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挑戦と無念と……。バスケW杯チェコ戦を現地目線で【後編】

2019.10.16

上海市内で朝から降り続いていた雨は試合の前にあがって、少し青空も見えてきた。9月3日、上海オリエンタルスポーツセンターで行われたW杯1次ラウンド日本vsチェコの1戦、会場に響いていたのは、チェコの応援団が持っていた笛の音。チェコが得点をしたり、リバウンドをとるたびにすごい音量で鳴り響く。チェコの応援スタイルは、良いプレーに絶叫、よくないプレーにはため息と、とにかく表情豊かに、大きく喜んで大きく悔しがる。人数は多くないけれど、一人一人の熱狂度が濃くて、チェコの国旗色である白・青・赤で顔と服を染めて、応援を楽しんでいる。日本の声が揃った応援もすてきだけれど、チェコの個々の喜怒哀楽を爆発させるような応援も、体感していて楽しい。

挑戦と無念と……。バスケW杯チェコ戦を現地目線で【後編】

FIBAランキング24位のチェコの主力は、今夏、ワシントン・ウィザーズからシカゴ・ブルズに移籍した201cmのガード、トーマス・サトランスキーと213cmのヤン・ヴェセリー。同ランキング48位、日本のスターティング5は、トルコ戦から平均身長を上げてPGに田中大貴(192cm)を起用し、馬場雄大(198cm)、渡邊雄太(208cm)、ニック・ファジーカス(211cm)、八村塁(205cm)。この日の日本はトルコ戦のような硬さがなく、たまに笑顔を見せる選手もいる。

試合開始から14秒、まずは八村のフリースローが決まって初得点。馬場の激しいディフェンスでチェコにタフショットを打たせるなど、ゲームの入り方がトルコ戦とは別もの。開始3分50秒、八村のパスから渡邊のジャンパーで4-7。チェコの高いゴール下のブロックショットで得点はできなかったが、トルコ戦ではほとんど見られなかったファストブレイクも出る。残り3分・2分と立て続けに田中のシュートが決まる。田中はこの日が28歳の誕生日、自身の誕生日をお祝いするようなプレーで、1Qは18-18の同点で2Qへ。

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写真:FIBA.com

2Qはスタートからトルコがコンスタントに得点し、じわじわ点差が開く展開。開始4分30秒で、トルコ戦ではなかなからしさが出なかった比江島のドライブからのレイアップで25-30と5点差に詰め寄る。ドライブしているときから、「これはきっと決まる」と分かるような、比江島の真骨頂が出て客席は大歓声! 残り26秒には、ニックのパスから八村が豪快なダンク! ファウルももらってフリースローを決めて38-43。久しぶりに見るコート上の八村の笑顔に、見ているこっちも笑顔になる。

2Q残り5秒、5点差で前半を折り返してほしいタイムアウト明け、比江島にしか見えないようなチェコのディフェンスの隙間を縫うようにペイントエリアまでドライブして、ふわっと放ったボールが吸い込まれるようにネットへ、これで40-45にして前半が終了。

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写真:FIBA.com

点の取り合い。一瞬も目が離せないバスケW杯チェコ戦後半。

後半は、ディフェンスの強度が上がったチェコに日本が攻めあぐねる展開。開始2分25秒、ダブルチームにきたチェコの上をいく八村のジャンプショットとフリースローで43-47と4点差に詰め寄るも、この試合を通じて止められなかった11番シュルブの3Pシュートもあり、55-64の9点差で4Qへ。

ここにきても日本は、チームにも客席にもまだ戦えるという気迫、気配のようなものがあった。選手たちは、「強い相手と戦うのは楽しい」と口にするけれど、観ているほうも、もちろん楽しい。こんなおもしろい試合が見られるなんて……! 一瞬もコートから目を離したくない。

4Qは着実に点を重ねるチェコに対して、なかなか得点ができない日本。開始2分20秒に比江島のレイアップが4Qの初得点で57-69。日本は、ディフェンス強度を上げてチェコにプレッシャーをかける。Bリーグの試合で、ディフェンスでも客席を沸かせる篠山・馬場・田中たちの必死のディフェンスに胸が打たれる。

ふと、2018-19シーズンのBリーグファイナルを思い出す。絶好調の千葉ジェッツの優勝を封じたのは、徹底したアルバルク東京のディフェンスだった。Bリーグでこつこつと積み重ねてきた努力と経験の延長上に、W杯のプレーがある。Bリーグのシーズン終了からほとんど休まずに代表活動を続けてきた選手たちが、W杯のコートで自分の納得のいくプレーができるようにと見守る。

挑戦と無念と……。バスケW杯チェコ戦を現地目線で【後編】

写真:FIBA.com

4Q開始から3分40秒、馬場のアシストから八村のダンクで61-73にするが、日本のターンオーバーもあり10点前後の差がついたまま時計が進む。残り1分26秒、見惚れるくらいにきれいなサトランスキーのユーロステップからのレイアップが決まり72-86と点差が埋まらない。残り1分を切ると、勝利を確信したチェコの応援団から大きな歓声があがりはじめ、76-89で試合終了。

国を背負って戦うという経験がどんなに重たいものなのか、本当のことは本人たちにしか分からない。そんな状況でもバスケを楽しむというのは、とても難しいことだろう。それでも、見ているほうは選手の悲痛な表情よりも、少しでも明るい表情を見たい。そういう意味で、このチェコ戦は一次ラウンドでもっとも観ていて楽しい試合だった。選手たちが最後まで希望をもって戦っていることが分かったし、応援するほうは、わずかな希望も見逃さないように目をこらしていたから。9月5日に行われた日本vsアメリカ戦は、アメリカに圧倒的な力の差を見せつけられて45-98で大敗、順位決定戦のニュージーランド戦・モンテネグロ戦も負けて、日本のW杯は全敗で幕を閉じた。

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写真:FIBA.com

日本代表選手、それぞれの挑戦。

9月20日、アルバルク東京は、馬場雄大がNBAダラス・マーベリックスと契約を締結したことを発表した。マーベリックスのトレーニングキャンプに参加した後、下部Gリーグのレジェンズに加わり、マーベリックスのロスター入りを目指す見通しだ。

八村塁はW杯1次リーグ終了後にアメリカに帰国し、NBAトレーニングキャンプに備えている。渡邊雄太はW杯終了後に日本に帰国し、その翌日にはアメリカへ発った。NBAグリズリーズとGリーグハッスルの2ウェイ契約である渡邊は、今シーズンも2つのチームを行き来して戦い続ける。

Bリーグは9月14日からアーリーカップを開催した。アーリーカップ関東を制したのは、比江島慎・竹内公輔の2人の日本代表選手を擁する宇都宮ブレックスだった。W杯直後の試合にも関わらず、2人ともハードに戦い、アーリーカップ優勝に貢献している。10月3日には、4年目のBリーグが開幕した。W杯をきっかけにバスケに興味を持ち、初めてBリーグ観戦をする人が増えるかもしれない。それもまた、W杯出場の功績だ。

W杯が終わっても、日本代表の選手たちはそれぞれの居場所で戦い続けている。今回のメンバーでは、W杯で1勝することができなかった。その事実は、本人たちにしか分からない硬い、硬い無念として心に残っていくだろう。しかし、悔しさを持続して挑戦を続けられる選手しか、今の日本代表にはいないだろうとも思う。

W杯の反省も後悔も、戦った本人たちが最も深くしているだろう。ならば、このレポートは明るい未来を信じて終わろう。日本バスケの世界への挑戦は、はじまったばかり。学生のときから海を渡り、早くから海外のバスケを経験している日本選手たちも増えている。彼らは1年後の東京大会に向けて、虎視眈々と日本代表の座を狙っている。伸びしろだらけの日本バスケは、いま、大きなもう一歩を踏み出したところだ。

文:石川歩
写真:FIBA.com

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