「自信満々で履いている姿が1番のファッション」岡本飛竜選手と、ブラックキャットという1足『僕をつくった、あの1足。』
「規律をもってやり続ければ、絶対覆せる」
島根スサノオマジック・岡本飛竜選手は、そう言い切った。小学生のころから大人の社会人チームに混じってプレーし、高校でも大学でも、試合に出られない時期があった。今シーズンも、開幕から数カ月、腰の怪我で離脱している。全治がはっきりしない怪我だった。それでも、本人がいちばん大事にしてきたのは、自分の番が来た時に何ができるか、ということだった……。
今回、選んだ一足は、ジョーダンレトロの「ブラックキャット」。以前は手に入らず、復刻のタイミングでようやく手元に来たモデルだという。真っ黒で、派手ではない。けれど、履き込むほど渋さが出る。岡本選手の話は、その靴の話と、ずっと地続きだった。

「日々の姿勢や積み重ねているもので語りたい」
今シーズン、岡本選手に求められていたのは、エナジーだった。ディフェンスで強度を上げる。声を出す。チームのリズムを前から変える。ただ、開幕から数カ月の離脱は、過去経験したことのない長さだった。
「そんな長い離脱は初めてだったので、タフなシーズンでした」
外からチームを見る時間。コートに立てない時間。その中で岡本選手は、若手に外から見たアドバイスを送ることもあった。ただ、岡本選手のベースは言葉ではない。
「自分の練習に取り組む姿勢とか、そういった部分で語りたい」
キャリアを重ねた選手だからこそ、言葉より日々の態度が伝わることを知っている。だからコートに立てない時期も、自分の矢印を外には向けない。

岡本選手がバスケットを始めたのは、小学1年生。家族は野球一家だったが、姉がバスケをしていて「とりあえず」始めた。その「とりあえず」は、すぐに毎日の中心になった。
小学校高学年になると、週2回の練習では足りなくなった。岡本選手は、大人の社会人チームに自分から声をかけ、いろいろな体育館を転々としながらプレーするようになる。週6日、毎日違う体育館、違う大人たち、違うルール。
「体育館に着いたら、いちばん上手そうな人に『1対1お願いします』って言ってました」

遠慮してパスを回すのではなく、5対5でもガツガツ行く。点を取ることが楽しかった。スピードとジャンプ力で大人にどう勝つかを考えていた。
クラブチームが整っていた時代ではない。だからこそ、大人に混じれた環境は大きかった。バスケの技術だけではない。その場に入っていく力、年上と話す力、自分から勝負を申し込む力。少年時代の体育館で、それが育っていった。
プレータイムを勝ち取れるか
高校は宮崎の延岡学園に進んだ。同級生にはサンロッカーズ渋谷の現選手・ベンドラメ礼生選手もいた。最終的には全国優勝を経験する。
ただ、最初から順調だったわけではない。
「高1くらいから、試合に出られないという苦しさを初めて味わって」
それまで点を取ることが楽しかった選手が、試合に出られない。そこで気づいたのが、ディフェンスだった。ベンチから出る選手にシュート本数は多く回ってこない。それ以外でアピールするしかない。
「どうやったらプレータイムを勝ち取れるかって言ったら、ディフェンスだなと」
プレースタイルを変えた、というより、勝つために必要な場所を見つけた。ポイントガードとして前から当たり、その背中でチーム全体にディフェンスの意識を伝える。今の岡本選手のベースは、この時期につくられている。
大学4年間の苦しかった時間
大学では、下級生の頃はほとんど試合に絡められなかった。普通なら気持ちが切れてもおかしくない。岡本選手は「全然なかった」と言い切る。
「死ぬほど練習しとけば、絶対覆せるというか。大学だったら4年の時に絶対トップになれるなっていう自信があったので」
ただ耐えるのではない。自分の番が来たときに掴めるように、ただ準備を続ける。岡本選手の言う「待つ時間」は、そういう時間だった。

ロスで見た朝5時から動き出す選手たち
プロ1年目から、オフシーズンにはロサンゼルスへ行くようになった。目的はワークアウト。現地のトレーナーのもとで練習し、NBAの選手たちが何を着て、何を履いているかを見る。
朝5時、ときには4時半から動き出す選手たちがいる。チーム練習だけでなく、個人でお金を払ってパーソナルワークアウトを受ける文化がある。
岡本選手は、そこで自分よりも取り組んでいる選手たちを見た。
街に出れば、ダウンタウンで買い物をしたり、ストリートの写真展で履き込まれた昔のジョーダンを履く人たちを見たりする。
「自信満々で履いている姿が、いちばんファッションだなと思います」
新品をキレイに履いていることがカッコいいわけではない。重たくて、無骨で、履いた人の時間が残っている一足。それを自然体で履く人たち。岡本選手はそこに惹かれた。

150足の中のブラックキャット
スニーカーの話になると、岡本選手の言葉は少し弾む。実家に置いているものも含めると150足、ジョーダン1だけでも20足ほど。

集める理由はシンプルだった。
「欲しくなるっすね。やっぱ面白いっすね」
現代のバッシュは軽く、クッション性も高く、性能はどんどん進化している。それでも、昔のジョーダンの重たさや無骨さに惹かれる。
「昔は新品をバチッと履くのが好きだったんですけど、今はちょっと履いてる感がある方が好きになりました」
ブラックキャットも、そういう一足だった。新品で買った時のカッコよさより、履き込んだ後の渋さが残るタイプの靴。

流れていた曲はカニエ・ウェスト「Famous」
ロサンゼルスの記憶は、音楽とも結びついている。
最初に行ったときに体育館や街で流れていたのは、カニエ・ウェストの「Famous」。選手たちが口ずさんでいる。
「あ、ここがロサンゼルスか、みたいな」
別の日、Young Greatnessの「Moolah」が流れたときには、周りの選手たちが歌い出した。何の曲かわからずShazamで調べた、と岡本選手は笑う。
音楽はBGMではない。海外のワークアウト文化に触れた時の衝撃。自分よりもっと練習している選手たちを見た時の刺激。その空気ごと、記憶に残っている。
「そのままでいけって言います」
最後に、10代や20代の自分に声をかけるなら、と聞いた。
「そのままでいけって言います」
若い頃、周りからは言われていた。そんなに練習しても意味がない、疲れるだけだ、たまには休め。
それでも、岡本選手はバスケットを第一にして、時間を費やしてきた。
「練習量も質も、やってなんぼかなって思ってたんで」
アメリカに行ったとき、自分以上に取り組んでいる選手たちを見た。朝早くから練習し、個人で準備し、もっと自分に矢印を向けている選手がいる。そこで、自分の考えは間違っていなかったと思えた。
食事や睡眠については、もっとできたことがあると感じている。高校時代は、空腹を埋めるために菓子パンを食べることも普通だった。今の選手たちのように栄養や回復の情報があれば、もっと違う準備もできたかもしれない。
それでも、根っこは変えなくていい、と岡本選手は言う。
ブラックキャットの黒は、派手ではない。履き込むほどに渋さが出る。重たさも、無骨さも、時間が経つほど味になる。

岡本選手は、復刻されたタイミングで、その一足をようやく手に入れた。
待つ時間は、これまでにも何度もあった。


