変わります。カレーも食材の組み合わせやスパイスの調合で味が変化するので、コーヒーに通ずるものを感じて、お店での提供を始めました。カレーは月1のペースでメニューを変えていて、山梨のいろんな美味しいレストランで食べた料理、たとえばマルゲリータピザから着想を得たり、地元沖縄のシークワーサーを加えてみたり」
新たなテーマ、そしてメニューを思いつき、プラスするもマイナスするも、時間をかけて一つのカレーを完成させる。コーヒーと同様、それを「美味しい」と言ってもらえた時に一番のやりがいを感じるんだそう。
15年間、唯一手放さなかったスケートボードシューズ
そんな与那覇さんを足元から元気づけるのは、ヴァンズ(VANS)のオーセンティック。
「これは20歳ぐらいの頃に買ったので、もう15年ほど履いてますね。昔から70年代とかの古いヴァンズが大好きで、大学時代からずっと集めてたんですが。自転車やバイク欲しさでほとんど手放してしまった中で、これだけは手放さず大切にしてきました。足元を見て『カッコいいな』と気持ちが健康でいられるのは、やっぱり赤のオーセンティック」
ヴァンズを愛するのは、自身のライフスタイルであり原点でもあった、スケーターたちに愛用されていたというエピソードも関係している。
仕事着は、ヘインズの白Tにリーバイスのデニム。飲食業のため、毎日コーディネートを考えることはなくなり、これを着ていたら間違いないという安定感を重視。「デニムと白靴下とヴァンズ」がお気に入りの組み合わせなんだとか。
「ぜひお店に遊びに来て、だらだらと過ごしてもらえたら嬉しい」と与那覇さん。EATS IN SPACEの内装は、東京で内装の大工をしていた奥さんのDIY。昼と夜とでまた違った顔色を見せてくれる。
お店のテーマは、「自分ができることを無理せずコツコツと」。
「あのとき怪我をしてよかった」と、過去を明るく振り返る与那覇さん。紆余曲折あった彼の人生が詰まったこだわりの空間は、どんな自分の選択も包み込んでくれる温かさに溢れている。