多くを語らないダバンテ・ガードナー選手を通訳して感じること【Bリーグ通訳&広報のてまえみそ<シーホース三河編>】
1947年、アイシン精機の前身である愛知工業籠球部として創部したシーホース三河。今年で73年目をむかえた古豪チームは、これまで様々なタイトルを獲ってきました。
今シーズンの三河は、2年連続得点王のダバンテ・ガードナー選手、今シーズン最後の試合で45得点を叩きだした金丸晃輔選手、新人王の岡田侑大選手などが揃った超オフェンス軍団として、リーグを盛りあげました。
シーズン開幕当初は、「いったい何点取るチームになるのだろう……?」というまわりの期待に反して、なかなか勝率が伸びなかった三河。12月22日の北海道戦に勝ってから一気に9連勝して上昇気流にのったところで、新型コロナウイルス影響拡大のためリーグが中止。中地区2位で、今シーズンを終了しました。
今回は、チームを近くで見てきた通訳の大島頼昌さんと広報の渡邉一将さんに話を聞きました。山あり谷ありだった今シーズンの三河。オフコートの外国籍選手のエピソードや工夫を凝らした運営のエピソードを聞けば、クールなイメージのあるチームが、もっと身近に感じられるはずです。
きっとみんな気になってる…! 大島通訳のカラーパンツ事情
――大島さんといえば、昨シーズンまで在籍していた川崎ブレイブサンダース時代から履いているカラーパンツが有名です!
「ありがとうございます(笑)。最近なかなか新しい色が出てこなくて、今まで履いた色をローテーションで履いています。PT01(ピーティーゼロウーノ)というイタリアのブランドで、フィット感がいいんです。クリスマスは赤、バレンタインはピンクとか、時期に合わせて色を選んでいます。試合中のベンチはたくさんの人が注目している場所なので、ちょっとでもお客さんが楽しめればと思っています」
ダバンテ・ガードナー選手を通訳して感じること
――今シーズン、ダバンテ・ガードナー選手の三河入団は大きなニュースでした。通訳する大島さんから見て、ガードナー選手はどんな人ですか?
「コート上の振る舞いやヒーローインタビューを見れば分かると思うんですけれど、大人しい人です。三河に来て7ヶ月以上経ちましたが、ダバンテからはほとんど話しかけてこないし、私が話しかけてもあまり話してくれません(笑)」
――あまり話さない選手の通訳は、難しそうです。
「今までいろんな外国籍選手の通訳をしてきましたが、話が短すぎて困ったのはダバンテが初めてです(笑)。彼はスター選手ですから、外国籍選手では一番取材の多い選手なのですが、チームで一番取材が苦手な選手です(笑)。ファンもメディアの皆さんも彼の声が聞きたいと思うんですけど、質問に対する答えが短すぎて、通訳していて申し訳ないと思うことはあります。彼はとにかく早く家に帰りたいんです。昨年の夏に結婚したばかりで、『彼女がいなければ生きていけない』と言って、奥さんといつも一緒にいます。奥さんのことが大好きですね」
「ダバンテは裏表がなくて、本当に感情をそのまま出しています。遠慮や建前がないので、分かりやすくて気持ちのいい人です。ファンの皆さんにとって意外かもしれないのは、プレー以外のこと、たとえばイベントや取材などはきちんと意図を理解して、時間も守ってくれます。生来の真面目な人だと思いますね」
チームマネージャーが、オフコートでしていること
――大島さんは、試合や練習の通訳以外でどんな仕事をしていますか?
「私は『通訳・マネージャー』なので、外国籍選手のアフターケアもしています。たとえば、外国籍選手と一緒に銀行に行ったり、歯医者について行ったり、ニトリに行って一緒に家具選びもします(笑)」
「三河は複数の外国籍選手がいるので、練習が終わっても『この日本語を訳してほしい』とか『タクシーを呼んでほしい』といったメールはよくきます。特に日本に来たばかりの選手は、生活に慣れるまでは手がかかりますね」
外国籍選手のストイックな日常
――チームスポーツは選手どうしの共通理解が大切ですが、文化の違いがそれを妨げることもありそうです。『奥さんに会いたいから早く帰りたい』って、日本人選手は思っていても口には出さないです(笑)。
「三河に限らない話ですが、ある程度の日本文化や日本人の考えかたを理解している選手のほうが、うまくチームに馴染んでいます。(桜木)ジェイアールやダバンテは日本に長くいますから、日本のやり方を理解しています」
「アメリカと違う、それはおかしい等と発言する外国籍選手はやっぱりフィットしないし、チームで長続きしません。どの国でも3~5年同じチームでプレーしている選手は、そういう考え方ができるから長くチームにいられるのだと思います」
――外国籍選手を見ていて尊敬するのは、腕一本で生きているところです。チームに求められた成果が残せなかったら、容赦無く解雇されます。
「いろんな国でやっている人たちなので、チームのためにプレーして、うまくいけばそのままチームに残れるし、うまくいかなかったら次のチームに移籍する、そういうことに慣れています。彼らは特別なスキルを持っていてそれで生活していると分かっているし、解雇されることも含めて割り切っていますね」
「今まで私が関わったほとんどの外国籍選手は、遊びに行かないんです。せっかく日本にいるから京都に行くとか、温泉に行くとか、そういう選手はほとんどいない。バスケをやるために日本に来ているから、練習が終われば家に帰ってリラックスして、試合に備える。私は、オフの日ぐらい美味しい魚とか食べて欲しいですけど(笑)、ハンバーガーなど、母国の食に似たものを食べにいく選手が多いですね」
――今シーズン序盤、三河はなかなか勝てませんでした。あの時期、大島さんはどんなふうに振る舞っていましたか?
「外国籍選手もみんな下を向いていることが多くて、チームの雰囲気もよくなかったので、自信をなくして落ち込まないように気をつけていました。ダバンテも、たまに試合中にしゅーんとして元気がないときがあったんです。そういうときは『あと5分だから頑張れ』『ダバンテがチームを引っ張れよ』と声をかけていました。反応が無いから聞いているのか分からないんですが(笑)、通訳というよりチームスタッフの一員としてサポートしていました」
気持ちのいいホームゲームのつくりかた
――広報の渡邉さんに質問です。三河のホームゲームは試合前にお菓子がまかれたり、こたつ席があったりして、試合前からアットホームで楽しいです。
「三河地方にはお祝いの席で菓子まきをする風習があり、ホームゲームに地域の特色を出すためにはじめました。今では、恒例行事として定着しています。Bリーグ初年度、三河はホームゲームの魅力が低いという意見があって、それを見返したい気持ちでリーグ初の取り組みをどんどん行いました。こたつ席やVIPシートは、あまり購入されていない席種や会場内で新しくつくれるスペースを調べ、お客様視点で議論を重ねてつくり上げた席です。小さなお子さんのいるファミリーやカップルなど、様々なファンに楽しんでいただいています」
――タツヲのハーフタイムショーも、趣向が凝らされていて楽しいです。2月17日のホームゲームでやっていた『ひとりPerfume』はシュールすぎて目が離せませんでした(笑)。川村卓也選手とタツヲの掛け合いも、ホームゲームの楽しみになっていると思います。お客さんも選手も垣根なく絡んでいくタツヲのスタンスは、一つのホスピタリティだなと思います。
――三河のホームゲームは、きめ細かいホスピタリティが行き届いていて、1人も子ども連れも多様な人たちがそれぞれのペースで楽しめます。そういうファンの雰囲気が、気持ちのいい会場を作りだしていますね。
「私たちは試合の勝ち負けに関係なく『今日も楽しかった』と帰ってほしいと思っています。毎試合、挨拶・笑顔・気配りを意識していますし、ホームゲームが開場する前に全スタッフが円陣になって『1・2・3シーホース!』のかけ声をして、みんなで意識を合わせて気合いを入れています」
取材・文:石川歩
協力:シーホース三河
※この記事は、2月12日に取材したものです