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飲まないワイン醸造家──それでも人生を熟成させた理由【ピノ・コリーナ松ヶ丘】

2025.12.09

人生には、いくつもの交差点がある。そのたびに、人は何かを手放し、何かを選び取る。
山形・鶴岡市松ヶ岡地区にあるワイナリー/レストランピノ・コリーナ松ヶ岡の川島さん(GM兼醸造責任者)にとっての“クロスロード”は、音楽とぶどう、そして「飲まない」という選択のあいだにあった。

飲まないワイン醸造家──それでも人生を熟成させた理由【ピノ・コリーナ松ヶ丘】

ブルースに出会い、アメリカを夢見た頃

庄内藩士が入植し開墾した松ヶ岡開墾場は、絹産業の拠点として一帯が歴史的価値を持つ場所で、その文脈の上に“新たな発酵産業”として設計されたのがピノ・コリーナ松ヶ岡である。

◼︎土地由来のブドウを用いたワイン醸造
◼︎地元食材を軸にしたガストロノミー体験
◼︎歴史的景観に干渉しない建築配置

が統合されており、観光コンテンツではなく「土地そのものの情報を体験化する場」として機能している。ワインの評価だけでなく、建築・ランドスケープ・接客・食体験の総体が「鶴岡という“場そのもの”のクオリティ」だと理解できる構造になっているのが特徴。

飲まないワイン醸造家──それでも人生を熟成させた理由【ピノ・コリーナ松ヶ丘】

「昔ね、アメリカの音楽が大好きで。ロバートジョンソンの『クロスロード』って映画があったでしょ。あれを観て“人生は交差の連続だ”って思ったんです」

若い頃の川島さんは、ブルースを聴きながら、異国への憧れに胸を焦がしていた。1990年代、まだCDショップには、クラプトンやライクーダーの輸入盤が並び、そこに「本物の音楽」があると信じていた。

それから幾度かの転機を経て、彼はようやく自分の“音”を見つける。それが、日本のワインだった。

「飲まない」ことが、強みになる

「再婚した妻がね、270年続くぶどう農家の娘だったんですよ。」

と、彼は穏やかに笑う。
再婚をきっかけに、ワインの造り手の世界へ足を踏み入れた川島さん。

「講師でもないし、特別な修行をしたわけでもない。でも、ぶどうを育てているうちに、これが自分の生きる道だと思った」

彼のワイナリーは、庄内平野の風が抜ける丘の上にある。湿気と寒暖の差が生む独特のぶどうの香り。その土地の空気を封じ込めるように、彼はワインをつくる。しかし驚くべきことに、彼自身はワインを飲まない。

「飲んじゃうと、もったいなくて売れない。飲まないから、つくれるんです。」
川島さんは笑いながらそう言う。

ワインバイヤーの友人たちが“味に惚れすぎて会社を潰す”のを見てきたという。だからこそ、彼は客観的でありたいと考える。

「飲まないからこそ、フラットでいられる。“自分の好み”じゃなく、“誰かの美意識”に寄り添える」

ワインの最終調整をするとき、彼はほとんど水しか口にしない。顔を洗った後は五感をニュートラルにしたまま、一滴の液体の“音”を聴くように味を決める。まるで職人というより、指揮者のように。

「ワインが主張するんじゃなくて、料理とどう調和するか。日本の美って、そういう“引き算の美”でしょ」

飲まないワイン醸造家──それでも人生を熟成させた理由【ピノ・コリーナ松ヶ丘】

世界に向けた“静かな美意識”

川島さんのワインづくりには、確かな哲学がある。

「日本には“調和”の文化がある。主張しない美、譲り合う美。それが世界の人たちに刺さる瞬間がある」

彼の言葉には、海外での経験からにじむ確信がある。

「海外の建築家だって、日本の数寄屋建築から影響を受けてきたでしょ。だから、ワインもそうでいい。“静けさ”の中に美があるってことを伝えたい」

庄内の空気は今日も澄んでいる。時間がゆっくりと流れるこの地で、彼はまた次の季節を待っている。ぶどうの熟成とともに、自分の人生も熟成していく。

飲まないワイン醸造家──それでも人生を熟成させた理由【ピノ・コリーナ松ヶ丘】

ティンバーランドという“足もと”

川島さんが足元の友として選んだのは、ティンバーランド<TIMBERLAND>の一足。クラシックレースアップウォータープルーフで、ローカットタイプのレースアップシューズだ。

飲まないワイン醸造家──それでも人生を熟成させた理由【ピノ・コリーナ松ヶ丘】

「靴は茶色が好き。なかでも学生の頃からティンバーランドがお気に入り。昔、新宿で買ったのを思い出しますね。当時ティンバーランドを履いている人って、どこか“たくましい”イメージがあった。ちょっと冒険家っぽいというか。そういう人たちに憧れていましたね」

そのブーツは、いまも日常のさまざまな場面で活躍している。ぶどう畑にがっちり踏み込んでいくときも、仲間たちとバーベキューをするときも、かつてランドクルーザーに乗っていた頃の遊びに出かける日も、いつも足元はティンバーランドだった。

「ソールが厚くて、しっかり踏み込めるから安心なんですよ。雪が降っても全然大丈夫。スキーに行くときも、このブーツを履いて」

ティンバーランドを履いて畑を歩くことも。それはどこか音楽的で、その足取りは静かにリズムを刻んでいた。ぶどうを踏む足が、人生を鳴らしている。

人生の交差点は、誰にでも訪れる。けれど、そこで“どんな靴で立つか”が、その人の物語を決める。川島さんの足もとには、ワインのように静かで、確かな音が響いていた。

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