
「最初から完璧じゃなくていい」こだわりの食と器づくりに馴染むナイキ「エアフォース 1」【 Horse and the sun・高橋主馬】
英語で交差点を意味する「CROSSROAD」。
様々な分野で一直線に邁進するプレイヤーの「ターニングポイント」を振り返る本企画。そのポイントの以前・以後では何が変わったか。そして、変わらずに足元を支えていた“相棒”とも言えるシューズについて語る。
何気ない器づくりから始まった「ふたりでつくる場所」
今回登場するのは、軽井沢の静かな湖畔にたたずむ「Horse and the sun」の店主・高橋主馬さん。Horse and the sunは、カフェとグローサリー、そして木工という一風変わった組み合わせの店である。全国から選りすぐったこだわりの食品や野菜を取り扱い、オーガニック・無添加食材を使用したカフェメニューも提供。その全ては、主馬さん、そして、奥さんの今日子さんの手でつくられている。
東京・国分寺で育ち、自由な校風で知られる吉祥寺の明星学園高等学校で思うままに美術・運動に打ち込んだ少年時代。その後、美術大学の建築学科に進むも、設計には興味が湧かず、模型制作に没頭する日々を過ごした。
「建築にはまったく興味がなくて、ひたすら模型を作っていました。子どもの頃から“作ること”が好きだったんですよ」
卒業後は家具職人としての道を歩み始めたが、その後、スニーカーのリメイクを手がける靴の修理工房に転職。劣化したスニーカーのソールを剥がし、レザーを巻いて再生させるという特殊な作業を経験したことが、彼の中で“つくる”という行為に対する感覚を深めていった。
「古い靴を直すって、単なる修理じゃないんです。人の身体の形や時間が積み重なったものに、また新しい命を与える感覚でした」
「形あるものを再構成し、もう一度息を吹き込む」。そんな手仕事の原点を経て、再び家具の世界に戻るが、コロナ禍で仕事量は激減。生活が不安定になる中、時間の余白を使って始めたのが、「器づくり」だった。そしてそれが、人生のターニングポイントとなる。
高校時代の同級生である妻の今日子さんと、「お皿を作りたいね」と軽い会話から始まった制作。しかし、手を動かすほどに「食」との相性のよさが直感的に腑に落ちていった。
「木の器って、食と自然に合うじゃないですか。これなら自分たちの店が成り立つかもしれないって、はじめて“見えた”感覚があったんです」
その直感をもとに妻と共に物件を探し、見つけたのが現在の軽井沢の拠点だった。住居としても使える店舗を自らの手で内装し、「ふたりでつくる場所」が形を成し始めた。 床を貼り、棚を作り、間取りを整えながら、主馬さんは暮らしそのものを“彫刻するように”空間へと落とし込んでいく。
「最初から完璧じゃなくていいって、妻と話してたんです。実際、内装も少しずつアップデートしてますし、看板商品のドーナツも進化してる。ふたりでやってるからこそ、柔軟にやれるし、“わがまま”を叶えていけるんです」
看板商品となっているドーナツも、最初からレシピが決まっていたわけではない。蜂蜜酵母の発酵や湯種の食感、レモンのフレーバーまで、その一つひとつが「試して、感じて、調整して」の繰り返しで生まれている。
彼の人生における“転機”は、ひとつの大きな決断ではなく、小さな実感の積み重ねでできているのかもしれない。ドーナツもまた進化の途中であると言う。
道具を超えた身体の一部。使い込むほどに良くなる靴
ものづくりの現場において、足元がどうあるかはとても重要だ。重たい木材を運び、粉まみれの作業場を動き回るなかで、確かな履き心地と耐久性が求められる。
主馬さんがそんな日々に選び続けているのが、NIKE(ナイキ)の「エアフォース 1」。現在履いているのは3代目となる黒のレザータイプである。頑丈で、どんな服にもなじみ、そしてなにより「使い込むほどに良くなる靴」だと言う。
「服のテイストがバラバラなんです。でも、エアフォース 1ならどんな格好でも“締まる”んですよね」
作業着にも私服にもフィットし、傷が増えてもむしろ味になる。その育てる感覚が、彼のつくる器や家具とも重なっている。
「粉だらけになるし、削りクズもつくし、でもそれも含めて良いんですよ。履きつぶすことで、自分の足に馴染んでくるんです」
靴はただの衣類ではない。彼にとっては、包丁や道具と同じ「身体の一部」だ。慣れた一足でないと、微妙な足の沈み込みや動きのズレが作業の感覚を狂わせる。
「インソールが沈んで、足にぴたっと合うようになる。それが他の靴だとズレて気持ち悪い。もう、これは身体の一部ですね」
最近は軽さを重視しトレイルランニング用のシューズも履くようになったが、それでもエアフォース 1は外せない存在なんだそう。何気ない日常に寄り添う感覚と、見た目以上のタフさが共存している。
「結局これに戻ってくるんですよね。傷んでも、また同じのを買う。それでいいと思える靴って、なかなかないです」
ふたりの暮らし、ふたりの店、そして彼自身の「つくる」という人生。そのすべてを、主馬さんは、たしかな道具とともに、たしかな歩幅で進んでいる。