0

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

2021.12.10

成長期のお子さんに正しい靴の履き方を教えることが子育ての重要なイシューの一つとして注目され始めています。しかし具体的にどのような履き方が間違いで、そこにどのようなリスクがあるかを教わる機会はなかなかないもの。靴教育・シューエデュケーション®の研究者・吉村眞由美さんに、間違った履き方とそのリスクをわかりやすく教えていただきました。

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

吉村眞由美
【専門分野】人間工学と靴医学に基づいた、子どもの健全育成ならびに安全・事故予防を可能とする総合的教育システム“シューエデュケーションⓇ”の構築、ならびにその指導者“シューエデュケーターⓇ”の育成を行っている国内初の研究者。【略歴】博士(学術)。元 金城学院大学生活環境学部 教授。現 早稲田大学人間科学部通信教育課程教育コーチ、実践女子大学非常勤講師、白梅学園大学非常勤講師、道灌山保育福祉専門学校専任講師。【学会活動ならびに役職】日本靴医学会 小児の足と靴を考える委員会委員長・評議員、日本外来小児科学会 代議員、日本レジャー・レクリエーション学会 常任理事、公益財団法人 日本学校体育研究連合 足育調査研究委員ほか。【著書・教科書】ななみ書房「知っておきたいヨーロッパ流子どもの足と靴の知識」(監修翻訳)、建帛社「コンパス保育内容(健康)」ほか。
official site研究者情報

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか?

①手を使わない靴の履き方は江戸時代のなごり?

ここで注目したい「日本人特有の靴の履き方」がどんなものなのか、幼児や小学生を例にとってご説明します。

保育園や幼稚園に通い始めると自分で靴を脱いだり履いたり靴を管理するようになります。また大部分のお子さんがマジックベルトの付きの靴を履いています。園におじゃまして園児さんの様子見ると、靴を脱いだ後の外れたベルトを靴側のベルトの位置にぴったりと合わせて留めるお子さんが非常に多いことに気づきます。これは服を片付けるときに畳んでから片付けるのと同じ、日本人らしい“しつけ教育”のひとつでしょう。しかし私が取り組んでいる靴教育の研究成果からは、靴を服と同じに考えて扱うことが足を不安定にする履き方の原因になっているのでは?ということがわかってきました

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

この写真は、よく見かける園や学校での靴のしまい方です。ベルトを留めたままなのがおわかりでしょうか?これでは次に靴を履く時、またベルトを外す動作が必要です。それが面倒になるとベルトが留まった状態で足を入れようとし始めます。しかし、ベルトが留まったままでは、かかと部分までは入りません。なので、つま先を入れたまま立ち上がって、靴からはみ出した踵で靴の後ろ部分を踏むことになります。そして何とかそのまま靴に踵まで入れようと、“つまさきをトントン”しながら足をねじこもうとします。その時、もしベルトの留め方がゆるければ、そのままスルッと履けてしまいます。これは大人の紐靴を緩めに結んでいる時の履き方と同じもので、靴の機能性を無視した望ましくない靴の履き方です。また靴を脱ぐときも、立ったまま靴のかかと部分を逆の足の靴先で踏み押さえながら靴を脱ぐ動作が多くみられます。この“手を使わない「足だけでの脱ぎ履き」”は大人になるまで続き、脱ぎ履き動作の習慣として定着します。3歳児以上の保護者の方は、まずお子さんがどのように靴を履いているか脱いでいるか、そっと観察してみてください。

次に脱ぎ履きする場所について見てみましょう。日本の園や小学校の下駄箱は靴をしまうことだけを考えた「靴入れ」です。私は20年近く前からドイツの小学校や園の靴の脱ぎ履き場所の調査をしていますが、ドイツでは違っていました。人間工学的に、手を使って靴紐やベルトを締める動作がしやすいことを前提に設計されているところが多く、その差に驚きました。例えば日本の小学校を見ると子ども達はみな立ったままで靴を履き替えています。下駄箱の近くには手荷物を置く場所もないことが大部分ですから、子ども達は両手に荷物を持ったまま、靴の履き替えをするしかありません。つまり学年が上がるごとに自然と手を使えない靴履き環境に適応していくしかなく、充分に靴が足にフィットしない状態で過ごすことが当たり前になっていくのです。

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

お子さんは幼い頃から、親やきょうだいの履き方を真似しながら靴の履き方を覚えていきます。家族も靴の学習をしてきていませんから、靴の機能を充分に引き出す履き方ができていません。さかのぼれば、江戸時代の草履や下駄の履き方は手を使わずに足だけで脱ぎ履きしてきました。その後、一般市民が靴を履くようになったのは昭和時代の第二次世界大戦終了後だといわれています。つまり履きものが草履や下駄から靴に変わっても、多くの日本人の靴の履き方は江戸時代と同じ所作のまま現在に至っています。つまり、靴ではない履き方をしている大人を見習って、お子さんも知らず知らずのうちに江戸時代風の履き方が習慣になってしまっているケースがとても多いのです

②「成長するからちょっと大きめを選ぶ」そのサイズは本当に足に合っていますか?

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

日本の大人の大部分は「子どもの足はすぐに成長するから、ちょっと大きめのサイズでないと…」と言います。しかし、その「ちょっと大きめ」が実際に何ミリなのか?を質問しても、自信をもって答えられる保護者はほとんどいないのが現状です。日本人の靴の適合確認は足の計測値に基づかないことが多く、いきなり試し履きをして、靴の先端を親指で押してできる凹み具合を基準にして決めてしまうことが大部分です。この『靴先押しチェック法』は大変広く行われており、日本人なら誰もが経験のある方法ですが、昭和時代から続いている不確かな慣習にすぎません。大切なお子さんの足を守るためには、科学的な根拠に基づいたサイズ選びをしたいと思いませんか?

日本人は長い期間、草履下駄で生活をしてきたため、足に靴が密着する感覚を嫌う傾向にあります。成人を対象に調査をしたところ、高齢者ほど「ゆったり幅広で足を締め付けない靴、手を使わないでサッとはける靴、軽い靴」を好むという結果が出ました。日本人の履きものの文化が、今の私たちの靴選び、サイズ選び、履き方にまで影響を与えていることが考えられます。

これはある幼稚園と小学校の上履きプロジェクトで実際にあった話です。シューフィッターが子ども一人一人の足を計測して適正サイズの上履きを履かせて感想を聞いたところ、「きつい」と答えて嫌がったため、適正サイズより大きいサイズに変更したお子さんが全体の3割程度いました。さらに保護者にも問題がありました。計測値で選んだ適正サイズの靴を本人も納得して家に持ち帰ると、保護者が「このサイズは今履いている靴より小さい。こんなに小さいはずはないので大きいサイズに変えて欲しい」と申し出てきて大きなサイズに交換せざるを得なかったケースが数件ありました

このように普段から大きすぎる靴を履いていると、その靴感覚に慣れてしまい計測して割り出したちょうど良く快適なはずの“適正サイズ”を「きつい」と思うほど圧迫感を感じてしまう事実が数多くあること。そして無意識に大きいサイズを好むようになることが幼児期から起き始めているのです。本来、人間には危険を察知する能力が備わっており、窮屈による危険な圧迫感は本能的に分かり「きつい」と言えるはずです。しかし普段から大きすぎる靴に慣らし過ぎてしまうと、合っているフィット感までも窮屈だと感じてしまい、足に合ったサイズ感を決める『靴感覚』が正しく働かなくなってしまうのです。「大きすぎる靴は疲れの原因」になり「大きすぎる靴は、実は知らぬ間に足への負担をかけてしまう『隠れ危険靴』」になりえるという現実をぜひ知ってください。

間違った靴の履き方で起きる身体への負担とは?

1.間違った履き方では身体能力を発揮できない

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

例えばマジックベルトの靴の場合、ベルトを軽く留めるだけで靴の中で足が前後や左右に動き不安定になることで転びやすくなったり、筋肉の過緊張で疲れやすくなったりします。靴メーカーは、踵骨(しょうこつ)部分が靴の後端と内部でフィットした状態を基準として靴を設計していることをご存じでしょうか?つまり、サイズが合っていて、正しい履き方ができている(足の位置が基準に合っている)という条件が揃えば、運動パフォーマンスが上がり、快適に歩ける・走れるようになるのです。そのことを知って、お子さんの体力・運動能力をグン!と伸ばしてみませんか?ぜひ、2つのリスク「大きすぎるサイズ」「留め具を締めずにゆるい状態で履く」を取り除き、お子さん本来がもつ能力を存分に発揮できる『靴環境』を作ってあげてください

2.大きめサイズは足・脚だけでなく、姿勢にも悪影響

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

大きすぎるサイズの靴は足が靴の中で前滑りしたり、踵が浮いたり足元を不安定にします。すると身体は少しでも不安定さを減らそうと脚や足の筋肉を緊張させます。その際、膝や股関節にも負荷がかかり、それが全身の姿勢にも影響を与える可能性が生じます。その人が本来持っている自然な姿勢が崩れ、不安定さをかばうための無理な姿勢を取らざるを得なくなってしまいます。大きすぎる靴なら脱げないように力が入りすぎ、充分に歩幅を取ってかかとから着地することができなくなります。脱げそうなゆるい履き方の靴なら、脱げそうになる靴をかばいながら走ったり歩いたりせざるを得ないので速度が落ちます。つまり、その人の持つ本来の力が発揮できなくなってしまいます

3.自然災害や交通事故など、緊急時における大きすぎる靴・ゆるい履き方がもたらす危険性

間違った靴の履き方のリスクを知っていますか? 早いほどいい!我が子に教えたい靴の正しい履き方・サイズの決め方・選び方【前編】

例えば地震や集中豪雨など自然災害による避難の際、危険だらけの道を遠くまで急いで逃げなければならない時のことを考えてみてください。ゆるい履き方の靴では命の危険が生じます。つまり、脱げそうな状態での避難はスピードも落ちてしまいます。靴が脱げてしまったら、その時点で前に進めませんから避難は中断してしまいかねません。車の暴走事故現場に巻き込まれた負傷者の靴が散乱している映像がマスコミで報道されることがあります。これは事故にあった瞬間にゆるい状態の靴が脱げて飛んでしまい、逃げられなかったという危険性を表しています。緊急時に足元を使って大事な命を守るためには「大きすぎサイズ」「履き方がゆるい」といった危険な靴の履き方になっていないか気をつけていただきたいと思います。

間違った靴の履き方と大きすぎるサイズ選びは子どもの体力・身体能力を育てるうえでマイナスの影響を及ぼします。日常生活で遭遇する危険から身を守れなくなることにもつながりかねません。【後編】では必ず役に立つ「正しい靴の履き方・サイズ選び・選び方」をご紹介します! ぜひ、お子さんの靴選び・履き方教育の参考にしてみてください。

KEYWORDS
テーマ :
アイテム:
ブランド:
パーソン: