「ファッションに不正解はない」群馬クレインサンダーズ・並里成選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.48>
Bリーグ×ファッション連載48回目は、「Bリーグでファッションのことを聞くならこの人!」群馬クレインサンダーズの並里成(なみざと・なりと)選手が登場。
並里選手は沖縄市コザ育ち、幼稚園のころからバスケを始めて、高校1年でウインターカップ優勝、ベスト5選出。高校卒業後は、『SLAM DUNK』著者の井上雄彦さんが創設したスラムダンク奨学金の1期生として渡米しました。抜群のスピードと華やかなプレーで観客を魅了するファンタジスタが、ファッションにこだわる理由とは?
ファッションを変えれば、日本のバスケも変わる!
――今日の服は、並里選手だから着こなせていると思います!
アミリ(※AMIRI:LA発のラグジュアリーブランド)のスニーカーとパーカーです。アミリは海外では人気のブランドですが、日本でまだ浸透していないので着てきました。スニーカーは、最近買ったのがアミリだったので、自分の中の最新を履いてきました。靴と靴下の組み合わせを考えるとデニムにする選択もあったのですが、シンプルなパンツを選びました。
――パンツの横に、チャックが付いています。
このチャック、上まで開くんですよ。僕の中では、このパンツはすごくシンプルなほうです。雰囲気がうるさくないですよね? 今日は靴と靴下がにぎやかなので、静かめのパンツを選びました。
――ディティールにこだわる姿勢から、並里選手のファッション好きが伝わってきます。
母親がファッション好きで、子どもの頃からいろんな服を着させられていました。今も覚えているのは、ジャージ素材のワイシャツとパンツで、水色のボーダーのセットアップです。母親が着せてくれる服はセットアップが多くて、子どもの頃から「上下の服の色は合わせなきゃ」と思っていました。
そのうち自分で色を組み合わせるのが好きになって、いろいろショッピングして着こなすのが楽しくなっていきましたね。
――この並里選手のセンスにたどり着くまでに、試行錯誤がありそうです。
もはや、普通のジーパンでは気が済まなくなっています(笑)。人とは違うものにしたくて、生地にこだわってみたり。シルエットも、袖丈が長いとか、デザインのアクセントで紐が垂れているとか、ちょっと変わったものを選びます。
――5年後の並里選手はどうなっちゃうんだろう(笑)。
僕も怖いっす。最近、鉄腕アトムみたいな真っ赤な巨大ブーツが流行っているみたいです。さすがに、あそこまではいかないと思うんだけど……と言いながらわからないですよね。数年後に履いてたりして(笑)。
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――並里選手は、どんな視点でファッションを楽しんでいますか?
最先端でありたいと思っています。もちろん、モデルではなくバスケ選手なので、一番の最先端ではないとわかっています。でも、スポーツ選手としては、少なくともバスケ選手の中では、ファッションリーダーでありたいです。僕はバスケットコート以外の場所でも、みんなが気になるような選手でいたい。そして、そんな選手が増えたらいいなと思っています。まずは、僕が先頭を歩いていこうと考えています。
――そう考える理由は?
ファンの方が、「バスケをしているときはカッコいいけど、私服はダサい」と思っていたら、もったいないと思うから。バスケは会場で見たらすごさが伝わります。そのすごい選手をもっと知りたくなった時に、普段どんな様子なのか気になると思います。
逆もあると思います。バスケを見ない人たちが、「この人オシャレだ。何をやっている人だろう」と興味を持って、仕事を見たいと思うかもしれない。
なんというか……バスケ選手だからって、バスケット界だけで終えてほしくないって思う。選手たちの心がけで、日本中の人がバスケットを好きになるかもしれない。僕はいつも、そんなふうに考えています。
「こうあるべき」と個性について考える
――最先端でいることは、周りと同じではないということです。でも実際は、周りの目を気にしないって大変です。
僕は、人の目は気にしないですね。うーん……いろんな選択に、正解ってないと思うんです。正解がないなら、自分が思うようにしたいと考えます。
みんなは、みんなに正解だと思われたいから周りの目を気にするのかな。そして、不正解を選んで、みんなにいろいろ言われるのが嫌なのかな。そうだとすると、正解・不正解は周りが決めていることだから、自分が満足するように決めたらいいよと思う。
――完全な正解はないと。
そう、正解はない。日本人はすごく目が肥えていると思うんです。バスケットで言うと、たとえば「高校バスケはこうあるべき」という視線が強い。学生はこうあるべき・スポーツ選手はこうあるべき……日本人ってたくさんの「あるべき」を持っています。周りの「あるべき」に合わせる環境になっているから、そこにハマらないといけなくなって、外れると不正解だと言われる。でもアメリカでは、不正解ではなく個性を出していることになる。そして、セルフィッシュな人と見るのではなく、その人の個性として受け入れるんです。
――並里選手のような考えを持っている人が前を歩いてくれたら、開いた道をたどって個性を出せる人が増えそうです。
そうですね。僕に限らず、バスケ選手は個性を出していくといいと思います。ファンの人たちは選手が個性を出した姿を見たいだろうし、「こんな一面もあるんだ」と知るのはうれしいと思います。
並里選手は、エアフォース1をどう履くか?
――スニーカーについて、アミリの価格帯に手が出ない人もいると思います。
僕は4年前から、アミリや(クリスチャン)ディオール、ルイ・ヴィトンの外靴を買うようになりました。それまではナイキのスニーカーも履いていましたよ。僕が外靴で最初に買ったのは、エアフォース1<AIR FORCE 1>です。
――いま並里選手がエアフォース1を履くなら、どんなコーディネートをしますか?
ちょっとひねって、スーツかな。ネクタイは無しで、無地の白Tシャツに、ジャケットはベージュ。パンツは、こげ茶がよさそう。大人っぽい茶系のスーツでまとめて、真っ白のエアフォース1を履きます。個性として、スーツの腕に太めの二本線が入っていたらいいですね。
偶然ですが、数日前からエアフォース1を持とうかなと考えていました。ファッションの流行は繰り返すというけれど、僕もアミリのようなスニーカーを履きつつ、ベーシックに戻ってエアフォース1を持っておくのはいいなと思っていました。
――今シーズンは並里選手の会場入りで、エアフォース1姿が見られるかも!?
エアフォース1は小学6年から履いている僕の原点ですから。それこそ、いま8歳の息子がエアフォース1を履いたらカッコいいと思うな。あ〜、でも汚すよな……息子には真っ黒のエアフォース1もいいかもしれない。
広い視野と自信を持とう
――並里選手は「日本を出たい」と公言してきました。ファッションに対しても視野が広いのは、並里選手の日本を出たいという思いが影響しているのかなと思いました。
日本の並里成では終わりたくない、という気持ちがあります。日本にいても、海外でやっている選手のように振る舞いたいという思いもあります。バスケもファッションも、日本にいる海外の人にも良いねと思ってほしい。それに、バスケの面白さを国内だけに伝えるんじゃなくて、アジアへ・世界へと伝えられたらいいと考えています。
――海外に目を向けたきっかけは?
ただの自信かな(笑)。中学生くらいから、自分は周りの人とは考え方もバスケットスタイルも違うと感じていました。
僕は子どもの頃から、あまり意識せずに左右の手を器用に使えていました。左でも右でもボールを投げられるし、ドリブルもできます。バスケにおいて、両手を使えるのは大きな武器です。中学でみんなと違うことができると気づいて「あ、自分は何かがスペシャルなのかな」と思えたんです。
――現在に至るまで、ずっと自信を持ち続けられましたか?
うーん……それこそ日本の周りに合わせる環境で、「オマエのやっていることは違う」と言われると、「そうなのかな」と思う時期もありました。
ただ、年齢を重ねていくと、やっぱり自分は自分でありたいと感じるようになったんです。みんなと同じことをして失敗して後悔するなら、みんなと違うことで僕の良いところを出してみる。それでも失敗するなら、失敗してもいいかって思えるようになりました。
――ファッションと考え方が一貫している並里選手の話を聞いて、ファッションは自己表現なのだと改めて感じました。
本当に、みんな自分に自信を持ってほしいと思います。正解は無いから、自分が履きたい靴と着たい服を着て、堂々と歩けばいいんです。
僕はけっこう鏡を見るんです。靴を履いて、服を着て、ずっと鏡を見てみる。自分の足の長さはこれぐらいで、背中はこんな感じで、「この靴と服は似合うんだな」って自分と会話をする。周りの言うことを聞くんじゃなくて、自分で考えて決めるんです。
取材・文:石川歩
写真:白松清之
取材・写真協力:群馬クレインサンダーズ