エアジョーダン1かダンクかエアフォース1か? 三遠ネオフェニックス・山内盛久選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.47>
Bリーグ×ファッション連載47回目は、三遠ネオフェニックスの山内盛久選手が登場。この連載は2度目の登場です。山内選手は、琉球ゴールデンキングスの練習生からバスケキャリアをスタート。2017~2021年をサンロッカーズ渋谷で、2021-22シーズンから三遠ネオフェニックスで戦っています。
今回は私服のこだわり、バスケの取り組み方、人生のキーマンから離れてチームを移籍した時の心境などを聞いてきました。
毎日、スニーカーの抽選をしているんです
――事前の情報では、エアジョーダン1ROWのエメラルドグリーンを履いてくると聞いていました。
家を出るときに、エメラルドグリーンよりも落ち着いた色を履きたくなって、エアフォース1<AIR FORCE 1>のウィートヌバックに変えました。『ナイキ(nike)』ダンク<Dunk>のオレンジか、ABCマートさんで買った『ヴァンズ(VANS)』と迷ったんですが、ヴァンズはシルエットが細くて今日の服には合わなかった。結局、ラフにもカチっとした服装にも合うエアフォース1にしました。
――エアジョーダン1は、着る服を選ぶのですか?
ジョーダン1はカッコいいイメージがあるから、今日の服には合わないと思って。僕はジョーダン1のローカットのあんばいが好きです。スニーカーと内くるぶしがフィットするんです。ジョーダン1はエメラルドグリーンの他にイエローホワイト、ブレッドも持っています。ブレッドと言っても、抽選じゃないほうです。
――山内選手は、スニーカーの抽選はしないのですか?
抽選はしているんです。毎朝9時からポチポチってクリックしているのに、当たらない。たまに「当たった!」と思ったら、抽選後に普通に定価で買えるスニーカーだったりして。僕はプレ値では買いたくないんです。負けた気持ちになっちゃうから。
それで一つ決めたことがあって。自分が抽選するスニーカーをSNSで発信するのをやめたんです。「このスニーカー出るんだ!」とSNSでアップすると、「わ! いつですか?」という反応があって、この行動は抽選の敵を増やしていることに気がついた(笑)。
――今日はオーバーオールがポイントです。
いじりやすい服装ですよね(笑)。ネットで見て、安かったから買いました。高価な服を着たらカッコ良く見えるけれど、僕は安い服をカッコ良く着たいと思う。ハイブランドを着ている選手には夢を持てるけれど、見た人が真似したくてもできないですよね。
どんな服でも、色の組み合わせとバランスを気をつけています。今日は、帽子とスニーカーの色を合わせました。鏡を見ながら「少しでも足が長く見えるといいな」と思って裾をロールアップして。服は、全身のバランスと着る時のフィーリングで決めます。
自分がバスケをする先に、何があるのか?
――前回のインタビューでは、カラー展開が豊富なバッシュを選んでいると聞きました。
最近は、スニーカーのプリントを手がけている沖縄の後輩にペイントしてもらっています。ホームでパートナーの冠ゲームの時に、企業カラーにペイントをしたバッシュを履いています。
――ブースターやパートナー目線で行動する。こういう山内選手のサービス精神は、どこからきているのですか?
ただ試合会場に行って試合をするだけは面白くないし、ブースターやパートナーから自分たちの給料が出ているのが事実です。応援してもらっていることに対して、何かを返したい。その思いを自分なりに噛み砕いて、試行錯誤しながら感謝を表現しています。
この心持ちがどこから来ているかと言われれば、プロになった時からそういう教えの中にいたからです。琉球(ゴールデンキングス)では、何のためにバスケをするのか知るところから始まりました。
自分たちはプロバスケ選手になりたいからバスケをしていますが、その先には何があるのかを考える。沖縄は小さな島なので、応援してくれる人たちが近かったし、沖縄の地域特性もあって「沖縄をもっと元気にする」というチームスローガンを持っていました。バスケの試合を見た人に「明日もがんばろう」と活力を持ってもらう考え方が自分の中に根付いています。
山内のバスケットはこれで終わってしまうのか?
――琉球ゴールデンキングスの練習生になった時もサンロッカーズ渋谷に入団した時も、山内選手を導いたのは伊佐勉ヘッドコーチでした。なぜ、伊佐ヘッドコーチから離れて三遠ネオフェニックスに移籍したのですか?
ずっとムーさん(伊佐勉ヘッドコーチ)とやっていて、マンネリというか……ムーさんがやりたいことも理解しているし、自分がやることもわかっている状況でした。でも、2シーズンくらい前から「山内のバスケットはこれで終わってしまうのか?」「もっといろんな幅があるんじゃないか?」と思うようになった。僕のバスケの考え方はムーさんと同じ感覚ですが、それはムーさんが持っているバスケの幅です。もしも違うコーチについたら、自分の知らないバスケができて、幅が広がるかもしれないと思ったんです。
あと、これはムーさん自身が感じているかどうかわかりませんが、(サンロッカーズ)渋谷にいた時は、僕にある程度まで選手間の部分を任せてもらっていました。ムーさんが見きれない部分を、僕がフォローしていたところがあったんです。
ここからは僕が勝手に考えていたことですが、そういう状態は僕もムーさんも成長が止まってしまうのではないか……と考えました。それで、バスケの考え方がガラリと変わりそうな外国籍ヘッドコーチのいる(※)三遠(ネオフェニックス)に来ました。
――山内選手が渋谷から移籍した2021-22シーズン、三遠ネオフェニックスは10勝48敗、西地区最下位でした。
10勝しかできないのは僕のキャリアで初めての経験だったので、苦労したし、悩んだシーズンでした。あそこまで勝てないと逆に振り切れて、開き直りは早かったです。勝てないことについて、「勝てない、勝てない」と思っていても勝てるわけではない。「勝つためにどうする?」「まずは、今やるべきことをしっかりやろう」というマインドに切り替わるのは早かったです。
※三遠ネオフェニックスは、2020-21シーズンと2021-22シーズンの途中までセルビア出身のブラニスラフ・ヴィチェンティッチ氏が指揮した。2022-23シーズンは大野篤史氏がヘッドコーチに就任している。
今季の三遠ネオフェニックスはどんなチーム?
――外国籍ヘッドコーチの元で、山内選手のバスケ観は変わったのですか?
チームとしての結果は出ませんでしたが、個人的には新しいバスケを知れました。それまでのバスケとは真逆の考え方・捉え方で、とても新鮮でした。日本人コーチは手堅い戦術が多いんですが、セルビアのコーチの考えは逆で、柔軟で攻めるバスケだった。それまでの僕の普通なら守りに入るところを「そこ、行っちゃうんだ」ということが多くて学びになりました。
昨シーズンは新しいバスケに触れたわけですが、頭で理解してもすぐに体はついてこない。じゃあどうするかと考えて、先の先を見通して動くようにしていました。ただ、コート外では考えがまとまっても、コートではイレギュラーが起きるから難しいんですが。
今シーズンも(大野篤史ヘッドコーチになって)考えるバスケになったので、もう常に考えていますね。特に今シーズンは、一人でわかっていればいいんじゃなくて、コートにいる5人全員の理解が必要だから「このプレーはこうして、次の展開はこうで……」と考えていると眠れなくて(笑)。シーズンが始まってようやく眠れるようになりました。
――今シーズンの三遠ネオフェニックスは、どんなチームですか?
選手もスタッフも会社もガラリと変わりました。これだけ良い環境とメンバーが揃っているから、個人の力で勝つのではなく、レギュラーシーズンでチームのダメな部分を出し切って、チャンピオンシップでみんなで勝ちたいです。
お客さんの視点で考えれば、早く真新しいチームの勝つシーンを見たいと思うんです。でも、琉球(ゴールデンキングス)の時から、どんなに良いメンバーを揃えても勝てない時期があるのはわかっています。負けた試合の方が学びが大きいので、早いうちに今シーズンの自分たちのダメな部分を出し切りたい。そこをみんなで解決して、優勝できるチームになりたいと思っています。
4人の子どもたち、今はお父さんブースター(のはず)
――以前のインタビューで、山内選手のお子さんは千葉ジェッツの富樫勇樹選手が好きだと言っていました。
今は僕のブースターになっていると思います。そう思いたい(笑)。上の子ども二人はバスケ部に入ったんです。僕からバスケをやれとは言っていないのですが、遊びでもバスケをしているみたいで嬉しいです。親から見てですが、長男はシュートが上手い。そして、次男はなぜかディフェンスしかしない。ボールがきても、すぐにパスしてディフェンスの体制に入るんです(笑)。兄弟で個性が出ていて、面白いですよね。
取材・文:石川歩
写真:藤原萌
取材協力:三遠ネオフェニックス