“アウダに会うだ”でチームもファンもご機嫌に!【Bリーグ広報のてまえみそ<横浜ビー・コルセアーズ編>】
横浜市都筑区がホームタウンの横浜ビー・コルセアーズ。Bリーグ開幕から3シーズン続けてB1残留プレーオフに出場するも、どのシーズンも奇跡的な残留劇でB1にとどまっています。今シーズンは若手を中心に選手補強を行い、フランスで指揮をとったカイル・ミリングヘッドコーチを招聘して新体制で戦っています。シーズンスタートから怪我人に悩まされましたが、第7節からはロバート・カーター選手、生原秀将(いくはらしゅうすけ)選手がジョインし、第8節では待ちわびたホーム初勝利をおさめました。
横浜には、横浜DeNAベイスターズ、横浜FC、横浜F・マリノスなど人気のプロスポーツチームがあり、スポーツ観戦する土壌と地名のブランド力はリーグ随一。また、横浜ビー・コルセアーズは老舗のバスケットボールスクールとしても知られており、神奈川県内のファミリーにはアンダーカテゴリの認知度も高い存在。外の環境に目を向ければ、“ビーコル”の可能性はまだまだ大きく広がっています。
今回は2018年に新卒でビーコルに入社してユースチームを担当し、今シーズンから広報を務める大木瀬音(おおきせおと)さんに話を聞きました。
『アウダに会うだ』と『カーターに会いたカーター』でファン心をつかむ?
――ビーコルは2016-17シーズンから3シーズン連続で残留争いをしていて、これまでは“強いチーム”とは言えませんでした。ただ、ファンはずっと熱く応援を続けています。チームの何がそんなに人を惹きつけると思いますか?
「ビーコルそのものを好きな方が多いと感じます。トップチームの勝敗だけでなく、ビーコル独自のチャネルから入って、そこに集まって楽しんでくれるブースターさんが多いんです。たとえばスタッフがチームの裏話を語る『ビーコルLIVE』を楽しんでくれる方や、バスケのプレーを楽しみたい大人向けの『大人バスケ』という大会も開催しています(編註:新型コロナウイルスの影響で現在は中断)。そこでビーコル好きに出会って語り合って新しくチームの魅力を知るなど、多様なチャネル展開がビーコルのファン化につながっています」
「僕たちにはトップチームの勝敗はコントロールできないですが、そこ以外でもビーコルは楽しいと思ってもらえるコンテンツを作っています。いろんな角度のコンテンツを用意することで、様々なファン層にアプローチが出来ていると思います」
――コロナ自粛中は、フロントのコンテンツづくりの腕の見せどころだったと思います。
「ビーコルでは『アウダに会うだ』というオンラインイベントを開催しました。ファンクラブ会員が今シーズン入団したパトリック・アウダ選手と話すというイベントで、当初の予定から30分オーバーするくらい盛り上がりました。ちなみに、ロバート・カーター選手のイベントタイトルは『カーターに会いたカーター』でした」
――このシンプルなダサさがビーコルのチャーミングなところでしょうか……次のダジャレはなんだろう? ちょっとクセになりそうです(笑)。
実力者パトリック・アウダ選手の印象は?
――パトリック・アウダ選手は、昨年のW杯でチェコ代表としてプレーした実力者です。大木さんから見てどんな人ですか?
「スペイン・イタリア・フランスなどヨーロッパの強豪国でプレーしてきた経験豊富な選手で、どのチームでもプレータイムは20分超あり、平均2桁得点を残してきた実力の持ち主です。ディフェンス・リバウンドなど献身的なプレーはリーグでもトップクラスで、外角シュートも上手い。どんなシーンでもエナジーを持って冷静にプレーするので、チームを崩れさせません」
「実は、『アウダに会うだ』を企画したのがアウダ選手の来日直後でほとんど面識がない状態だったんです。電話番号もメールアドレスも分からず、InstagramのDMで『Hello.Nice to meet you.This is Seoto.』と送るところから始まりました(笑)。イベントに出てほしいと送ったら、“もちろんOKだ”と即答してくれました。イベント中もアウダ選手自身が本当に楽しんでいるのが伝わってくる良いイベントでした。アウダ選手は、とても人格者だと思います」
『いっくん・翼の小田原の休日』裏話
――今シーズンからキャプテンに就任した生原秀将選手は、実力も人気も備えた魅力的な選手です。生原選手ファンは、ビーコルに限らず多くいますね。
「筑波大学でキャプテンを務めて、ユニバーシアードの日本代表に選ばれて、特別指定で栃木ブレックス(現宇都宮ブレックス)に入団と、華やかなバスケキャリアを歩んできた選手です。話していると分かるのですが、自分の考えをしっかり持っているけれどユーモアは忘れない。たくさんの魅力がある選手で、僕から見ても人気があるのは納得です」
「今年8月に小田原トレーニングキャンプに行って、オフの日に生原選手・小原翼選手と『いっくん・翼の小田原の休日』という小田原散歩の動画を撮りました。伝統工芸の提灯づくりや坐禅体験、小田原城など土地の歴史を見ていったのですが、生原選手は歴史や伝統工芸に興味があるみたいで、“小田原城が北条氏の勢力拡大の拠点になったんだ”とか、見ているものの背景を教えてくれるんです。にわかではなく、本当に興味を持って勉強しているのが伝わってきました」
“マッスル翼”だけではない! 小原翼選手の魅力は?
「小原選手です。すごく天然なところがありますが(笑)、賢い選手です。小原選手のイメージとして“マッスル翼”が浮かぶと思うのですが、彼は大学で運動学を学んだ人で、あの体は計算してつくられています。オフコートでも努力家で、パーソナルトレーナーの資格も持っています」
「今シーズンはプレータイムが伸びて得点もあげています。これまで、練習でコツコツとディフェンスやシュートを磨いてきた努力が今シーズンになって実っているところです」
――取材でビーコルの練習場に行くと、いつも小原選手が大声で挨拶してくれるんです。とても気持ちのいい選手です。
「彼は見た目のインパクトもあって、子どもたちからの人気も高いです。学校訪問に行くと、子どもたちから『つばさー!』と呼ばれています(笑)。僕がすごいと思うのは、ファンの方たちの顔を覚えていることです。先日、ファンの方に向けたメッセージ動画を撮ったのですが、小原選手は名前を聞いて『あのあたりの席でお父さんとお母さんの間で応援してくれている子だ』と言うんです。ファンをとても大切にしている選手です」
果てしない階段を乗り越えてこそビーコルファンだ!
――大木さんは、2018年4月に新卒でビーコルに入社しました。人生で初めて働く場所をバスケットボールチームにしたのはなぜですか?
「僕は中学・高校までバスケをしていました。高校でバスケはやめたのですが、大学でカナダ留学したときにバスケに触れる機会がすごく多くて、バスケはやっぱり面白いし好きだと思ったんです。僕の中学校のときのコーチが今のビーコルユースを立ち上げたというご縁もあって働かせてもらうことになりました」
――バスケが好きでビーコルに入社した大木さんから、Bリーグの魅力を伝えてください!
「Bリーグは身体能力だけで戦える場所ではないです。Bリーガーは日本のトップクラスの選手の集まりですが、そこからさらに生原選手ならゲームコントロール能力、森井(健太)選手はパスセンス、森川(正明)選手はシュート力など、何かを極めた人じゃないと生き残れない。試合の全体を流して見るのも良いですが、個々の能力にフォーカスして観戦するとより面白く見られると思います」
――ビーコルのホームアリーナ横浜国際プールは自然光の入る気持ちのいい会場ですが、会場に行くまでにそびえる階段が果てしないです。あの階段を登り切ったときの達成感はすごいです(笑)。
「あの階段を乗り越えてこそビーコルファンの皆さんだと、自分たちに言い聞かせています(笑)。もちろん僕たちもホームゲームで必ず登りますが、実は僕もあの長さにはなかなか慣れないです(笑)」
取材・文:石川歩
取材・写真協力:横浜ビー・コルセアーズ