ナイキKDに込められた、滋賀レイクスターズ伊藤大司選手とNBAプレイヤー・ケビンデュラントの深い縁<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.12>
滋賀レイクスターズが、昨シーズンのBリーグチャンピオン・アルバルク東京のホームに乗り込んで行われた第24節。滋賀の伊藤大司選手にとって、アルバルクは一昨年まで7年間在籍していた古巣であり、絶対に負けたくないチーム。東地区の3位につけ、5連勝中と勢いのあるアルバルクに対し、西地区最下位の滋賀がどう挑むのか注目が集まりました。
GAME1は、滋賀のラワル選手が今シーズンのリーグ単独最多記録のダンク6発を決めるなど、接戦のシーンもありましたが、じりじりとアルバルクの自力に押されて83-70で敗戦。GAME2は、前日と打って変わり日本人選手が積極的に攻め続け、アグレッシブな滋賀のディフェンスに、アルバルクが攻めあぐねる展開に。最終的に70-65と滋賀が2連敗を喫しましたが、最後まで勝敗がわからないエキサイティングな試合を展開しました。
GAME1・2ともスターティング5で出場した伊藤選手は、チームが劣勢でもベンチに下がったときも、チームメイト全員に声をかけ鼓舞し続けました。伊藤選手自身、元チームメイトに負けている状態が悔しくないはずがないのに……。こんな伊藤選手のポジティブなコート上の振る舞いは、アメリカで過ごした学生時代が影響しているようです。
今回は、中学の全国大会で全国2位になり、U15の日本代表に選ばれ、高校からアメリカのモントローズ・クリスチャン高校に留学。高校卒業後にポートランド大学に進学し、NCAA1部出場を果たしたのちに、トヨタ自動車アルバルク(現:アルバルク東京)に入った伊藤大司選手(32歳)に話を聞きました。
バスケの本場アメリカで、伊藤大司選手がサヴァイブした方法は?
——伊藤選手の高校時代のチームメイトには、ケビン・デュラント(NBAゴールデンステート・ウォリアーズ)がいたのですね!
「今でも連絡を取りますよ。彼の家が高校から遠かったので、僕の家に住んでいたんです。練習が終わると2人で僕の家に帰って勉強して食事をして、練習に戻って、また僕の家に帰って、次の朝練習に行くという毎日でした」
——高校時代、伊藤選手はチームキャプテンを任されていました。バスケットボールは、ゴールに近い高身長の選手が有利という競技特性がありますが、アメリカの選手たちのなかで182cmの伊藤選手はどうやってサヴァイブしていったのでしょうか?
「中学で日本代表に選ばれて、天狗になってアメリカに留学しました。でも、アメリカでは一番下手だった。フィジカルではどうしても勝てない。では自分に何ができるかを考えたときに、“コートにコイツがいると良い雰囲気になる”と思われようとしました。どんなときも大声を出して、落ち込んでいるメンバーがいたらフォローして、“コートに伊藤がいると周りがプレーしやすい”という自分の価値をつくっていきました」
——滋賀の試合を観ると、伊藤選手はひときわ感情を出して試合に臨んでいるように見えますが、それは、高校時代から積み上げてきたコミュニケーション術だったのですね。
「最初は無理をしてでもポジティブに振舞って、困っているメンバーがいたら声をかけるようにしていましたが、今では自然に行動できています。滋賀はヘッドコーチがオーストラリア出身だし、外国籍選手もいるので日本人選手との架け橋になるのも、僕の役割だと思っています」
Bリーガー自慢のシューズは?
——今日のスニーカーは、エアマックス95・オレンジです。なかなか手に入りづらいスニーカーですね。
「僕はモノトーンの服を着ることが多いので、足元を明るいスニーカーにしてコーディネートのポイントにするのが好きです。履きやすさ重視で選んで、気に入ると色違いで買うこともあります。僕はふくらはぎと太ももが太いから、夏は『ヴァンズ(VANS)』など、くるぶしまで見えるくらいのローカットを履いて、パンツをロールアップして足首を出して、実は足が引き締まっていますよって見せるのが好きです(笑)」
——これはちょっと自慢できる、というスニーカーは持っていますか?
「エアジョーダン6<AIR JORDAN 6>とスラムダンクがコラボレーションしたスニーカーは、ちょっと自慢かも。好きすぎて、まだ一度も外で履いていないのですが」
今日は、千葉ジェッツ・西村選手への思いがあふれるコーディネートで
——今日のトップスは、どこのブランドですか?
「千葉ジェッツの西村文男がつくった『eleven』というブランドです。バックデザインが良いでしょう?」
——バスケットボールになってる! 目立つのにシンプルで良いです。伊藤選手と西村選手は幼馴染なんですよね。
「2人とも6歳からバスケを始めて、小学校・中学校と一緒でした。僕は高校からアメリカに行ったけれど、日本に帰ったときは文男と練習して、一緒にプロになりました。中学卒業のときに今度は日本代表で会おうって話をして、有言実行で2012年に2人とも日本代表に選ばれた。代表戦のコートに立ったときに2人で泣きそうになって、『あかん! 試合はこれからだ』って気合を入れなおした(笑)」
——西村選手は昨年『ファッションアイコン賞』を受賞して、日本で一番おしゃれなBリーガーになりましたが、昔はどうでしたか?
「あいつ、昔はダサかったんですよ(笑)。中学のときに服装はダサかったけど髪型は気にしていて、おしゃれの片鱗はあったのですが、高校3年間は坊主だった。文男はね、たぶんその坊主の反動でおしゃれになったんじゃないかなと、僕は分析しています」
——西村選手はBリーガーをしながら、自身のブランドを立ち上げたということですね。Bリーガーの競技外の活動についてどう思いますか?
「とても良いと思います。日本ではスポーツをしながら別のことをすると叩かれる傾向にあるけれど、どちらもプロとしてやりきるのはとても勇気がいることです。文男はバスケに本気だから、別のフィールドにも本気でトライできると思うんです」
ケビン・デュラントが伊藤大司選手に贈ったソールデザイン
——伊藤選手が試合で履いているのは『ナイキ(NIKE)』ケビンデュラントのシグネチャーモデルKD11です。これは、ケビン・デュラントとチームメイトだったからですか?
「ケビンのシグネチャーモデルが決まったときに『タイシ、君の名前を入れておいたよ』って彼から連絡がきました。バッシュにサインをしてくれたのかなと思っていたら、実はソール裏のデザインに“Live at ITO(伊藤の家に住んでいた)”と入れていたんです。彼がお世話になった人たちの名前をソール裏に入れるデザインで、そのなかの1人に僕が入っていた。それからずっとKDを履いています」
——それはすごいエピソード! 運命のバッシュは、履き続けるしかないですね。
——伊藤選手は、プライベートでバッシュは履きますか?
「ジョーダン系は履きます。僕は去年1年間、北海道のチームにいたので、ジョーダンのハイカットは雪道を歩くのに重宝しました」
——アルバルク時代から女性ファンが多い伊藤選手に質問です! 女性が街でバッシュを履いているのをどう思いますか?
「大好きです! たとえばパーカーとスキニーパンツにバッシュを合わせると、バッシュメインでコーディネートした感じが出ますよね。それも好きだけれど、僕はロングスカートやニットワンピースに、さらっとジョーダンを合わせていると『わあ!』って振り向きますね。これ、僕の性癖が出ていませんか(笑)? 引かないでくださいね」
——これから滋賀ブースターは、ワンピースにジョーダン姿の女性が増えそうです(笑)。
“たかがバスケだ”と考えられる、心の強さを
——チームが劣勢でも、伊藤選手がチームメイトを鼓舞し続ける姿に、私たち観客は勇気づけられます。ただ、伊藤選手ご自身が落ち込むこともありますよね? そんなとき、どうやってバスケへのモチベーションを保っていますか?
「これは意味を間違えずに聞いてほしいのですが、自分のプレーでうまくいかないとかチームが負けたとしても、“たかがバスケだ”と思うようにしています。僕の人生が1本の木だとして、太い枝がバスケであることは間違いないですが、幹の部分は家族や親友でできている。1試合負けるのと家族の不幸では重みが違うのだから、“たかがバスケだ”と思うことにした」
「こう思えるようになったのは、3年くらい前です。それまでは、試合に負けると本当に心が折れてしまって、不機嫌で誰にも会いたくなくなって、プライベートの約束も守らなかったんです。でも、あるときその心が折れている時間に、本当は出会うかもしれない人や、何かを始めるきっかけを失うのはもったいないことなのだと気がつきました」
今シーズンのBリーグも後半戦に入ってきました。5月のチャンピオンシップに出場するのはどのチームなのか? 様々な予想が出る一方で、プレーオフでB1残留のために戦うチームもいます。滋賀は2月時点で西地区最下位と厳しい状況にあり、これからが正念場。伊藤選手は最後に、「まずは1試合でも多く勝つこと。残留プレーオフの可能性もあるので、なんとしてもB1に残る。これは、僕のプライドと責任を持ってやります」と語りました。
2月25日に行われたワールドカップアジア最終予選で日本代表はカタール戦に勝利し、自力でワールカップ出場を決めて大きなニュースになりました。ワールカップ予選の最終戦に出場した選手は全員、Bリーグでしのぎを削っています。チームは全国に点在しているので、日本最高峰のプレーを見に、ぜひ近くのホームゲームに足を運んでみてください!
INTERVIEW / TEXT:石川歩
PHOTO:野呂美帆