タレントが揃った! “地方”チームの逆襲【Bリーグ広報のてまえみそ<滋賀レイクスターズ編>】
滋賀県を本拠地にするプロスポーツチームのうち、トップリーグで戦うチームとしては県内唯一の滋賀レイクスターズ。2016年のBリーグ開幕から3シーズンはB1残留ぎりぎりの戦いを続けており、リーグ後半に発揮する『残留力』でB1に残留し続けています。2019-20シーズンはメンバーを入れ替え、クレイグ・ブラッキンズ、ジェフ・エアーズ、ヘンリー・ウォーカーと外国籍選手全員がNBA経験者。B1王者・アルバルク東京から期限付移籍した齋藤拓実、シェーファー アヴィ幸樹が加わったことでタレントが揃い、第22節終了時点で西地区3位争いをしています。
今回は、2018-19シーズン途中からチームにジョインして広報を務める大宮健司さんに話を聞きました。元新聞記者で関西圏のスポーツ記事を担当していた大宮さん。記者からバスケチームの広報にジョブチェンジした理由からは、関東圏のチームと地方チームの差による課題も見えてきました。
滋賀レイクスターズ・齋藤拓実選手とシェーファー アヴィ幸樹選手の素顔
――今シーズン、アルバルク東京から期限付移籍した齋藤拓実選手は、滋賀に来てから伸び伸びとプレーしている印象です。
「齋藤選手は平均プレータイムが25分を超えていて、2月8日の三遠戦ではキャリアハイとなる30得点をあげました。今シーズンは全試合でスターターを務めていて、レイクスターズになくてはならない選手です。彼はサービス精神旺盛な選手で、カメラを向けると必ず目線をくれるので、レイクスターズのSNSでは、“拓実の目線シリーズ”の動画をアップしています。あと、練習中に僕が良いプレーを撮り逃すと『今のプレーを撮ってないんすか!』って怒られる(笑)。フランクに話しかけてくれる選手です」
――ジョージア工科大学を休学して、2018年12月にアルバルク東京に入団し、昨夏のワールドカップに出場したシェーファー アヴィ幸樹選手も、今シーズンからレイクスターズに移籍しています。大宮さんから見て、アヴィ選手はどんな人ですか?
「かわいらしい人ですね。彼は大阪生まれ、兵庫県育ちの関西人で、めっちゃ喋ります。アヴィ選手のレイクスターズ移籍が決まったときがワールドカップ直前の合宿中で会えなくて、移籍コメントをLINEのやりとりでもらいました。すぐに返信してくれて、コミュニケーション能力に長けた選手だなと思いました。レイクスターズのSNSでアヴィの露出が多いのは、チームの主力選手で日本代表という理由もありますが、彼の明るいコミュニケーション力がそうさせるんです。質問をすると、期待している回答以上のことを話してくれる」
――アヴィ選手を近くで見て、広報しているからこそ知っているエピソードはありますか?
「いま彼は、車の教習所に通っています。アメリカから帰国してすぐにアルバルクに入団して、シーズンが終わったらワールドカップ合宿が始まったので、免許を取る時間がなかったみたいです。彼は、自転車に乗るのが苦手らしいです(笑)。練習は電車と徒歩で来ているので、早く免許を取りたいみたいなんですが、シーズン中なのでなかなか教習所に行けないそうです」
――205cmのアヴィ選手が教習車にぎゅうぎゅうに入って、運転を学んでいる姿を想像すると、可愛いです(笑)。
伊藤大司選手が滋賀レイクスターズに欠かせない理由
――レイクスターズを見ていると、メンバーの仲が良い印象を持ちます。
「オフコートでも一体感はすごいですよ。(伊藤)大司選手の家で食事会をしたりして、プライベートも選手たちで遊んでいます。僕は選手たちのプライベートまで踏み込んだ広報はしませんが、客観的に見ても仲が良いなって思います」
――以前、伊藤大司選手に靴とファッションのインタビューをさせていただきました。すごく人思いな選手だと感じて、今シーズンはチーム最年長として背負っているものは大きそうです。
「大司選手のキャプテンシーはすごいですね。昨シーズンはレギュラーガードとしてコート内外でチームを支えてくれていました。今シーズンはガードの層が厚くなって、プレータイムを減らしてもどかしい思いをしていると思うんです。でも、そういう気持ちを微塵も見せずにリーダーシップを発揮してくれます。本当に、リーダーシップという言葉では表現しきれないくらいに、フロントにも声がけをしてチームをまわしている。プレー以外でも自分の存在感を出し続けている人で、レイクスターズにとって欠かせない選手です」
滋賀レイクスターズのSNS運用法
――チームの仲の良さは、レイクスターズのSNSからも伝わります。大宮さんが、SNS発信で心掛けていることはなんですか?
「ファンの声を汲み取って、ファンと一緒にコンテンツをつくり上げていこうと思っています。たとえば、『今シーズンはイケメン選手が揃っているから、ベンチの様子も見たい』というファンのコメントを受け取って、撮り溜めていた各選手のベンチ動画をつなげてパラパラ漫画みたいにして投稿したんです。『すぐにやってくれた!』ってポジティブなコメントが寄せられたとき、やって良かったと思いました。今では、このコンテンツは一人歩きして、ファンの皆さんが投稿したベンチ動画をみんなで楽しんでいる。みんなでつくり上げるコンテンツに育ってきています」
――コンテンツがマニアックになるほどコアなファンが楽しめる一方で、ライトなファンは付いていけないかもしれない。尖った投稿になるほど、アンチが増えるかもしれない……SNS投稿には、バランス感覚も大切です。
「公式だから当然硬派にやるべき部分もありますが、SNSは相互のやりとりで成り立っていく面白さがあるので、レイクスターズは柔らかい投稿も多いです。ちょっとチャレンジした内容は投稿ボタンを押すときに緊張しますが、誰も不快にしていないか、特定のファンを指して嫌な思いをさせていないか、この基本を大切にしています」
「レイクスターズはBリーグの中でも、まだまだファンが少ないチームです。滋賀県のポテンシャルから見ても、まだファンは増やせると思う。今は、アウェーにも来てくれるコアなファンの皆さんに支えられていますが、これからはホームゲームに足を運んでくれるライトなファンを増やしたい。プレー以外の部分で、選手のカッコよさを伝えてファンをつくっていくのは、SNSでできることだと思います」
滋賀レイクスターズ『残留力』秘話
――レイクスターズはこれまで3シーズン、B2降格の危機をぎりぎりで乗り越えてきました。リーグ後半に、メディアやファンから『残留力』と言われるのではなく、チームから『残留力』と言い出したことにびっくりしました。
「Bリーグ2年目の残留争いのころから、関西のメディアでは『滋賀の残留力』と言われていました。ただ、クラブ公式からそれを言い出すのは勇気がいりました。昨シーズンの後半、残留争いをしていたレバンガ北海道に惨敗して、これ以上負けたらヤバいという状況まできたとき、クラブとしては、もう一度ファンの皆さんも一緒に戦ってほしいという思いがあったんです。そこで、ピンチの時にみんなの口の端にのぼるようなキャッチコピーを考えていたとき、周りから言われているし、自分たちも何となく口にするのに、はっきりとは言わなかった『残留力』を使おうということになりました」
「『残留力』と言うけれど、当時はその力を発揮していなかったので、『発揮せよ、残留力!』というコピーにした。ファンの皆さんに、これまでもその力を発揮して這い上がってきたんだって思い返してもらうための言葉です。それでB2に降格したら、シャレにならないわけです。公式から発信することで、自分たちで自分を追い込んでいった。周りからは自虐だって言われることもあったけれど、僕たちは本当に、ファンの皆さんと一緒にもう一度這い上がるから応援してほしいという意思があったんです」
地方チーム、メディア掲載の現状と希望
――大宮さんは、スポーツ面の新聞記者を辞めて、レイクスターズの広報になりました。伝える側から発信する側にまわったのは何故ですか?
「僕は学生時代からバスケをしていて、大学ではスポーツビジネスの勉強をしていました。Bリーグになる前のbjリーグとJBLの混乱も見てきたし、そのどん底から這い上がるのも見てきました。Bリーグになって2シーズンは取材する側にいましたが、取材現場で感じていたのは『惜しいな』という感情です。Bリーグの各チームにはコンテンツ力があるのに、関西のメディアではなかなかバスケの話題は取り上げられません」
――関東のチームと地方チームでは、Bリーグを取り上げるメディアの数も変わりそうです。そして、取り上げられる選手にも、偏りがあるように思います。
「関西だと、メディアのネタとして阪神タイガースが強いですね。阪神はもう、ここまで掘り下げるのか…! というくらい細部にわたって報道されて、誌面の多くは野球に持っていかれます。関西のメディアでバスケが紙面を取るには、かなり知恵を絞らないと確保できないのが現状です。僕は、自分から発信してバスケのコンテンツ力を訴えていけば、Bリーグの面白さがもっと多くの人に伝わると感じていた。そのころに縁があって、レイクスターズの広報をさせてもらうことになりました」
――Bリーグのファンは着実に増えているし、チームや選手の情報ニーズも増えていると思います。今後は、クラブ発信からメディアの意識を変えていくことができるかもしれません!
「はい。きっとニーズはあるし、発信するネタもある。レイクスターズには、コンテンツ力があると思うので、発信の仕方を工夫して、メディアに取り上げられるようにがんばっていきます。今までにない面白いバスケのコンテンツを出したい。そこで、どこまでファンを増やせるのか? 僕は、その挑戦をするためにレイクスターズにきたんです」
文:石川歩
写真協力:滋賀レイクスターズ