消滅危機を乗り越えてーークラブに根付いたチャレンジ精神【Bリーグ広報のてまえみそ<レバンガ北海道編>】
北海道にプロバスケットボールチームが誕生したのは2006年。2011年に経営難により運営会社が除名処分を受け、このまま誰も引き受けなければチームが消滅してしまう……こんなときに異例の選手兼代表としてレバンガ北海道を立ち上げたのが、昨季27年の現役生活に別れを告げたバスケットボール界のレジェンド・折茂武彦さん。自身を変えてくれた北海道に、プロバスケットボールチームを残したいという思いから起こした行動でした。そんな折茂さんが現在代表取締役社長を務めるレバンガ北海道は、消滅危機という経験を経たからかファンファーストを貫いた斬新で憎めないチャーミングな企画を仕掛けるのが得意な様子。
今回は、2016-17シーズンから広報を務める秋本いずみさんに話を聞きました。秋本さんの話から見える“愛されるクラブ”を目指すレバンガ北海道の姿勢は、Bリーグの魅力を違う視点から見られる機会になりそうです!
レバンガ北海道広報から見た折茂武彦
――なぜ、秋本さんはレバンガ北海道の広報という職業を選んだのですか?
「私はサッカーが好きで、海外サッカーを観ることが一番の楽しみでした。応援しているチームがあるイギリスでは、地域のサッカーチームを応援することが文化として根付いています。老若男女が地元チームを愛して、チーム応援することが喜びで、そこから生まれるコミュニケーションが、日常を豊かにしている様子が羨ましかったんです。年齢・性別・国籍を超えた多くの人たちが、場所や時間を越えて夢中になれるプロスポーツの力を目の当たりにして、その対象がより身近な地元のプロスポーツチームであれば、こんなに幸せなことはないと思いました。私は道産子なので、北海道のプロスポーツチームがより愛されるために広報として携わりたいと思いレバンガに入社しました」
――レバンガ北海道を語るうえで、運営会社の代表取締役社長であり13シーズン北海道でプレーした折茂武彦さんの存在は欠かせません。秋本さんから見て折茂さんはどんな人ですか?
「壁をつくらないで周りに接してくれる人です。あれだけキャリアがあると周りが遠慮することもありますが、こちらから飛び込んでいくと両手を広げて受け止めてくれるような人ですね。現役時代は、練習後に何件も取材を入れたいとお願いすると『嫌です~』と笑いながら冗談を言うのですが、それは周りがコミュニケーションを取りやすいように振る舞っていると分かるんです。本当に厳しい状況下でそれでもこの依頼は受けるべきだと判断した仕事は、一切文句を言わずに受けてくれます。負担をかけて申し訳ないと思っていることを分かってくれているので、逆にこちらに気を遣ってくれます」
――折茂さんは昨シーズンの開幕直前に、そのシーズン限りで引退すると発表されました。秋本さんはどんな気持ちで昨シーズンを過ごしましたか?
「この仕事をしていると、一生忘れないだろうという瞬間がたびたびありますが、引退発表のプレスリリースの送信ボタンを押す時に指が震えたことを思い出します。折茂武彦という日本のバスケ界で特別な存在の引退のタイミングに広報として関われたことは、私にとってかけがえのない時間でした。昨シーズンは新型コロナウイルス感染拡大の影響でBリーグが途中で中止になり、ホームでの最終戦や引退試合など花道として準備してきたことが全て実現できたわけではありませんが、北海道でオールスターゲームが開催され、本当にたくさんの方に応援していただいてMVPも獲得しました。折茂本人もファンの皆さんにとっても心に残るオールスターになったと思います」
「北海道はコロナウイルスの発症者数が増えるのが早く、オールスターがギリギリのタイミングでした。オールスター後に世界は一気に変わり、シーズン終了後に予定していた引退試合も延期しました。ただ、クラブとしてこれまで支えてくださった皆さんの前で、折茂本人の言葉を直接伝えてプレーを見てもらえる機会を必ず作ろうという気持ちが強くあります。情勢次第の部分もありますが、延期していた引退試合は今年6月6日の開催予定で準備を進めています。」
Bリーガーにもファンが多い!? 桜井良太選手の魅力は?
――2007年から北海道でプレーを続ける桜井良太選手もレバンガ北海道を代表する選手の一人です。オールスター等で桜井選手が他チームの選手からいじられているのを見るのが楽しいです!
「1983年生まれでチーム最年長タイ(※)、在籍年数トップになりますが、クラブ内外で愛されている様子を目にします。他クラブの選手と一緒に取材を受ける場面では、桜井選手が入るとどんな組み合わせでも盛り上がります。チームメイトやスタッフとの雑談や取材でも、桜井選手の発言にみんなが思わず笑っていることが多いです。フロントスタッフはもちろんどの選手にも愛がありますが『その中でも誰か一人を選ぶなら?』と聞くと、男性スタッフから熱い票を集めるのが桜井選手。同性からの支持がすごく高い人です」
(※1983年2月生まれがジャワッド・ウィリアムズ選手、3月生まれが桜井良太選手)
――近くで選手たちを見ている秋本さんは、そういう桜井選手の愛される魅力をどう分析しますか?
「桜井選手は日本代表でもキャリアがあって、レバンガでもプレーとその存在で立ち上げからチームを引っ張ってきました。イベントや取材対応はベテランならではの経験や勘でそれらしい対応で済ませることもできるかもしれません。ただ、桜井選手はオフコートのどんなこともひとつひとつ誠実に向き合います。ファンやメディアの方にもその想いは伝わっていて、その都度心をつかんでいるのが分かります。大らかなところもあって、肘用のサポーターを膝につけたり、ユニフォームを前後逆に着たりすることもある(笑)。この人に付いていきたいと思わせる特別な存在感と、突っ込まずにはいられないチャーミングさで桜井選手のことが好きになってしまうのだと思います」
レバンガ北海道・消滅危機が生んだチャレンジ精神
――コート外の活動が多いと選手の魅力を発見できる機会も増えて、ファンとしてもうれしいです。レバンガは、多様なイベントをどんどんやっている印象があります。
「折茂がチームに伝え続けてきたことでもあるのですが、レバンガでは、プロ選手として練習や試合でバスケに取り組むことは当然で、バスケット以外でもいかにファンや支えてくださる方に喜んでもらえるかを大切にする意識が浸透しています。コート外でもいかに必要とされる選手になれるかを折茂自身も突き詰めてきましたし、そういう姿を見てきた他の選手たちも、オフコートでの活動に真摯に取り組んでいます」
「レバンガでは季節ごとのイベントに合わせて、ハロウィンやクリスマスはウォーミングアップ前に選手が仮装してコートに登場します。会場も盛り上がりますし、SNSの反応を見るとブースターの皆さんが楽しんでくれている様子が分かります。他クラブではやっていないことをすると時に批判的な意見をいただくこともありますが、結果としてたくさんの笑顔が見られるとやってよかったと思いますし、次はどんなチャレンジをしようか皆で考えます。何もやらないのは簡単で、他でもやっていることをやる方が安心ですが、前例がなくても喜んでもらえそうな新しいことはチャレンジするのがレバンガです」
「チームが存在していることは当たり前ではないですし、フロントもチームもバスケだけではなく愛されるクラブになることの大切さを理解しています。愛されなければ支えてもらえない、愛され支えてもらえることで、自分たちが『明日のガンバレを』届けられると分かっているから今のスタイルがあるのだと思います」
取材・文:石川歩
取材・写真協力:レバンガ北海道