大怪我を乗り越えた宇都宮ブレックス・喜多川修平選手。ヒゲとニューバランスと子どもについて<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.19>
田臥選手がヒゲメンアワードに選出されましたが、ブレックスのヒゲと言えばこの選手も!Bリーグ西地区の強豪・琉球ゴールデンキングスからBリーグ初年度王者の宇都宮ブレックスに移籍し、そのシーズンにベスト3P成功率王を獲得した喜多川修平選手。2018-19シーズンの活躍も期待されていた矢先に、右膝に大怪我を負い、復帰のめどが立たないという窮地に立たされました。
今回は、約7ヶ月のキツいリハビリを経て復活した喜多川選手に、父親ならではのファッションのこと、怪我のこと、リハビリ中を支えた家族のことについて聞いてきました。
宇都宮ブレックス、喜多川修平選手とヒゲ談義
――ブレックスの選手は皆さん、おしゃれなヒゲのイメージがありますが、それは喜多川選手と田臥選手がイメージをひっぱっていると思います!
「大学のころから、顎からもみあげまでをつなげるヒゲのスタイルでやってきたので、そろそろかたちを変えたいと思っていて。あのヒゲのかたちにするのは時間がかかるし、剃るのも大変なので、シーズンオフに入ってから伸ばしていました。そしたら、こんなに生えるのか! ってくらい濃くなって自分でも驚きました(笑)。床屋さんと一緒に、髪とヒゲの相性を相談していて、今のところ開幕戦はこのヒゲでいこうかなって思っています」
――以前、この連載に出てもらった鵤誠司選手もおしゃれヒゲでした。そして、事前アンケートでおしゃれなBリーガーを聞いたら、喜多川選手は鵤選手を挙げました。
「誠司とは、“いいね、そのヒゲ!”とか、そんな話をしています。田臥さんは、整えているというより生やしっぱなしで、それが似合っていますよね。誠司は、服に気をつかっていると思う。他者からの見られ方を意識している人っておしゃれだと思って、誠司って書きました」
喜多川修平選手の、Made in USAのニューバランス
――今日はニューバランス996<NEW BALANCE 996>を履いてきてくれました。この連載も19回目ですが、『ニューバランス(NEW BALANCE)』を履いてきたBリーガーは、喜多川選手が初めてです。
「そうなんだ! なんでも最初って嬉しいです(笑)。ニューバランスは内側が柔らかくて足に優しいし、履きやすくて、長時間歩いても疲れない。色は、汚れの目立たないグレーです。子どもと一緒にいると靴を踏まれるので、白い靴は履けないです」
――ニューバランスの996には2種類あって、Made in USAのM996とアジア生産のMRL996があるんですが、喜多川選手のニューバランスはM996ですね。
「あー、それ知っていたらカッコよかったけれど(笑)、996に2種類あるって知らなかったです。僕のMade in USAは完全に偶然ですね(笑)」
――ニューバランスのグレーに合わせた今日のコーディネートは、パパっぽい感じとスポーツ選手の爽やかな感じがすてきです。短パンの丈の短さも、喜多川選手くらい足が長いと似合います!
「短パンはもっと長かったのですが、夏のトレーニングで筋肉がついて腿が太くなったので、丈が短くなっちゃいました。ずっとカジュアルな服装が好きでしたが、子どもと遊ぶようになって、とにかく動きやすい服を着るようになりました。トップスのデニムは『ナノユニバース(nano・universe)』です。僕は学生時代からナノユニバースのカジュアルラインが好きで、お店を通りかかるとチェックしますね」
シーズン前の大怪我で、喜多川修平選手が思ったこと
――お子さんは5歳と7歳の女の子2人です。ブレックスの試合は、見にきますか?
「ホーム戦と、関東圏のアウェー戦は見にきます。家族が来ている試合では、ティップオフ前に家族がどこに座っているのか確認しないと落ち着かないので、会場を見渡して探します。アウェーで地方に行っているときは、テレビ電話をします。子どもたちにはいつも、“部屋を見せて”って言われるから、ぐるっとホテルの部屋を見せる。僕がどんなところにいるのか、気になるみたいです」
――子どもたちは、パパがバスケ選手だと認識しているのですか?
「2人ともわかっていますね。昨シーズンは怪我をしていたので、“リハビリに行ってくるね” って言って家を出ていたんです。その時期に、下の子にパパのお仕事はなに? って聞いたら『リハビリ選手』って答えていて、爆笑しました。妻と一緒に、“そりゃそうだ。良いフレーズ使ってくるな~”って感心していました(笑)」
――昨シーズンは、これからシーズンが始まるという時期に大怪我をしました。怪我をしたときは、どんなことを考えていたのですか?
「怪我をした瞬間は、右膝が外に出て戻った感覚があって、“ガコッ” て膝の音が聞こえた。すごく痛かったと思うんですが、痛みより音に驚きました。倒れ込んだまま立ち上がれなくて、最初に考えたのは、このままどうなるんだろうってこと。怪我をした直後は何も考えられなくて、ぼうっとしていました。次の日から、これはヤバイことになっちゃったって理解しはじめたんです」
――喜多川選手の怪我を知って、ご家族はどんな反応でしたか?
「ちょうど妻と子どもが帰省していて、家にいなかったんです。怪我をした日は、病院に付き添ってくれたスタッフと食事をしていて、“やってしまったことは仕方がない”って明るく話していたけれど、次の日、家族がいない家で、一人ですごく落ち込みました。妻に怪我をしたって電話をしたのですが、怪我をしたものは仕方がないから、まずは治さないとねって言われました。もっと驚くかと思ったけれど、すごく冷静でした」
――良い奥さんです! 怖さや怯えの感情はうつるから、奥さんが冷静でいてくれてよかったですね。子どもからは、リハビリ選手ってあだ名もつけてもらったし(笑)。
『リハビリ選手』を超えて
――喜多川選手は、シーズン終盤の3月末にチームに復帰しました。それまで約7ヶ月のリハビリが続いたのですが、その期間はどんな気持ちでしたか?
「本当に辛かったです。気持ちの浮き沈みが激しくて、ある日はめちゃくちゃやる気になって、さあリハビリに行こうって思うのに、次の日にはもう行きたくないって思う。どんな気持ちでいても必ずリハビリには行くのですが、気持ちがついていけない日はありました」
――リハビリ中に、ファンの皆さんが喜多川選手へのメッセージを書き込んだ横断幕をつくったり、喜多川選手の顔のお面をつけて試合にのぞむという企画がありました。
「横断幕は、ありがたかったです。怪我をしてチームを離脱しても、一緒に戦っているんだよっていうのを、ファンからもチームからも言ってもらえて、リハビリのモチベーションになった。早く、ファンの前でプレーしたいって気持ちになりました。お面ももちろん嬉しかったのですが……あのお面になった顔が、怪我をした後に撮った写真なんです。めちゃくちゃ気持ちが落ちている時期の顔なので、あの顔を見るたびに落ち込んでいる気持ちを思い出しちゃって、なぜあの写真を選んだの! って思っていました(笑)。でも、みんなお面をつけて応援してくれていて、本当に心強かったです」
「プロ選手は、浮き沈みがあるけれど」喜多川修平選手
――喜多川選手は、試合ではどんなバッシュを履いていますか?
「昨シーズンまではハイパーダンク2017<HYPER DUNK 2017>を履いていたのですが、けっこう前のモデルで入手しづらくなって変えたのがPG3です。僕は動き回って止まってすぐにシュートを打つことが多いので、バッシュにはグリップ力を求めています。初めてPG3を履いて体育館に入ったときに、キュッとグリップの良さを感じて、それが好印象だった。あと僕は、ローカットがイヤなんですが、PG3はかかと部分が上がっていて、ハイカットとローカットの中間くらいの感覚で履けるのが良くて、今はPG3を履いています」
――色にこだわりはありますか?
「怪我をしたときに体重が10キロ落ちてしまって、復帰したあと自分の体が軽いと思いながらプレーしていました。実際に映像で見ても自分が軽くみえて、そのときに白いシューズを履いていたのが余計に軽く見えたんです。いま体重は戻ったのですが、どっしりしたイメージでいたいので、黒のPG3を履いています」
――喜多川選手は、専修大を卒業後に当時企業チームだったアイシンシーホースに入り、2016年Bリーグ開幕で琉球に移籍してプロ選手になっています。大企業の社員からバスケのプロ選手になるときはお子さんがいましたが、移籍は迷いませんでしたか?
「アイシンで引退して会社で働くこともできたし、実際に、琉球に移籍する前に家を見に行っていました。もうそろそろ家を買ってもいいかなって、計画も立てていたんです。でも、子どもが生まれてからは、子どもに良いところを見せたいって思いが出てきていたし、もっともっとバスケでチャレンジをしたいって思いのほうが強くて、最終的には移籍してプロになった。琉球移籍は、自分でもよく決断したなって思うけれど、その苦しい決断をした結果、今はすごく充実しています。2017-18シーズンにブレックスに移籍したときは、家族会議で僕の思いを伝えて、妻と子どもたちはどうしたいのか聞いて、家族みんなで納得して移籍してきました」
――もしもお子さんが、喜多川選手と同じようにスポーツ選手を目指したいと言ったら、賛成しますか?
「今回、僕は大怪我したので、同じ痛みを味わってほしくないと思ってしまう。もしものことを考えていたら何もできないけれど……、でも、子どもたちが本当に選手を目指すなら、僕は応援します。僕自身、浮き沈みのあるプロ生活を送っているけれど、自分のやるべきことを続けていたら良いときは訪れるし、苦しみを知るぶん、良いときはとんでもない喜びを味わえる。子どもたちが、そういう経験をするのはいいなって思うんです」
大怪我を乗り越えた喜多川選手はいま、「ようやくスタートラインに立てた」という気持ちだそうです。昨シーズン消化不良だったぶん、今シーズンにかける思いはきっと誰よりも強いはず。相手チームのディフェンスを振り切って、あっという間に放つ喜多川選手の3ポイントシュートは、見ていて本当に気持ちいい! 宇都宮ブレックスの試合は、独特の一体感を感じられるホーム戦がおすすめです。ぜひ一度、足を運んでください。
文:石川歩
写真:白松清之
写真協力:宇都宮ブレックス