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ファッション&ライフスタイル

“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

2017.12.01
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“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

2017.12.01

先日発売されたナイキ創始者フィル・ナイトの自伝『SHOE DOG―靴にすべてを。(東洋経済新報社発行)』。一人の男の歴史を振り返る本書は、その一癖もふた癖もあるフィル・ナイトの個性的なスタイルが驚きと注目を呼び、多方面で話題となった。今回は『東京スニーカー史(立東舎発行)』の著者であり『ナイキ(NIKE)』への想い入れも深い小澤匡行さんにナイキについて、そしてナイキとの関わりを独自の視点で紐解いていただいた。

“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

小澤匡行 おざわ・まさゆき
1978年生まれ、千葉県出身。大学在学中に1年間のアメリカ留学を経て2001年より雑誌『Boon』にてライター業をスタート。現在は編集・ライターとして雑誌やカタログなどで活動中。2016年に『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。12月22日に日本語版を監修した「SNEAKERS」(スペースシャワーネットワーク発行)が発売。Instagram:@moremix

泥沼でも成長を止めなかった、ナイキの歴史

 ナイキとは僕を含め多くの人にとって、そのシューズの歴史が社史そのものです。しかし既にある多くの書評の通り、この本は経営者の自叙伝です。シューズマニアが欲しているナイキの情報はコルテッツ<CORTEZ>とワッフルトレーナー<WAFFLE TRAINER>、LD-1000のちょっとした逸話くらい。ナイキという大会社が、前身のブルーリボンスポーツ社を、その設立前にどう身を削って乗り切ったかを描いたビジネス書。しかし著者の言葉を借りれば“ビジネスという無味乾燥で退屈なスローガンに押し込めるには無理がある”くらい、スリリングで臨場感豊かに描かれています。
 1971年にコルテッツが、1972年にブレーザー<BLAZER>やブルーイン<BRUIN>が、1976年はLD-1000が誕生。1979年に初めてエアが搭載されたテイルウィンドウ<TAILWIND>が開発されました。読み手の頭で整理されているプロダクトの進化を辿りつつ、著者であり創設者のフィル・ナイト氏の生々しい感情や俗物的な言葉と重ね合わせると楽しく読めます。ドルの下落が日本円に対して負のスパイラルになったことで、製造基盤が台湾、韓国へと移って日商岩井から紹介された日本ゴムの生産が難しくなりました。そのおかげで私たちはナイキを知り、存在が身近になると同時に、日本製のナイキを履けなくなったという必然のストーリーを読み解くことで、学生時代にBOONで学んだ“日本製ナイキの宝物感”の理由がすっきり明白になりました。

“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

ナイキのヴィンテージにはまったきっかけは、のちに自分が携わることになったBOONに出会ってから。高校生の頃に発売されたスニーカーのムック本は今でも貴重なバイブルです。

 この本は1980年までの話ですが、それ以前のナイキのシューズを僕は90年代にヴィンテージで買っています。日焼けしたソールや色落ちしたスウェードがとても輝いて見えていましたが、当時のナイキの経営はこの500頁を超える長編ビジネス書を読む限り、とても輝いたものとは言えません。輸入販売していたオニツカとの錯綜や銀行の契約不履行、政府との裁判沙汰など、むしろ泥沼に浸かりながら売り上げを伸ばしている。そのストレスは、想像の範囲外のことと思います。
 このように茨の道を歩みながら世界で24番目の金持ちになった(2016年のForbesより)偉大な経営者から何かを参考にするなど、僕のような一介の編集者にはありませんが、真似したいことが一つあるとすれば“6マイルを定期的に走っていること”でしょうか。フィル・ナイト氏はそのランニングを「困難な日々の救い」と回想しており、文中に5回は「6マイルのランニングを〜」と書くくらい大切な日課だったと想像できます。どれだけ忙しくても、自分が自分であるために走る。仕事の大きなヒントを得た気がします。

“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

2017年3月のAIR MAX DAYに向けて発売されたエア マックス1<AIR MAX 1>のムービー広告「Return Of the 1」に2秒くらいですが出演する機会に恵まれました。そのお礼にと贈られた非売品です。

ナイキと出会ってから今まで、惹かれ続ける理由

 ナイキとの関わりは1991年です。中学1年生の真面目な僕はバスケットボール部に入部し、先輩の許可が下りるまで白の布製バッシュを履くという厳しいしきたりに何も不満を抱くことなく、30人ほどいた新入部員の半数に混じってアシックスタイガーのバッシュを購入しました(もう半数はコンバースのオールスター)。しかし小学生の頃にアメリカに住んでいた同級生Sだけがナイキの革製のローカットを「家にあるから」という理由で履いてきたのです。白赤であったことが救いでしたが”契約違反の革バッシュ”、それがナイキの印象でした。しかもその後すぐに部活を辞めてしまった素行不良のNはあろうことかエア ジョーダンV<AIR JORDAN V>を履いてきました。彼らによって秩序を乱すというブランドイメージが僕の中で育まれたわけですが、あながち間違ってはいませんでした。NBAで使用を禁止されたナイキのバッシュ契約者であるマイケル・ジョーダン、テニスならジョン・マッケンローやジミー・コナーズ、ランニングならスティーブ・プリフォンテーンなど、思い返せば、ナイキは創立時から常に品行方正とは真逆なスターに華を感じて靴を履かせてきました。当時はそんなことを知る由もなかったですが、覚悟を持って履く靴、それがナイキであることは時代が教えてくれました。ちなみに僕が最上級生になって購入したナイキの革バッシュはエア フライト ハラチ<AIR FLIGHT HUARACHE>。部活仲間のKがナイキジャパンに知り合いがいるから、という理由で安く買ってきてくれました。僕のポジションはセンターでしたが同じポジションだったSはデビッド・ロビンソンが着用していた重厚なエア バリスティック フォース<AIR BALLISTIC FORCE>を買っていたので、軽量性を重視したハラチを激しいゴール下で履くことに心許なさを感じていたものの、走ることが好きだった僕はそれを引退まで履き続けました。

“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

ナイキに本格的に興味を持ったのは14歳の頃。当時は月刊バスケットボールや陸上競技マガジンが情報のすべてで、購読して知識を深めていました。右はムック本の『バルセロナオリンピック・ガイド(日本文化出版発行)』。クリスチャン・レイトナーが履いているのがエア フライト ハラチ<AIR FLIGHT HUARACHE>です。

 並行して競走部に属していた僕が、最初に履いたナイキのランニングシューズがエア ハラチ<AIR HUARACHE>。これは先輩Nが履いていました。1992年のこと、当時3キロで9分台を出すことに必死だった僕は、レース時こそアシックスのソーティライトでしたが、キロ3分45秒のペース走や軽いジョグでハラチに履き変える行為がクールに映ったのです。速く走るためのアシックス、カッコつけたいナイキ。バスケットでも陸上でも、この認識は変わりません。駅伝シーズンには毎月購入していた陸上競技マガジンの通販ページに載っていたエア マックス93<AIR MAX 93>などを指をくわえて見ていた記憶が蘇ります。

 高校生になった僕は、当時トレンドだったヴィンテージ服を購入するようになります。埼玉県草加市のフラフープという古着店で見つけた、白に赤スウッシュのブルーイン(¥28,000)。風車ロゴのトップスと合わせたかったのですが、お金がなくオレンジスウッシュ(’70年代製)のウィンドブレーカーや青タグ(’80年代製)のジャージーを買い、自分を納得させていました。その頃からずっと感じていたナイキの魅力はファッション性です。いつの時代も最新トレンドの足元に、ナイキは必ずありました。ミレニアム期から2000年代半ばまで、何百足買ったか把握できないエア フォース1<AIR FORCE1>やダンク<DUNK>も希少性と洋服との親和性を同レベルに感じていたからこそ心酔できたと思います。その気持ちは、今もずっと変わっていません。

“覚悟を持って履く靴、ナイキ”。小澤匡行がナイキ創設者フィル・ナイト自伝『SHOE DOG』を読み解く。

2017年一番のお気に入りはOFF-WHITEのVIRGIL ABLOHとナイキのコラボレーション。最新のランニングシューズが好きなのでナイキ ズーム フライ<ZOOM FLY>を購入。

 ナイキを買い始めてから25年以上が経ちましたが、今は新しいものが一番気になります。最近ではヴァージル・アブローがデザインしたTHE 10 ナイキ ズームフライ<THE TEN NIKE ZOOM FLY>が印象的でしたね。中学生の頃からスポーツとファッションの両面でナイキと向き合ってきたからこそ「歩きやすい!」「今っぽく見える!」など、履くことで感じられるイノベーションを楽しみたいと考えています。それは常に進化するブランドへのリスペクトであると、僕は思うんです。

PHOTO/TEXT:Masayuki Ozawa
LEAD TEXT:DOOR Editor K

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ABC-MART×SHOES DOG ABCマートスタッフのインタビューをチェック

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