流川楓のエアジョーダン5で登場。山崎稜選手×SLAM DUNK【Bリーガーと漫画VOL.12】
お気に入りの漫画についてとことん聞いて、選手の個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。12回目は山崎稜(やまざき・りょう)選手(2020-23群馬クレインサンダーズ、2023‐広島ドラゴンフライズ ※インタビュー時の所属チームは群馬クレインサンダーズ)が登場です。
語るのは、バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』(井上雄彦、集英社、ジャンプ・コミックス)です。山崎選手は、『SLAM DUNK』の作者である井上雄彦さんが創設した「スラムダンク奨学金」の第4期生として、アメリカのサウスケントスクールに留学しました。
『THE FIRST SLAM DUNK』のラストに出てくる体育館は……
――山崎選手は、2011年からスラムダンク奨学金でアメリカのプレップスクール(大学に進むための予備教育を行う学校)に留学しました。アメリカでも『SLAM DUNK』を読んでいましたか?
いえ、読んでいないです。留学中は、あらゆるエンタメが完全にシャットアウトされていましたから。でも、『SLAM DUNK』は中学の頃に初めて読んでから今に至るまで何度も何度も読んでいます。僕は「SLAM DUNK読みたい周期」が定期的にやってくるんです。通常版で読んだあとに完全版(ワイドサイズの全24巻。表紙は描き下ろし)で読んだりしますね。
――この連載で『SLAM DUNK』を語るのは、山崎選手が初めてです。スラムダンク奨学生の山崎選手が語る『SLAM DUNK』を楽しみにしていました!
『SLAM DUNK』には本当にお世話になっていますから、今回のインタビューの話を聞いたとき『SLAM DUNK』にしようと思いました。『SLAM DUNK』は、僕をつくった一部です。奨学金でアメリカに行って、奨学生になったことで井上(雄彦)先生と出会えました。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』のラストで、宮城(リョータ)が渡米してバスケをするシーンがあります。宮城がバスケをしている体育館が、僕たち奨学生が渡米した先の体育館にすごく似ているんです! 井上先生は奨学生が通った体育館から着想したのかと思うほど似ていて、(並里)成さんもそうだと思うけど、すごくうれしくなりました。
――アメリカ留学中、アイデンティティ・クライシスに陥いることはなかったですか?
それまで生きてきた環境が本当にガラッと変わるから、「自分は何なのか」と考えてしまう人は多いかもしれません。僕は物事を深く考えないタイプで、適当に楽観的に生きてるから全く気にならなかったです。ホームシックもなくて、留学という選択は僕に合っていたと思います。
考えないことが海外の生活のコツです(笑)。僕は昔からずっと同じで、考え込むことなく「出来ないことは出来ない。仕方がない」と割り切っています。ずっと英語を勉強してきたわけじゃないから、話せないものは話せないと割り切ることで、留学中の気持ちが切り替わっていました。僕は適当なところは本当に適当で……こういうタイプのバスケ選手もいるんですよ。
山崎選手が神宗一郎を好きな理由
――山崎選手が『SLAM DUNK』で好きなキャラクターは、海南大附属の神宗一郎です。好きな理由は?
まず、僕が神と同じシューターだということです。それに、僕は光が当たるメインキャラクターよりも、陰でそっと輝くようなキャラクターが好きです。神はいぶし銀というか、目立たないところで活躍するのが良い。
『SLAM DUNK』のシューターといえば三井(寿)ですよね。問題児からチームを救うシューターになるというストーリーが良いけれど、三井は作品の中ではメインキャラクター。僕は、神のように「こんな選手もいたな」ぐらいが好きなんです。
――山崎選手と神の雰囲気は、どこか似ている気がします。
そうですね。似ていると思います。物静かそうな感じで、僕自身も脚光を浴びるタイプではないし、そんなに目立たなくていいとも思っています。でも、「チームにとって必要な選手だよね」と見てもらえる選手でありたい。
チームスポーツには、光の当たるメインの選手がいます。でも、陰で絶対的にがんばっていてチームを支える選手もいます。2つのタイプの選手がいてチームは成り立つから、僕は陰のほうで輝けたらと思っています。
――「陰のほうがいい」というのは、山崎選手がもともと持っている性格ですか?
そうですね。昔から前に行くタイプではないです。先生の話を聞くために集まるときも、なるべく後ろのほうで聞いていました(笑)。話は聞こえるからイイやって。ロッカーの場所も選べるなら、一番端っこを選びます。
神宗一郎は、どんなバッシュを履いているか?
――今なら、神宗一郎はどんなバッシュを履いていると思いますか?
アシックスだと思います。語弊があるといけませんが、アシックスはナイキやアディダスよりも目立たないんです。カッコつけない選手が履いているイメージがあるから、神はアシックスを選ぶんじゃないかな。それに、強豪校はアシックスのイメージがあります。アシックスは日本人の足に合っているから、強豪校の運動量についていけるのだと思います。
ーー山崎選手は何を履いていますか?
僕はずっとナイキです。2022-23シーズンはレブロン20を履きました。レブロン20以前は重くて選ばなかったのですが、20でローカットが出たので選びました。
――今日は、流川楓が履いているエアジョーダン5を履いてきてくれました!
昔のバッシュは、こういうハイカットばかりだったと思います。機能性を考えると、いまエアジョーダン5を試合で履くのはありえないです。今日は、『SLAM DUNK』について話すということで履いてきました。
スニーカーは好きで、ナイキのダンクLOWやジョーダンシリーズの抽選に応募していた時期もありました。でも、そもそも普段はスニーカーを履かないことに気がついて、応募するのをやめました。僕はシャツもデニムも着なくて、基本はスウェットです。(五十嵐)圭さんが、「ジャージのセットアップがかっこいい」と言ってくれたのをよく覚えています。普段着のようにジャージを着るって、スポーツ選手の特権だと思います。
神宗一郎の「毎日500本イン」は大変か?
――ここからはバスケ未経験者が、バスケットボールと『SLAM DUNK』をより理解するために、素朴な疑問を山崎選手に聞いていきます。まず、神宗一郎は監督に「センターはとうていムリ」と言われてから1日500本のシューティングを欠かしませんでした。これは、どのくらいすごいことですか?
うーん、1日500本は簡単というか……時間をかければ打つことはできると思います。ただ、神の500本というのは打つのではなく、500本決めることだと思うので、めちゃくちゃ時間がかかっていると思います。高校時代を振り返ってみると、全体練習をしたあとの疲れた体で500本インを毎日欠かさず続けるのは大変だと思います。
――山崎選手なら、500本インはどのくらいかかりますか?
500本決めようと思ってシューティングしたことがないので正確にわかりませんが、1時間はかからないと思います。たとえば、スリーポイント5ヶ所の各スポットで10本インを往復して100本イン。これを5セットシューティングするとします。10本インを往復して100本入れるのに10分かからず終わると思うので、単純に計算すると50分くらいです。
ただ、神は高校生です。僕が高校生だったらもっと時間がかかると思うし、500本を毎日決め続けるのはなかなか大変だと思います。
――桜木花道は、練習初日に自分のドリブルの「ダムダム」が響いて眠れませんでした。これはバスケ初心者あるあるですか?
いやー、ダムダムは感じたことがないです。僕が最初にダムダムしたのはミニバスでしたが、嫌な記憶が植え付けられるほどドリブルをしていないと思います。小さなころは、ボールに触れているだけで楽しかった記憶しかありません。おそらく、桜木は初めてダムダムするには大人すぎたのだと思います。
――桜木花道がエアジョーダン6を履いて練習に行ったとき、「新しいバッシュは怪我をしやすいから一種のゲンかつぎ」として、メンバーが花道のバッシュを踏みます。バスケをする人はやっていることですか?
いえいえ、やらないですね。それこそ、『SLAM DUNK』を読んで、そんなゲンかつぎがあると知りました。学生時代は周りもみんな『SLAM DUNK』を読んでいたので、当時は新しいバッシュを履いていくと踏まれましたね。
自分の生きる道は、自分で見つける
――相田彦一と陵南高校の監督・田岡茂一が湘北VS.翔陽戦を見ているシーン。彦一は流川楓の活躍を見て、「ワイにはあんな身長も素質もないわ ワイは一生かかっても流川くんのような選手にはなられへんやろ、165センチのワイには」と心の中でつぶやきます。このシーンは、多くのバスケ経験者の感情を表現していると感じました。
僕にも経験がありますよ。最初の体験は、小学6年生の選抜選考会です。各チームから上手い選手が参加する選考会で、僕は落ちたんです。選ばれたのは上手くないけどデカい人で、「やっぱりバスケには身長が大事なんだな」と思いました。
――『THE FIRST SLAM DUNK』でも描かれましたが、宮城リョータはチビの生きる道を示しました。
宮城は、バスケで生きていくためにスピード・ドリブル・パス・シュートが大事だとしっかり表現しました。リョータがドリブルこそチビの生きる道だと気づくまでには、自分の活路を見出さなければいけないという危機感があったと思います。
僕はアメリカに行って、自分が通用するものを示さないとチームで認めてもらえず、試合に出られないと身にしみました。それで、得意の3Pシュートで必死にアピールしたんです。『THE FIRST SLAM DUNK』の宮城は、「自分はこれで生きていく」というものを見つけて表に出していく大切さを、改めて認識させてくれました。
山王戦後半、山崎選手は桜木花道のように試合に出るか?
――山王戦で桜木花道は背中を怪我しますが、痛みを我慢して試合に出ます。山崎選手は、もしあの状況になったらどうしますか?
桜木はルーズボールに突っ込んでから背中に違和感が出て、そのあと”ビキッ”と激痛がありますよね。僕ならそこで「ちょっと待てよ」と、一瞬のあいだにめちゃくちゃ考えると思います。試合は後半、勝負がかかった場面、自分のリバウンドで勝利がつかめるかもしれない。
うーん……僕なら出るかな。難しいけれど……コートに出ますね。それで、本当に痛みがひどすぎて戦えなくなったら変わります。チームにとっては、コートでプレーできなくなるのが最もマイナスだから。
試合中はアドレナリンが出まくっているから、怪我をしてもほとんどは痛くないんです。試合が終わってから痛くなって、腫れていることに気がつきます。コートでは景色も声も気にならなくて、リングと相手のことしか見えていない。それぐらい集中しているから、そもそも痛みの感覚は麻痺していると思います。
――最後に、『SLAM DUNK』について一言。
若い世代は、『SLAM DUNK』を知らない人がたくさんいると思います。でも、『SLAM DUNK』を読みはじめたらきっと「バスケットは楽しいんだ」と感じてもらえます。『SLAM DUNK』がバスケに触れるきっかけになって、そこから実際にバスケを見に行ってみようと思う人が出てきたら、すごくうれしいです。
取材・文:石川歩
写真:白松清之
取材・写真協力:群馬クレインサンダーズ