「プロバスケ選手が等価交換したものは?」横浜ビー・コルセアーズ 西野曜選手×鋼の錬金術師【Bリーガーと漫画VOL.13】
お気に入りの漫画についてとことん聞いて、選手の個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。13回目は、横浜ビー・コルセアーズの西野曜(にしの・よう)選手が登場。語るのは、『鋼の錬金術師』(荒川弘、スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス)です。
自分軸をぶらさず、納得して行動する人に憧れる
――『鋼の錬金術師』を選んだ理由は?
中学1年の時に、おじいちゃんの家の書斎に『鋼の錬金術師』が置いてあったんです。なんとなく読みはじめたら止まらなくなって。おじいちゃんの家って夏休みにしか行かないから、夏がくるたびに読むのを楽しみにしていました。人生で初めて最後まで読んだ漫画が、鋼の錬金術師です。
――夏休みしか読むチャンスがないと、続きが気になりませんか?
はい。結局、続きが気になるからブックオフとかで立ち読みしていました。子どもの頃は買わなかったんですが、今回インタビューのお話がきて全巻買ったんです。やっぱり面白くて、いま改めてハマって読んでいます。中学の時は絵が見たくて読んでいた面もあったけれど、今読むと考えさせられる部分があって、自分の成長も感じながら読んでいます。
――西野選手が好きなキャラクターは、オリヴィエ・ミラ・アームストロングです。好きな理由は?
冷酷で性格がきつくて、「氷の女王」というあだ名のキャラクターなんですが、言動にしっかり筋が通っているのがいいです。あと、顔が美しい。ああいう見た目の人けっこう好きなんです。姉御肌で、ついていきたくなる雰囲気があって。
――恋人にしたいタイプですか?
本当の恋人にはしたくないです。自分が自分じゃなくなっちゃいそうで。オリヴィエは、遠くから眺めて学ばせていただくって感じの人です。自分がオリヴィエと親密になったら失言してキレられそうだし、オリヴィエと付き合ったらお金がかかりそうっす。
――人として憧れる面があるのでしょうか?
オリヴィエって、間違ったことは言わないんです。本当の人格者っていうか、情が深くて仲間思いで。それって、自分が目指す理想像に近いかもしれないです。オリヴィエは誰かから聞いた噂話じゃなくて、自分が見たものしか信じないし、自分で判断して自分で責任を取る。自分軸をぶらさず、納得して行動をとる人はいいなと思います。
――オリヴィエの好きなシーンは?
部下のバッカニアが死んだという情報を聞いたシーンです。普通だったら、ずっと一緒に戦ってきた部下が死んだら悲しみますよね。もちろん、オリヴィエも心の中で悲しんでいると思うけど、「バッカニアが笑って逝ったのなら、我らが泣く訳にはいかん」と言って前進するんです。
その後、オリヴィエは、バッカニアが敵のブラッドレイに致命傷を与えて死んだことを知るんです。そして、ブラッドレイの亡骸を前に「…どうだブラッドレイ 私の部下は強かったろう…?」とつぶやく。このシーンにグッときます。ブラッドレイは敵だけど、亡骸にはきちんとリスペクトもしている。彼女のブレない言動はさすがです。
――オリヴィエに履いてほしい靴は?
何を履いても似合うけど、クールな雰囲気があるからドクターマーチンとか似合いそうっす。ベーシックなブーツやシューズじゃなくて、サンダルがいい。スニーカーだと可愛らしくなりそうなので、オリヴィエの美しさとかっこよさを引き出しそうなドクターマーチンのサンダルがいいです。
――西野選手のお気に入りのスニーカーは?
最近買ったのだと、コムデギャルソンとコンバースがコラボしたスニーカーです。大きめのTシャツとストレートデニムを合わせています。シャツをインするのと、デニムの丈を足首が見えるくらいの長さにするのがこだわりです。
「自分が心地よい場所に、ずっといてはいけない」
――西野選手がプロバスケ選手として、鋼の錬金術師に感情移入するシーンはありますか?
バスケはずっと同じことをやっていてもダメで、上手くなるために新しいことをどんどん取り入れないといけないです。アンダーカテゴリーの日本代表をやった時のヘッドコーチにトーステン・ロイブルさんがいて、「自分にとって心地よい場所に、ずっといてはいけない。心地よい状況から抜け出さないと成長はない」と言われました。この言葉はずっと自分の中に残っています。
だから、鋼の錬金術師でも新しいことを取り入れようとするシーンは気になります。たとえば、主人公のエド(エドワード・エルリック)は錬金術は使えるけど、錬丹術は使えない。でも自分のプラスになることなら貪欲に取り入れる姿勢で錬丹術も知ろうとするんです。
――西野選手が錬金術を使えるようになったら、何をしますか?
うーん……お金を作りますね。
――バスケに関することではないんですね。
そうだ! いつでも練習ができるように、バスケットコートを作ります。試合に勝つための錬金術はずるいからやっちゃいけない気がする。
「エドは自分で、勇輝はリン・ヤオ」
――横浜ビー・コルセアーズの選手5人を、鋼の錬金術師のキャラクター5人に例えると誰ですか?
まずは、主人公のエドとアル(アルフォンス・エルリック)ですよね。アルは絶対に森井(健太)さんです。アルってとにかく優しいですよね。森井さんも優しさの頂点にいる人です。
――エドは?
エドは気性は荒いけど優しいキャラクターです。希望も含めて、エドは自分です。エドは成長するしかない立場にずっといる人です。出会った人たちを、次々に救っていく立場にいる。自分もそうなりたいと思います。
――ロイ・マスタングは?
マスタングは、(須藤)昂矢さんです。マスタングって、相手を小馬鹿にしているようで実は愛のあるいじりをする人。部下思いなんです。昂矢さんも最初は絡みにくい雰囲気なんですけど、話してみると面白い人です。
――アレックス・ルイ・アームストロングは?
アームストロング少佐は、鋼の錬金術師の中で最も人間くさい人です。軍人だけど、無抵抗な一般市民を巻き込む戦闘には迷いがあって。善悪がわかっていて、正しいことを貫きたいキャラクターです。チームで言えば、エドワード・モリスです。
まずは、アームストロング少佐もエド(エドワード・モリス)も坊主で、頭の形が一緒です。あと、エド(エドワード・エルリック)とアルから見ると、アームストロング少佐って面倒見が良くてお父さん感があるんです。エド(エドワード・モリス)も面倒見がよくて、聞いた話だと横浜の外国籍選手たちに町を案内しているそうです。移籍してきた外国籍選手は何も知らない土地で不安が多いと思うので、エドの優しさとお父さん感はうれしいと思います。
――あと一人は?
(河村)勇輝に似ているキャラクターを探したほうがいいかな……、勇輝はいい意味でオンとオフがしっかりしています。チームでは最年少なので、しっかり弟キャラもやっている。
リン・ヤオは、勇輝っぽい部分があります。リン・ヤオはシン国の王子なんですが、勇輝も王子キャラの一面があると思う。実はリン・ヤオって錬丹術が使えないんだけど、身体能力が高くて錬金術師と互角に戦う。能力の高さも勇輝に似ていると思います。
あと、リン・ヤオはよく行き倒れになるんですが、ごはんをおごってもらう術がうまい。すごくフレンドリーな性格で、すぐに人に溶け込めます。勇輝も、誰とでも仲良くなれる部分があります。それって、人の気持ちをきちんと考えていないとできないことなので、勇輝は無意識に目の前にいる人の気持ちを考えているんだと思います。
西野選手が等価交換したもの
――「人の気持ちを考える」って、鋼の錬金術師の重要なテーマだと思います。ランファンが左腕を失った時、エドとアルが技師のウィンリィを紹介しようとします。でも、フーじいさんは「感情に流され うかつな事をすれば共倒れダ! 事を成すには時として情に対するこだわりを捨てるのも必要ダ」と諭す。エドとアルの気持ちを察しながら、大きな目標達成のために必要な発言をする。この漫画は、気持ちの優しい読み合いと押さえられない感情の交差が面白いです。
自分は、けっこう感情的になっちゃうことが多いんです。直さなきゃいけないと思っているんだけど、シュートが入らないと、「あー!」ってなる。今日の練習も感情的になったことがあって、ジャレさん(アシスタントコーチのイゴア・ジャレティッチ氏)に、「一回のプレーで感情的にならなくていい」とアドバイスをもらいました。本当に、その通りなんです。感情的になると余計な力が入るから、自分で自分の足を引っ張るようなものです。
自分は、全く感情的にならず、情にも流されないのは無理だと思います。それが自分の性質なので。いま心がけているのは、シュートを外した自分へのムカつきを新しい感情に変えること。ムカついた気持ちを力に変えようとしています。
――鋼の錬金術師は、業と絆の強さが絡まり合って物語が進んでいきます。人というものについて考えさせられる漫画でした。
自分は、錬金術の原則である等価交換について考えました。「人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。何かを得るためには同等の代価が必要になる」って、原点にして頂点の言葉だと思う。人生も等価交換だと思いました。
――西野選手は、プロバスケ選手になるために等価交換したのですか?
難しいな……。自分が等価交換したのは、時間、遊ぶ時間ですかね。犠牲にした感覚はないですけど。でも、みんなが遊んでいる時間も、ずっと部活動をしてきました。
取材・文:石川歩
写真:白松清之
取材協力・写真提供:横浜ビー・コルセアーズ