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現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

2020.02.28

1965年に、工具メーカー・オーエスジー株式会社のバスケットボール部として創部した三遠ネオフェニックス。B1リーグ18チームのうち3チームが愛知県にあるという『バスケ王国・愛知』の中でもフェニックスは東側にあり、愛知県豊橋市をホームタウンとし、愛知県東三河地域と静岡県浜松市を中心とした遠州地域で活動しています。

長く日本代表候補に選出されている太田敦也選手や、キャリアの長い期間をフェニックスで戦っている岡田慎吾選手などベテラン勢に加え、2019-20シーズンは、どこからでも点を取れる196cmのエース西川貴之(にしかわたかのぶ)選手などが入団しました。今年1月には、高校バスケの強豪・福岡第一高校でウィンターカップ2連覇を果たした現役高校生、河村勇輝選手が特別指定選手として加入し、Bリーグデビュー2戦目でいきなり21得点して大きな話題になっています。

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

今シーズン、シーホース三河から移籍した西川貴之選手。196cmの点取り屋は、相手チームにとって脅威
©San-En NeoPhoenix

今シーズンのフェニックスは開幕から16連敗し、39試合終了時点で4勝と厳しいシーズンを戦っています。しかし、2月16日に行われた名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦ではインサイドが機能し、バランスのいい攻守で接戦を勝ちきりました。フェニックスは、そろそろ長い夜を抜けて名前の通り、不死鳥のように飛び立つころ。

「バカじゃないかと言われるかもしれないけれど、私は、可能性がある限りは彼らがチャンピオンシップに出られると信じています」と話したのは、2018-19シーズンから広報を務める廣瀬教志(ひろせのりゆき)さん。今回は、愛知県豊川市にあるフェニックスの練習場で、選手たちの練習を見ながら廣瀬さんに話を聞きました。※2020年2月14日取材

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

三遠ネオフェニックス広報、廣瀬教志さん

現役高校生でプロチーム入り。河村勇輝選手の素顔は?

――1月に河村選手が入団してから、フェニックスのメディア露出が増えました。今日も、練習からメディアの取材が入っていますね。

「おかげさまで、メディアさんからの声がけが多くなりました。少人数のフロントで運営しているチームなので、私も広報だけでなくいろんなことをやっていますが、河村選手が入ってからはいわゆる“広報マン”をやらせてもらっています(笑)」

――外から見る河村選手は、完全無欠の高校バスケのスーパースター。プロチームに入っても物怖じせずに活躍する姿にワクワクするわけですが、近くで広報している廣瀬さんから見て、河村選手はどんな人ですか?

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

河村勇輝選手の入団会見には、国内の主要メディアが集まった
©San-En NeoPhoenix

「コート上ではスーパースターですが、コートを出ると甘え上手な18歳の男の子だと感じますよ。先日、駐車場でばったり河村選手に会ったのですが、その日はオフで名古屋に行きたいって言うんです。『廣瀬さん、今からどこに行くんですか?』と聞かれて、僕はもちろん大人なので察して(笑)、駅まで送っていきました。駅に着いたら、『名古屋に出る電車が分からない』と言う。切符を買って、名古屋行きの電車を確認して、改札で『気をつけてね』と彼を見送るまで自分がすごく自然に行動していて、『お父さんかっ!』って自分にツッコミました(笑)。河村選手はメディア対応でも教えることがないくらい完璧に答えるし、バスケもすごくて非の打ちどころがない。完璧すぎるのが逆に心配だったので、こういう可愛らしさに触れるとちょっとホッとします」

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

©San-En NeoPhoenix

チームが負け続けても、ファンが応援する理由

――地元出身の太田選手は、2007年からフェニックス一筋でキャリアを積んできました。太田選手はどんな人ですか?

見たままの優しい人です。私の運転でイベントに行くとき、太田選手は運転中の私にそっと水を差し出してくれるんです(笑)。誰に対しても気遣いができて懐も深いから、日本代表でもフェニックスでも常にイジられています。この柔らかい性格が太田選手の本来の姿だと思いますが、コート上では外国籍選手とインサイドでバチバチにやりあう。太田選手がコートで発揮するメンタルの強さは、フェニックス一筋でプレーしてきて、地元のファンの皆さんが自分を支えてくれているのを本当に理解しているから出てくるのだと思います。私は近くで太田選手を見ていて、本当に人のために頑張れる人だと感じる。そこをすごく尊敬しています」

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

©San-En NeoPhoenix

――今シーズンのフェニックスは、なかなか勝てません。それでも、ホームゲームの入場者数は減らないですね。フェニックスは、本当に良いファンが多いと感じます。

「ファンの皆さんがチームを愛してくださっているのを感じます。強いチームを応援したいという心理は絶対にある中で、どれだけ負けても応援してくださるのは、フェニックスが創部以来ずっと培ってきたカルチャーが受け継がれているからだと思います」

――過去には、名将・中村和雄さん(※1)がフェニックスのヘッドコーチをしていました。心から選手と向き合う和雄さんの指導を受けて、いまBリーグで活躍している選手は多いです。

「真摯に、誠実にバスケと向き合うという中村和雄先生が築いたカルチャーは、チームに脈々と受け継がれています。太田選手、岡田選手、ヘッドコーチの河内修斗は中村先生の指導を受けているし、シーズンごとに選手が入れ替わっても、バスケに対して真摯に向き合う選手が多い。傍から見ると、フェニックスは真面目で地味なチームのイメージが強いと思いますが、それが良いと思ってくれるファンに支えられています」

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

©San-En NeoPhoenix

――それでもやはり、連敗が続くとSNSでは厳しい意見も寄せられます。

「SNSを担当していて、正直心が折れそうになるときもありますが(笑)、折れることはないです。これは本当に手前味噌ですが、バカじゃないかと言われても、可能性がある限り、私は彼らがチャンピオンシップにいけると信じています。GMがつくったチームを信じているし、いま戦っている選手の価値を最大化するのが広報の仕事ですから、負けがこんでいてもポジティブなことを発信します。ファンの皆さんや選手に届くなら、どんなに小さな発信でも励まして勇気づけたい。みんなで励まし合う、そういう行為を含めてチームだと思うんです」

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©San-En NeoPhoenix

もっともっと、バスケと選手の価値を高めるために

――地域密着を掲げるBリーグで、愛知県豊橋市・静岡県浜松市と県をまたいで活動するチームは珍しいです。2県に分かれて広報する大変さはありませんか?

「やはり県が変わるとメディアも分断されているので、難しさはあります。テレビだけとっても、そもそも毎日見ているニュースキャスターが違うわけですから。ただ、私はプロスポーツチームには地域をつなぐ役割が果たせると思っているんです」

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

©San-En NeoPhoenix

「チームの地域貢献活動では、なるべく3者以上を巻き込むようにしています。豊橋市と浜松市、地元の企業や学校ですね。愛知から静岡の海岸はサーフィンで有名な遠州灘があります。昨シーズンのオフには、川嶋勇人選手・北原秀明選手と地元在住のプロサーファー、住民の皆さんでサーフィン体験・ビーチクリーン活動・避難訓練を行いました。先日は、豊川市出身の太田選手が地元の社会福祉法人の皆さんと一緒に田植え体験をしました。プロバスケ選手との田植え体験という、ふるさと納税の返礼品の一環だったのですが、彼は206cmありますから、すごく腰を曲げて苗を植えていました(笑)」

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

©San-En NeoPhoenix

現役高校生!河村勇輝は「コート外では甘え上手な18歳」【Bリーグ広報のてまえみそ<三遠ネオフェニックス編>】

©San-En NeoPhoenix

――コート外の活動を聞くと、選手たちはすごい『コンテンツ力』を持っていると感じます。選手たちが培ってきた特別な能力は、試合以外のシーンでも周りをハッピーにしますね。

「体のサイズ、フィジカルの強さやスピードは一般の人たちとは違うし、魂を削って試合に勝ちにいくメンタルは、コート外でも人を惹きつけると思います。ビジネスの目線で言うと、フェニックスはB1リーグの営業収入平均を少し下回る売り上げ規模ですが、この規模で終わるわけにはいかない(※2)。B1すべてのクラブの売り上げ規模が数十億というレベルにならないと、未来のバスケプレーヤーは生まれないと思っています。バスケは接触の多いスポーツで、膝の靭帯を切ったらそこで選手生命が終わるかもしれないわけです。そのリスクを負ってでも、選手が人生をかけるだけの価値があるリーグとクラブにしていかないといけない。価値には様々な側面がありますが、分かりやすい基準として年収を挙げるなら、選手たちの年収を上げていく努力は、私たちフロントがもっと頑張らなければいけないと思っています」




※1 中村和雄:現JX-ENEOSサンフラワーズ、三遠ネオフェニックス、秋田ノーザンハピネッツ、女子日本代表等のヘッドコーチを歴任し、多くの強豪チームを築き上げたバスケットボール指導者。千葉ジェッツの富樫勇樹選手、田口成浩選手、川崎ブレイブサンダースの大塚裕土選手など、中村の指導のもとで才能を開花させたBリーガーは多い。渋谷センター街には、『心をこめて』という中村の言葉が刻まれたモニュメントが設置されている。


※2 2018年度のB1クラブ決算によると、営業収入トップは千葉ジェッツの17億6千万、シーホース三河の16億2千万と続く。B1クラブ平均は9億2千万で、フェニックスは7億円。

文:石川歩
取材協力・写真提供:三遠ネオフェニックス
※この記事は、2020年2月14日に取材したものです

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