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人生を変えた漫画について語ろう。千葉ジェッツ・ラシード ファラーズ選手×アイシールド21【Bリーガーと漫画VOL.10】

2023.02.15

お気に入りの漫画についてとことん聞いて、選手の個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。10回目は千葉ジェッツラシード ファラーズ選手が登場。

ラシード選手は1997年生まれ、埼玉県出身でパキスタン人の父と日本人の母を持つハーフの選手。東洋大学在学中に練習生として千葉ジェッツに加入。202cmの身長と高い運動能力を生かしたダイナミックなプレーが特徴です。

語るのは、パシリの高校生がアメリカンフットボールを通して一流選手へ成長する姿を描いた『アイシールド21』(原作:稲垣理一郎・作画:村田雄介、集英社、ジャンプ・コミックス)です。

勝つことより大事なことってないの?

――『アイシールド21』を選んだ理由は?

小学生の時に漫画を読んだら、めちゃくちゃ面白かった! 実家に全巻あって、いま一人暮らしをしている家にも全巻あって、電子書籍版も持っています。

漫画が好きで他にもいろいろ読んでいますが、アイシールド21はプロバスケ選手になる過程で最も影響を受けた漫画です。僕の人生を変えてくれた原作の稲垣(理一郎)さんと作画の村田(雄介)さんには感謝しています。

僕には、「ラシード選手に影響を受けて○○になった」と、誰かの人生を良くする影響を与えたいという夢があるんです。作者の二人は僕の人生を変えた時点で、僕の夢を叶えた人たちです。今も読むとプロとしてのモチベーションを高めてくれるし、スポーツをする原点に戻らせてくれる漫画です。

人生を変えた漫画について語ろう。千葉ジェッツ・ラシード ファラーズ選手×アイシールド21【Bリーガーと漫画VOL.10】

©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――ラシード選手が好きなキャラクターは、蛭魔妖一(ひるまよういち・以下ヒル魔)と聞きました。

決めるのに20分かかりました(笑)。ヒル魔か主人公の小早川瀬那(以下セナ)、白秋ダイナソーズの円子令司、王城ホワイトナイツの進清十郎……考え始めたらキリがなくて。でも、一人に決めるならヒル魔です。ヒル魔はみんなに厳しいけれど、裏ではめちゃくちゃ努力している。本当は動けないほど膝が腫れていても、一人になるまでは痛いそぶりさえ見せない。チームリーダーとしてのヒル魔の姿は、僕も参考にする部分があります。

――ヒル魔に似合う靴は何だと思いますか?

革靴が似合いそう! 黒かダークブラウンで、先が尖っている革靴。ヒル魔は派手な髪型が特徴で、明るい色のジャケットとシャツを着てそうだけど、足元は紳士的にキメそうです。

――ヒル魔の好きなシーンは?

たくさんあるな……ヒル魔は、白秋ダイナソーズ戦で利き腕を骨折するんです。でも、後半戦に戻ってきて、2度目のパスチャンスでまさかのロングパスを投げる。骨折した腕の激痛に耐えているのに、表情には一切出さない。このシーンは本当にすごいです。

――激痛に耐えるヒル魔に共感するのですか?

いえ、そうではなくて。試合に勝つために痛みを我慢しているところが、素敵なんです。ヒル魔があの場面でパスをしなかったら、対戦相手に「ヒル魔はパスができない」とバレて相手の攻撃の選択肢が増えてしまう。ヒル魔の自分を犠牲にする態度は、チームの勝利のために絶対に必要だったんです。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――「チームの勝利のために」で印象的なシーンがあります。ガリ勉でスポーツに無縁だった雪光学が努力を続けてレギュラー発表に臨むけれど、バスケ部の助っ人に抜かれてレギュラーに選ばれない。発表を聞いたマネージャーがヒル魔に「勝つことより大事なことってないの?」と聞くんです。ヒル魔は「ねえよ」と答えるのですが、このシーンをラシード選手はどう読みますか?

あくまでも彼らの夢はクリスマスボウル(高校アメフトの全国大会。毎年クリスマス前後に開催される)に出ることです。難しいのは彼らが高校生ということだけれど、それでもヒル魔が雪光をレギュラーに選ばないのは、夢の実現のために”情で選ばない”という選択をするのがベストだと分かっているからです。僕もこのシーンを読んだ時はツラかったのですが、この話には続きがあります。

雪光は、レギュラーから落ちた後も諦めずに努力を続けるんです。そして、関東の王者・神龍寺ナーガに32点差をつけられた場面に雪光が登場して、ファーストタッチダウンを決める! もう……初めて読んだ時は鳥肌が立ちました! ヒル魔は先の先を読んでいて、雪光がきちんと戦力になることが分かっていた。バスケ部の助っ人にレギュラーを奪われたのは、神龍寺ナーガ戦の活躍の布石だったと思います。

人生を変えた漫画について語ろう。千葉ジェッツ・ラシード ファラーズ選手×アイシールド21【Bリーガーと漫画VOL.10】

ラシード選手が、心の保険を外した時

――神龍寺ナーガ戦の終盤で、一発逆転を狙うか延長戦に持ち込むかチームで話し合うシーンがあります。ヒル魔のチームメイト栗田良寛は「少しでも長くこのメンバーで戦いたい」と言って延長戦を選ぼうとする。そこでヒル魔は「負けて全てが終わる想像があまりに怖いから、心に保険を掛けている」と栗田の心の中を見抜きます。望まない結果になりそうな時、言い訳をして心に保険を掛けるのは、誰でもやりがちな行為だと思います。

僕も、「さっきシュートを外したのは、肘を狙われたから」「今日の審判が……」と、心の保険を掛けたことはあります。ただ、大学の頃に自分に言い訳しても何も生まれないと分かったんです。

キツい練習が続いていた大学3年の時に、個人練習をするかしないか迷っていて、「全身が筋肉痛だから」「練習がキツかったから」「今日休んで明日頑張るから」と言い訳をして個人練習をしませんでした。でも、一度言い訳をするとクセがついてしまうんです。気がつくと、トレーニングの重量が全く増えていなかった。それからは心に保険を掛けずに練習をして、今は大学生の頃に夢みたプロ選手になっています。早い段階で、自分に言い訳しても仕方がないと気付けて良かったと思います。

この気付きは、バスケ選手を引退しても通用しますよね。どんな社会生活を送っていても、ずっと昨日と同じ生活をしていたら、いずれ退化してしまうと思うんです。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――ヒル魔やセナが一流選手になるかどうかのターニングポイントは、40日で2000kmを走破する死の行軍(デスマーチ)に参加するかどうかでした。いま振り返って、ラシード選手なりのデスマーチはありますか?

あります。大学1年の時にプロバスケ選手になると決めて、大学2年からずっとやっていた自主練が僕のデスマーチです。毎朝5時に起きてトレーニングをして、朝9時までシューティングする生活を大学4年まで続けました。朝起きるのがしんどいけど、眠いと言って寝ているほうが余計にツラい。「弱いな僕は、自分に負けたんだな」と思ってしまう。それに、睡眠時間を削ってでも練習しないと、自分はプロ選手になれないと分かっていました。

千葉ジェッツの「煽り耐性高い組」「怒り沸点低い組」は?

――千葉ジェッツで例えると、セナは誰ですか?

「僕」と言いたいです。セナも僕も高校から競技を始めたという共通点があって、いろんな人に出会い支えられて今があるところも似ています。セナは足の速さが特徴で、その特徴を見たら(富樫)勇樹さんだけど、勇樹さんはセナのキャラクターとは全く違う。主人公は僕がいただきます。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――ヒル魔は?

(西村)文男さんです。相手の心理を読んで裏をかくプレーは、文男さんが一番多いです。文男さんはアイデアも豊富で、チームで最もスマートな人です。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――栗田良寛は?

栗田は、(荒尾)岳さんです。栗田はチームの精神的な柱です。特に、神龍寺ナーガ戦後の栗田は心強い。一方で、試合以外はチームの癒しキャラです。みんなに突っ込まれながらチームの雰囲気を和ませる。千葉ジェッツで言えば、岳さんがその役割を担っている。柔らかくて優しい人です。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――雷門太郎(モン太)は?

ジョン・ムーニーです。モン太はキャッチの才能でのしあがるキャラクターですが、ジョンもめちゃくちゃキャッチが上手い。でも、モン太のアツくて天然なキャラクターは、ジョンに全く当てはまらないな……モン太のキャラクターである天然でチャーミングな人と言えば、千葉ジェッツでは(佐藤)卓磨さんです。モン太は、ジョン+卓磨さんを2で割ってください(笑)。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

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――十文字一輝は?

(佐藤)卓磨さんです。物語の後半から頼もしい選手として描かれているし、試合中はめちゃくちゃアツいところが似ています。ホットでいく部分とクールにこなす部分の両軸があって、僕にとってはお兄さん的存在です。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

――アメリカ戦で日本代表が煽られるシーンで、代表メンバーを「煽り耐性高い組(冷静)」「怒り沸点低い組(すぐ怒る)」に分ける場面があります。千葉ジェッツで分けるとどうなりますか?

煽り耐性高い組は、(西村)文男さん、(富樫)勇樹さん、(荒尾)岳さん、意外と(大倉)颯太も煽り耐性高めです。

怒り沸点低い組は、僕と(佐藤)卓磨さん、外国籍3人(ヴィック・ロー、ジョン・ムーニー、クリストファー・スミス)です。コートにいる選手にしか分からないですが、特に外国籍3人組は試合中もめちゃくちゃ言い合っていますね。

煽り耐性高い組・怒り沸点低い組に分けて、試合観戦するのも楽しいかも! 「あ、また怒ってる」「全く笑ってないね」とか気付きがあるかもしれません(笑)。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

“持っていない側”は“持っている側”になれる

――ヒル魔たちが東京大会で対戦した巨深ポセイドンは、高身長の選手を揃えて体格差で押しまくります。「努力と根性だけでは勝てない」ことを表現した試合でした。

生まれ持った骨格はどうしようもない。僕もプロの世界に入って、大きい人、腕が長い人、骨格がそもそもバスケに向いている人を見て「いいな」と思うんです。でも、僕がそう思うだけで、他の選手は僕を「いいな」と思っているかもしれない。

人の心の中はどうやっても探れないし、どうしようもないことは、どうしようもないんです。考えても分からないことより、自分の武器を見つけて追求していけばいいと考えるようになりました。

ヒル魔が言うんです。「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」って。本当にその通りです。

――外からラシード選手を見ると、巨深ポセイドン側にいるように見えます。身長が202cmあってハーフで、”持っている側”の選手だなと。

身長が伸びたのはバスケを始めた高校からで、それまでは僕より足が速い人はたくさんいました。自分がハーフだから何かがあると分かったのはプロに入ってからです。しっかりトレーニングをしたら、「自分は飛べるほうなんだ」「速いほうなんだ」と気付いた。

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©︎CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

アイシールド21のキャラクターは、みんな自分の戦い方を見つけて勝っていきます。これは、見方を変えれば、“持っていない側”は“持っている側”になるということです。僕の武器はこの身長で速いこと。クイックネスとジャンプ力があること。セナと同じで、高校からバスケを始めたから経験値で劣っているぶん、今は身体能力で戦っていくと決めています。

――バスケ経験値が低いことは、ラシード選手のコンプレックスですか?

「もっと前からバスケをしていればよかった」と100万回は思っています。周りの選手はミニバスから全国で戦ってアンダーカテゴリーで日本代表に選ばれているけれど、僕は学生時代に全国で戦った経験もない。今は、僕の過去も含めて戦っています。

一方で、小さな頃から水泳・サッカー・テニス・クリケットなどいろんな競技を経験してきました。いろんなスポーツの良いとこどりをして、今の自分がいると考えています。

きれいめファッションに、エアジョーダン1を合わせる

――ラシード選手の最近のお気に入りの靴は?

僕は足のサイズが32cmで、合う靴がなかなか無いです。とにかくサイズがあったら買うという感じです。1年前ですが、ナイキのアプリで32cmのスニーカーを見つけて、カラーが好みで買いました。エアジョーダン1のイエロー×ボルドーです。私服はきれいめファッションが好きなので、シャツにジャケットをはおって、デニムと合わせて履いています。

人生を変えた漫画について語ろう。千葉ジェッツ・ラシード ファラーズ選手×アイシールド21【Bリーガーと漫画VOL.10】

取材・文:石川歩
取材・写真協力:千葉ジェッツ

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