平常心を保つ秘訣は“履き慣れた一足” 川崎ブレイブサンダース・小針幸也選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.53>
Bリーグ×ファッション連載53回目は、川崎ブレイブサンダースの小針幸也(こばり・こうや)選手が登場。横浜市出身の小針選手は、神奈川大学卒業後に社会人バスケットボールチームであるJR東日本秋田バスケットボール部に入部しました。2023年2月に当時B2の長崎ヴェルカに移籍し、チームのB1昇格に貢献。2024-25シーズンは、川崎ブレイブサンダースに期限付移籍で加入しています。
ジョーダンからワラビーへ。小針選手の私服のこだわり
――Clarksのワラビーを選んだ理由を教えてください。
最初に買ったClarksで、ずっと愛用しているので選びました。Clarksは花モチーフのモカシンも持っているのですが、黒のワラビーのほうがどんな服装にも合わせやすいです。
学生の時はスニーカーが好きで集めていたんですが、最近はスニーカーよりも、どんな服装にも合うカジュアルなローファーやショートブーツを選ぶことが増えてきました。この連載では、ジョーダンシリーズなどの“ザ・スニーカー”を履く選手を期待されているのかなと思ってちょっと不安だったのですが、大丈夫でしょうか?
――もちろん、大丈夫です! 学生時代のスニーカー熱は冷めたのですか?
もともと僕はストリート系のファッションが好きで、服に合わせてジョーダンシリーズを履いていました。それが、社会人になってからNBA選手のファッションを見るようになって、デビン・ブッカー選手のシンプルだけど個性が出ているコーディネートがカッコいいなと思って見ているうちに、僕の私服も変化していきました。服に合う靴を探しはじめたら、スニーカー以外にも目がいくようになったんです。
――学生時代は、どんなスニーカーを集めていたのですか?
ジョーダンシリーズは集めていました。あと、ナイキのSNKRSで、アーティストコラボのレアなスニーカー情報が出るとチームメイトと共有していましたね。ほとんどのスニーカーは当選しなかったのですが、大学2年の時にジョーダン1のUniversity Blue が当たりました。すごい倍率を勝ち抜いたスニーカーなので、手元にあるのが嬉しかったです。
――小針選手自慢のシューズはありますか?
大学4年の時に買ったパタ×ナイキ エアマックス ノイズアクアです。それまでエアマックスは好みじゃなくて、一足も持っていなかったのですが、SNKRSで見た瞬間に「かわいい!」と思って買いました。デザインが僕のツボにハマったんです。今も履いているスニーカーです。
――小針選手は、どんなふうに服を選ぶのですか?
シルエットを見て、ビビッときたものを直感で買います。今日のパンツも、丈感とルーズなシルエットに一目惚れしました。この丈でデニム素材のパンツはあまりないんです。NBA選手以外にも、Instagramで気になるファッションのアカウントをフォローしてチェックしています。
小針選手のプレーを支えてきたバッシュは?
――Bリーグの中で「おしゃれだな」と思う選手を教えてください。
一人は(川崎ブレイブサンダース篠山)竜青さんです。竜青さんはスタイルがいいんです。派手な私服は着ないのですが、顔もかっこいいから、かなりシンプルな服でもすごくおしゃれに見えます。
もう一人は、(ファイティングイーグルス名古屋)並里成選手です。個性的なアイテムを着こなしているし、ハイブランドもさらりと取り入れています。お金がかかっていても、それがいやらしく見えないのは、並里選手が持っている雰囲気の良さがあると思うんです。おしゃれな選手だなと思って見ています。
――並里選手とファッションの話をするのですか?
交流はありません。昨シーズン対戦した時に並里選手から「何歳?」と聞かれて、23歳(※2023年3月時点)と答えたら「へえ、若いね」と言われました。僕は子どもの頃に、華のあるプレーをする並里選手に憧れていたんです。その試合では、バチバチのやり合いができて楽しかったです。
――小針選手の思い出の靴を教えてください。
長崎(ヴェルカ)でB1昇格が決まった試合で履いていた、アンダーアーマー カリー10のピンクバッシュです。僕はシーズンの途中からチームに入りましたが、大切なプレーオフの試合に出してもらいました。負けたらB2残留が決まってB1に昇格できないというギリギリの試合で、今までの人生で一番緊張しました。その時に履いていたバッシュなので、特別な思い入れがあります。
――人生で一番の緊張は、どうやってほぐしたのですか?
最初のシュートがたまたまゴールテンディング(シュートしたボールがリングより上にある状態で、最高到達点を過ぎて落下している時にボールに触れること)で僕の得点になったんです。どんなかたちであれ得点したことで、緊張が解けていきました。コートに入って1本目に打ったシュートが入ると緊張がほぐれる、という選手は多いと思います。
――バッシュは、何にこだわって選ぶのでしょう。
アンダーアーマーのカリーシリーズを選んでいます。初めて履いた時に、体験したことがないほどの軽さとグリップ力に驚きました。それからずっとカリーシリーズを履いています。
あと、多くの選手が練習用と試合用のバッシュを分けて履いているのですが、僕は練習も試合も同じバッシュにしています。今のチームは試合会場までバッシュを運んでくれるので、試合の数日前までにバッシュを渡すんですね。それで練習用と試合用を分けている選手もいると思うんですが、僕は自分で試合会場までバッシュを持っていきます。
僕は、試合でも練習で履き慣れたバッシュを履きたいんです。どんな状況でも同じバッシュを履くことで、「試合も練習もいつも通りだ」と平常心を保って、安定した気持ちでプレーができると思っています。
「ようやく、スタートラインに立てた」
――初めて川崎ブレイブサンダースの試合を観た日のことは覚えていますか?
初めて観にいったのは、高校1年の時です。当時から(篠山)竜青さんは有名だったので知っていました。あと、ニック・ファジーカス選手がすごかったのを覚えています。
高校生の時はプロを目指していたわけではなかったので、普通に試合観戦をしたという思い出です。当時の僕は、大学までバスケを続けて、その後は普通に就職するのだろうなと漠然と考えていました。
――いつからプロを意識したのでしょう。
神奈川大学に入って、プロと練習試合をした時に手応えを感じたんです。実際にチームから声を掛けてもらったのをきっかけに、プロを意識するようになりました。大学卒業後にJR東日本秋田のバスケ部に入って、まだまだバスケで成長できると思ったし、もっとステップアップできると感じました。
――2023年2月に長崎ヴェルカと契約をして、2024年に川崎ブレイブサンダースに期限付移籍をしました。順調にキャリアを積んでいる印象です。
長崎は、B3の時から勢いのあるチームだと思って見ていました。早い展開のバスケスタイルで知られていたので、長崎で負傷者が出てガードを探していると聞いて、僕にぴったりだと思ったんです。
ただ、昨シーズン長崎で初めてのB1を経験して前半を終えた時点では、「次シーズンはB2のチームかな」と思っていました。長崎とは1シーズン契約で、前半はほとんど試合に出られなかったので、来季は「別のB2チームに行くことになるのかな」と感じていたんです。それが、シーズン中盤からプレータイムが増えて、後半は先発として出場させてもらって、試合でも手応えを感じはじめました。長崎から次シーズンの契約オファーもいただいて、「ようやくスタートラインに立てた」という気持ちになったんです。
――そこから川崎ブレイブサンダースに期限付移籍という流れを、どんなふうに捉えていますか?
今シーズンから川崎のバスケが変わることは聞いていました。スピードを重視したスタイルを目指すと知って、僕に合っていると思いました。先ほどのバッシュの話にも通じますが、僕はどんなときも特別なことをせずに、常に平常心を保つことを心がけています。どのチームにいても、その姿勢は変わらないんです。今も「僕は川崎にいるべくして、いる」と感じていますし、基本的に「なんとかなるさ」という気持ちで取り組んでいますね。
――最後にお聞きします。小針選手から見て、今の川﨑ブレイブサンダースはどんなチームですか?
今のチームは、“全員バスケ”という意識が根付いていると感じます。個性のある選手たちが集まっていて、それぞれに自分の持ち味を出していますが、主張が強すぎる選手はいない。お互いを尊重しつつ、みんなで守り、みんなで走り、みんなで勝つチームです。
取材・文:石川歩
写真:高橋マナミ
取材・写真協力:川崎ブレイブサンダース