「ろくでなしBLUESの島袋は僕」秋田ノーザンハピネッツ伊藤駿選手×ろくでなしBLUES 【Bリーガーと漫画VOL.4】
バスケの名門・仙台大学附属明成高校、青山学院大学を経て日立サンロッカーズ東京(現サンロッカーズ渋谷)に入団した伊藤駿(いとうたかし)選手。2019-20シーズンに秋田ノーザンハピネッツに移籍し、2021-22シーズンは副キャプテンを務めます。
今回は伊藤選手に『ろくでなしBLUES(森田まさのり・集英社/週刊少年ジャンプ)』について聞きました。ろくでなしBLUESは、帝拳高校に入学したプロボクサー志望のヤンキー前田太尊を中心に、他校の強敵とバトルを繰り広げる学園漫画。学生時代からキャプテンを務めてきた伊藤選手にとって、ろくでなしBLUESはバイブルにもなっているそうです。バスケ部キャプテンとヤンキー学園漫画は一見共通点の見えないセレクトですが、話を聞くうちに伊藤選手なりの深い読み方が伝わってきました。
太尊は古川、勝嗣は川嶋で、米示はシゲ
――今回『ろくでなしBLUES』を選んだ理由は? 週刊少年ジャンプで連載されていたのは1988~1997年で、1990年生まれの伊藤選手とは年代がズレています。
「兄が漫画を持っていて、中学生の時に読み出したら止まらなくなってハマりました。自分でも買って大学に入ってからも読み返すくらい、めちゃくちゃ好きな漫画です。僕の世代で読んでいる人は少ないかもしれないですが、もっとろくでなしBLUESの面白さをみんなに知ってもらいたいと思い、今回選びました。
僕はヤンキーに憧れたことはないのですが、漫画の中で描かれているキャラクターたちの義理堅さがすごく好きなんです。ろくでなしBLUESには、人との関係性の中にある人情とか義理を貫く大切さが凝縮されていて、僕にとってバイブルのような存在になっています」
――秋田ノーザンハピネッツのメンバーで、前田太尊に例えるなら誰ですか?
「古川(孝敏)です。太尊はボス的存在で主人公です。古川もチームの顔なので、そこに共通点があります。古川は面倒見が良くて、下の子たちがついてくる人格を持っています。人格者という部分も、太尊との共通点があると思います。あと、おそらく古川はケンカがめちゃ強いです(笑)。怒ったら、めちゃくちゃ怖そうなのも太尊と似ています」
――山下勝嗣はどうですか?
「川嶋(勇人)です。川嶋は、やるべきことはきちんとやるのですが、抜いていい時はめっちゃくちゃアホな事をするんです。勝嗣も普段はふざけているけど、要所は掴んでいる。それに、勝嗣はアホな事をする時も本気というか……きちんとアホをやるっていうキャラクターだと思っていて、川嶋もそんな感じです。今シーズンから入ってきた選手ですが、全く人見知りをしなくて自分から積極的に話しかけています。とにかく、ずっとうるさい(笑)。すんなりとチームに馴染んでいます」
――沢村米示は?
「シゲ(田口成浩)かな。シゲは結構前に出るんですが、一方でヨゴレというか裏回しというか……目に見えない目立たない部分でもいろいろやってくれています。意外と周りを見ている選手で、そこが米示とかぶります。シゲも米示も、実は気遣いができるキャラクターだと思います」
――ヒロト(大場浩人)はどうですか?
「ヒロトが一番難しいですね……。ヒロトの憎めないキャラクターという側面を見ると、多田(武史)です。以前チームで食事をした時に、飲みすぎた多田の介抱を僕と古川でやって僕の車で家まで送りました。多田は色々とやっちゃう子ですが、”まあ、いいか”と思わせるキャラクターです。ヒロトは後半で太尊と勝負してきちんと自分なりの決着をつけますよね。多田も、今シーズンの試合で借りを返してくれると思っています」
――最後に、島袋大はどうですか?
「島袋は僕です。島袋の義理堅い感じとか、人の気持ちを汲み取って行動に移せる部分は、僕が大切にしていることでもあります。僕もアホなことをするし、めちゃくちゃなことも言うけれど、内心は対面している人のためになることをしていきたいと思っています」
――伊藤選手が一番好きなキャラクターは島袋と聞いています。島袋からはどんな影響を受けましたか?
「僕は反抗期がすごく長くて、小5から中学3年くらいまで、家でもずっとイヤホンを付けているようなガキでした。その反抗期に、ろくでなしBLUESで島袋が急いでいるのに困っているおばあちゃんを放っておけずに助けるシーンとかを読んで、こっそり皿を洗ったりしていました(笑)。早い段階で自分が生きてるのは親がいるからだと気付けたのも、ろくでなしBLUESのおかげだと思います。
バスケでガードというポジションをやっていると、ゲームを円滑に運ぶために人とのコミュニケーションを多くとったり、人の気持ちを汲み取ることが大切だと気付きます。今までバスケ選手としてコミュニケーション面の努力を続けてきましたが、元を辿れば、他人の気持ちの機微を読んで行動する島袋の言動から学んだことだったと思います」
“力と恐怖”で仲間はまとまるか?
――ろくでなしBLUESには、いろんなタイプのリーダーが登場します。渋谷の鬼塚は恐怖で仲間を支配していました。学生時代からキャプテンを務めていた伊藤選手は、鬼塚のシーンをどう読みましたか?
「力と恐怖で仲間をまとめるというのも、一つのやり方だと思いました。でも僕はそんな器ではないし、やっても仲間はついてこないと分かっていた。それよりも、どんなことも全て一番最初にやっていました。練習でも、人が嫌がるようなプレーに率先して取り組む。たとえば、初めてやる練習はどんなものか理解できていないので、最初にやりたくないんです。求められていることと違ったら、監督に怒られます。でも僕は気にせずに、やれと言われたらすぐに実行していました。僕が失敗しても次の人が上手く練習できればそれで良いし、僕にとっても学びになると思っていました」
――伊藤選手は、2021-22シーズンの副キャプテンを務めます。どんなシーズンにしたいですか?
「古川さんがダブルキャプテンなので、上手くまとめてくれると思います。僕は古川さんをサポートしながら、厳しくいく予定です。一昨年・去年と同じようなスタンスでやっていたらチームは変わらないと思うので、ある程度、制限することも必要だと思っています。たとえばシューターが急にドリブルをして1対1をやるとか、チームプレーではないことをする若い子がいたら助言をする。チームとしての一番は勝つことです。一番大切なことを実現するために必要なことは、僕が悪者にも厳しい人にもなってやっていくシーズンにします」
「今までの僕は、キャプテンを務めていても厳しくすることはありませんでした。今シーズンはフル(古川)さんも”厳しくいく”と言っているので、本当は僕が副キャプテンとして下の子たちをケアしないといけない立場ですが、今シーズンは“二大巨頭”としていじめようと思っています(笑)。人に厳しくしておいて、自分が良いプレーをしなかったらすごく惨めなので、僕にとっては新しいチャレンジのシーズンになると思います」
『ろくでなしBLUES』のその後は……?
――ろくでなしBLUESで一番好きなシーンは?
「好きなシーンはたくさんありますが、1シーンを選ぶなら卒業式でマサさん(教師・近藤真彦)が卒業生の名前を呼ぶシーンです。感動しました。太尊は、マサさんに生まれる三つ子のためにマサさんの毛を奥さんに渡しに病院に行って事故に遭いそうになりながら、自分の名前が呼ばれる時間には間に合う。最後まで、太尊はアホなことを真剣にやるんです。僕は、ろくでなしBLUESのしょうもない笑いとか、全力でアホをやる部分もすごく好きです」
――漫画では、プロボクサーになった太尊と原田成吉が後楽園ホールで試合を始めた直後で終わっています。伊藤選手は、あの後どうなったと思いますか?
「僕は、ろくでなしBLUESの続編が出ると思って待っているんです。『SLAM DUNK(井上雄彦・集英社/週刊少年ジャンプ)』が映画化されるのだから(※)、ろくでなしBLUESも続きを待っています。自分で続編を想像して、その後を勝手に解決したくないんです」
――最近買った靴で、お気に入りは何ですか?
「デザインが良いなと思って買ったのが、ナイキとsacaiがコラボしたブレーザー LOW x sacai Iron Greyです。ファッション的にストリートに近いスタイルが好きなので、だぼっとしたシルエットの服装と合わせて履いています」
※2021年8月、『SLAM DUNK』の新作映画が公開されると発表された。2022年秋の公開予定で、監督・脚本は原作者の井上雄彦さんが務める
取材・文:石川歩
取材・写真協力:秋田ノーザンハピネッツ