「僕は影山飛雄に近かったかもしれない」シーホース三河・角野亮伍選手×ハイキュー!!【Bリーガーと漫画VOL.7】
お気に入りの漫画についてとことん聞いて選手の個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。7回目はシーホース三河の角野亮伍(すみのりょうご)選手が登場。語るのは『ハイキュー!!(古舘春一・集英社/ジャンプ・コミックス)』です。
角野選手は藤枝明誠高校在学時に15歳で日本代表候補に選出され、当時史上最年少のフル代表候補として話題になりました。高校卒業後に渡米し、サザンニューハンプシャー大学で4シーズンを過ごした後に帰国。2020-21シーズンは大阪エヴェッサ、今シーズンからシーホース三河で戦っています。
負けて悔しい涙しか流したことがない
――ハイキュー!! はいつから見ていますか?
「最初に見たのは大学3年、アメリカにいた時です。帰国して大阪(エヴェッサ)に入ってからもアニメを最初から2周ぐらい見て、(シーホース)三河に来て、また最初から見ています。好きな試合の回を繰り返し見るのも好きです」
――ハイキュー!! で一番好きな試合は?
「春高県大会決勝の白鳥沢戦です。僕は結構ドライというか、性格が冷めていて、アニメやドラマで感動して泣いたことが一度もないです。両親・兄弟は感情が豊かなんですけど。僕が高校を卒業してアメリカに行く時の空港で、母親と弟は泣いていたのに、僕は”14時間も飛行機に乗るのは面倒だな”って感情なんです。バスケで負けて悔しい時しか涙を流したことがない。でも、烏野が白鳥沢に勝った瞬間、3年の三人が”まさか……俺たちが勝った?”ってなんとも言えない表情で抱き合うシーンはグッときました。僕はまだその感じを味わったことがないんですよね。スポーツをしていて、本当に全てを使い果たして勝ったという経験はまだないです」
――角野選手は全てを使い果たさなくても勝ってきた、ということですか?
「そうじゃないけれど……。烏野の3年生は1・2年で辛い思いをしてきましたよね。『堕ちた強豪 飛べない烏』と言われ続けたチームがやっと全国を目指せるメンバーになった。決勝で戦う白鳥沢とは圧倒的に力の差があって均衡した試合をしてきたけど、頑張ってきたこと全てが終わってしまう状況まで追い込まれるわけです。本当に本気で勝ちたいのが伝わるし、勝った後は死にそうな表情をしている。僕もめちゃくちゃ頑張って勝った試合はありますが、勝ったら『よっしゃー!』って感情なんです。勝って死にそうになるところまでいったことがないです」
烏野の5人を、シーホース三河メンバーで例えると?
――日向翔陽をシーホース三河のメンバーに例えると誰ですか?
「日向みたいな溌剌キャラはいないっす。あえて言えば細谷将司さんですかね。彼は日向と同じ身長ですから(編註:日向162cm、細谷選手173cm)。細谷将司は食事管理をして体を気遣っていて、チームで一番バスケに対して真面目です。すごく真っ直ぐにバスケが好きな人なので、そこが日向に似ています」
「田中龍之介が僕で、西谷夕が(西田)優大です。僕と優大は練習が終わった後にわちゃわちゃ騒いで怒られるんですが、田中と西谷もそんな感じですよね。いつも騒いでいる2年の二人が、最後は3年に怒られるっていうチームの構図が似ています。ただし、キャラで言ったら優大と西谷はかぶらないです。優大は、西谷みたいに“前だけ向いていけ”ってキャラではなくて、わりとのほほんと練習しています。僕は高校時代は坊主だったので、そこが田中に似ているなと」
――わちゃわちゃ騒いでいる田中・西谷を怒る役割は、3年の澤村大地です。シーホース三河の澤村は誰ですか?
「柏木(真介)さんです。ずっと日本バスケの第一線にいる人で、三河の精神的な支柱になっています。柏木さんはヘッドコーチやキャプテンという存在とは違う立場から、チームをまとめる発言力を持っています。ハイキュー!! だと、インハイ予選の青葉城西戦で、大王様(及川徹)のえげつないサーブをレシーブするのは西谷ではなく澤村なんですよね。プレー面では影山飛雄が中心かもしれないけれど、烏野は澤村がいてこそのチームで、縁の下の力持ちの役割が柏木さんと澤村で似ています。僕は熱くなる性格で、試合前にガッと高まっちゃったり、悪い状況にカッとなることがあるけれど、その時に短い言葉で的確に落ち着かせてくれるのが柏木さんです」
「細谷将司と長野誠史も、練習中・試合中にブチ切れている僕をなだめてくれます。『大丈夫だよ』って。長野さんは、今シーズンはベンチスタートが多くてシックスマンのような立ち位置になっていて、烏野で言うと菅原孝支です。長野さんは菅原ほどクールではないけれど、菅原の言葉に烏野のメンバーが助けられているように、僕は長野さんの言葉に助けられています」
木兎光太郎みたいなアツいキャラでやらせてもらっています
――青葉城西の京谷がチームに馴染めなかった時にかけられた言葉について。「自分がチームを向き、チームも自分を向く。それが出来たならチームも自分もぶつかり合って強くなれる。そんでもしそれが出来たらラッキーだと覚えとけ。そういうチームはどこにでもあるものじゃない(※)」というセリフがあります。この姿勢がチームの理想なのかなと思いました。
「ハイキュー!! は高校バレーが舞台なので、3年間同じチームでいかに伸びるかです。Bリーグはシーズンごとに選手が入れ替わるので、短い期間しかない。でも、僕たちのチームはわりとセリフのような状態になっていると思います。僕がうまくやれなくて試合や練習でぐちゃぐちゃになっている時、人をすぐに見捨てるようなチーム・選手しかいなかったら、わざわざ僕に声をかけないと思う。
柏木さんなんてすごい実績を残してきた人で、僕がどうなろうと本当はどうでもいいはずだと思うんです。でも同じチームになって、お互いに少しずつ人間性を知っていく中で、もっと頑張ってほしい・もっと出来るだろうと思いを込めて言葉をかけてくれます。試合中のベンチでも、出場時間の少ない選手や怪我から復帰した橋本晃佑がシュートを決めると、みんなが本当に心からの感情で喜んでいるのが伝わってくる。短い期間のチームだけれど、しっかり向き合えていると思います」
――角野選手が好きなキャラクターは、木兎光太郎と聞きました。
「木兎って、調子が悪いとすぐにふてくされるんです。僕も、シュートが入らないと勝手にブチ切れてしまうところが木兎と似ていて好きです。感情の起伏は本当に直さないといけないと分かっているのですが、シュートは一生懸命に練習してきたし自信を持っているので、大事な場面で入らないと悔しくて感情が抑え切れない。
それに、僕はエースキャラが好きなんです。ハイキュー!! にはいろんなエースが出てきますが、僕は牛島若利みたいになれないと思うんです。どんなにキツくても、ポーカーフェイスで仕事をやり切る完璧なエース・牛島、そんなタイプではないから。木兎は調子の波があるけれど、何だかんだで頼りになる。僕もそんなふうになりたいです。ダメな時間帯があるのはよくないから、できるだけ少なくする。シュートを打つと決めたら打ち切る。パスをもらったら意地でも点を取りにいく。そういうアツいキャラでやらせてもらっています」
※ジャンプ・コミックス『ハイキュー!! 16巻』
“コート上の王様”をいさめた父親の言葉
――高校までの角野選手は、エースで何でも一人でやっていたと記事で読みました。ハイキュー!! 初期の影山飛雄が『コート上の王様』と呼ばれるシーンをどう見ますか?
「僕は影山に近かったかもしれないです。それで父親にはすごく怒られていました。『お前は相手の気持ちが分かっていないから人の上に立つ器じゃない』と言われていました。
選抜チームとか日本代表に選ばれて海外のチームと試合をしていくと、やっぱりバスケ選手としてのレベルが上がっていくんです。でも、僕以外の学校のメンバーは自分のチームと地域の試合の経験での伸びしかなくて、少しずつ差が開いていっちゃうんです。その状況で『なぜミスをするんだろう』『なぜこれが出来ないんだろう』と、特に中学の頃はチームメイトに言ってしまっていました。僕はもう勝ちたい一心で『下手なら練習しろ』という態度が出てしまっていた。言われる側からしたら、『これ以上できない』『お前みたいになれない』と思っている人がいたかもしれないのに。
人それぞれにいろんな感情を持っている中で、他者の感情が100%分かるのは無理ですが、最低限相手の気持ちや状況を汲み取れたらよかったなと思います」
――影山は烏野に入って、日向に出会って変わることができました。
「僕に一番影響を与える言葉をくれるのは父親です。今も父親は毎試合見にきてくれていて、アドバイスをくれます。最近一番心に残ったのは、調子が悪かった試合の後に言われた『頼むぞ』という言葉です。おそらく父親は他に言いたいことがあるんです。それまでは、負けた試合の後に『ここがダメだった』『もっとこうすべきだ』と言われていたから。『頼むぞ』の一言には、いろいろ言いたいことはあるけれど『分かっているよな? 次は頼むぞ』という意味が込められていると思います。今のところ僕が父親にできる恩返しはバスケットしかないので、『ちゃんと頼まれたぞ』という気持ちでいます」
最近プライベートで買ったのは、ナイキのブレーザー
――最近、プライベートで買ったスニーカーは?
「『ナイキ(NIKE)』のブレーザー<BLAZER>を買いました。僕は足のサイズが31cmで、買えるスニーカーが少ないんです。ネットで31cm以上で検索して、サイズがあるものから色が気に入ったスニーカーをまとめて3足くらい買っています。
ファッションのこだわりは一番聞かれたくない話題です。僕は本当にファッションに疎くて、いま何が流行っているのか知らない。普段はナイキのパーカーにデニムを合わせています。全身黒とかグレー・白、上下で色を揃えるのが好きです」
取材・文:石川歩
取材・写真協力:シーホース三河