「才能は誰もが持ってるもんやから」島根スサノオマジック北川弘選手×ダイヤのA【Bリーガーと漫画VOL.2】
お気に入りの漫画についてとことん聞いて、Bリーガーの個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。2回目は島根スサノオマジックの北川弘(きたがわひろむ)選手が登場! 滋賀県のバスケ強豪校から日本体育大学へ進み、当時NBLの広島ドラゴンフライズでバスケキャリアをスタート。2018年に島根スサノオマジックに移籍して2020-21シーズンはキャプテンを務めました。
今回は、『ダイヤのA(ダイヤのエース。寺嶋裕二・講談社コミックス)』1期(1~47巻)について話を聞きました。ダイヤのAは、主人公の沢村栄純を中心に熾烈なライバル争いやイップスに悩みつつ成長していくリアルな高校野球漫画。今の北川選手をかたち作ったという人物から、才能ってなんだろう? という話まで多岐にわたるテーマで語ってくれました!
※このインタビューは2020-21シーズン終了後の5月中旬に行いました。文中の所属クラブ名は2020-21シーズンのものです
沢村は杉浦佑成で、降谷は流川楓みたいな田中大貴
――今回、ダイヤのAを選んだ理由は?
スポーツ漫画が良かったのですが、バスケ漫画以外にしたかったんです。バスケ漫画は違う目線で見てしまうというか……純粋に漫画を楽しめなくなる。それに僕は、漫画ならではの非現実的な部分が多すぎるのは好きじゃなくて。ダイヤのAは現実的で良い話が多くて、誰でも楽しめる漫画だと思って選びました。
――主人公の沢村栄純をBリーガーに例えると誰でしょうか?
難しいなあ……。沢村は主人公で、努力家で真っ直ぐで不器用で、良い意味でバカなんです。最初は下手だったところから成長して、結果を出してエースになっていく。島根で例えるなら(杉浦)佑成かな。いつも最後まで自主練をしているし、バスケが好き。佑成って、おとなしそうに見えて結構アホなことする面白いやつなんです。
――では、降谷暁は誰でしょう?
沢村のライバルで、1年生ピッチャーの怪物が来たっていう登場ですよね。上手くて、寡黙でクールでモテる、SLAM DUNK(井上雄彦、集英社、ジャンプ・コミックス)で言うと流川楓みたいなやつ。でもね、実際には流川みたいな選手はいないですよ(笑)。うーん……田中大貴(アルバルク東京)かな。寡黙でクールで怪物。同級生やし、そんなに仲良く話すことはないけれど、名前を出しても怒られへんかなっていう部分も含めて、田中大貴です(笑)。
――御幸一也は?
御幸が一番難しいですね。賢くてチームの核でキャプテンもやっていて。御幸みたいな選手がいるチームは強いと思います。口数少なく、プレーで引っ張っていくタイプのキャプテンで、話すときは的確にチームのためになることを言う。実際にはそんな選手いないです。御幸は、Bリーガーにはいない唯一無二の存在で、みんなが憧れるキャプテンということにしてください(笑)。
――小湊春市はどうでしょうか?
春市はけっこう毒舌なんです。普段の振る舞いからは意外に見えるけれど、小声でぼそっと毒舌を吐くんですよね。かわいい顔して毒舌で、でも悪口ではないという部分で神里和です。
――北川選手自身が似ていると思うキャラクターは?
プレースタイルとか特性の視点で見ると、倉持洋一かな。足が早くて盗塁をよく決めるし、守備がうまい。倉持は器用なタイプじゃないけど、周りを見ていて、ツッコミづらい御幸にもきちんと意見をする。足が速いっていう一芸を持っているという点で倉持にします。
「今の僕をつくったのは、佐古賢一さんと大野篤史さん」
――北川選手の好きなキャラクターは主人公の沢村栄純と聞きました。理由を教えてください。
最初は下手なんだけど、下手なりにやっていく姿勢が良いです。ダイヤのAはリアルにその時々の葛藤が描かれていて、僕が同じ境遇だったということではないですが、読んでいると昔のことを思い出します。
沢村は途中で、デッドボールを与えてからインコースに投げられなくなるイップスになるんです。そこから殻を破って復活するんですが、その過程が周りの人たちの力添えだったというのもリアルで良いです。
――北川選手は、イップスになったことはありますか?
あります。プロ1年目に、バスケをするのが怖くなってコートに立てなくなった。練習では大丈夫なのに試合に出ると視野がすごく狭くなって、本当に周りが真っ暗になって見えないんです。原因は分からないですが、プロ1年目で周りの選手は上手くて、ミスをいっぱいして怒られているうちにバスケが怖くなっていた。
――どうやって克服したのですか?
よく分からないです。当時ヘッドコーチの佐古(賢一)さんが僕の様子に気づいてくれて、2ヶ月くらい試合に出ませんでした。佐古さんは、あの2ヶ月で僕を使ったら潰れると考えたのだと思います。おそらく、イップスは何かをしたから治るというものではないです。2ヶ月間はバスケのことを考えるほど苦しくなっていたのに、あるときから急にコートに立てるようになっていました。
――バスケキャリア1年目の指導者が佐古さんで良かったですね。
今の僕は佐古さんと大野(篤史※)さんが模範になっているのは間違いないです。初めて会った時から、2人みたいな大人になりたいと思っていました。
広島時代は、僕のバスケ人生の中で最も怒られた時期でした。佐古さんと大野さんは、僕に本気で向き合って指摘してくれた。2人はぺーぺーの僕を見下さず、差別もせずに同じ目線でいてくれました。本当に、2人に会っていなかったら今の僕はいないと思います。
※当時広島ドラゴンフライズのアシスタントコーチ。現千葉ジェッツヘッドコーチ
キャプテンは、自分を抑えないといけないのか?
――ダイヤのAでは、3年になってキャプテンに就任した御幸が思い悩むシーンがあります。「キャプテンだからって 自分の主張を抑えなきゃいけないんですかね(※)」という台詞が印象的ですが、キャプテンを務めた北川選手はこのシーンをどう読みますか?
キャプテンをやったら誰もが通る道だと思います。チームは良い時ばかりではなくむしろ悪い時のほうが多くて、その状況を真剣に考えるのがキャプテンで、御幸のように考えてしまうことはあると思います。自分を抑えないといけないときもあります。
――『島根スサノオマジック広報のてまえみそ』で、2020-21シーズン序盤でヘッドコーチが退任した後にチームがばらばらになって、北川選手を中心に話し合いをしたエピソードを聞きました。その時はキャプテンとしてどう振舞ったのですか?
ばらばらというより勝てていなかったので、チームがやろうとしていることが合っているのか間違っているのか分からない状況でした。もちろん負けているので、間違っている寄りなんです。でも、誰かの責任というわけでもない。やっていることが悪いとは思わないのに勝てないから、みんな苦しかった。
そういう状況で、選手全員でミーティングをしました。普段は発言をしない、しにくい選手にどう感じているのか聞くと、みんな良いことを言うんです。「あの時はこうすれば良かった」「こうアプローチしよう」とか、プロスポーツ選手としての考えをきちんと持っている。それを言うことで、「言ったからには次の試合から勝とうが負けようが同じ方向を向いて、マインドを持ってやろう」と話したんです。陰でコソコソと言うのではなく、みんなの前で自分の意見を言うことで言い訳できないようなミーティングの締め方をしました。
12月に7連敗して横浜戦を迎えたんですが、変わったのはその週からです。1試合目は負けて、2試合目も展開的には負け試合でしたが、最後に相手チームのミスにも助けられて勝つことができた。いま振り返ると、周りのいろんなことに少しずつ助けられながら風向きが変わったと思います。こういう展開もあるから、なんでも簡単に諦めたらだめだと思うんです。
※『ダイヤのA』34巻・第293話(寺嶋裕二・講談社・2012年)
才能がある側から無い側へ。才能ってなんだろう?
――ダイヤのAは、沢村の“ナチュラルなムービングボール”という武器があって、それを使いこなして徐々に開花していく過程が面白いです。沢村を見ていると『野球が好き』という部分と『ライバルに負けたくない思い』という二つ強さが才能なのかなと思って読みました。
たぶん、才能は誰もが持ってるもんやと思うんです。才能がない人はいなくて、開花したら才能と言われるけれど、一方で開花していない才能はいっぱいある。いつ才能が表に出てスポットライトを浴びるかは、諦めなかったのか、たまたま開花したのか、良い監督に出会ったのか……いろんなきっかけがある。そのきっかけは、日々の行動とか出会いが作るものだと思います。「才能があるか・ないか」の一言で片付けられるのは、僕は良くないと思っています。
僕は小さい時はどちらかというと「才能やセンスがある」と言われる側の分類でした。小中高はチームで一番うまくて、才能とセンスでやっていると言われていた。でも大学・社会人と大きくなるにつれてもっと才能のある選手たちが出てきて、自分が才能の無い分類になってくる。これって結構キツイです。同じ学年に田中大貴・宇都直輝(富山グラウジーズ)・張本天傑(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)とか良いメンバーが多くて、僕が大学で陽の当たる場所にいたかというとそうではない。でも諦めなかったからB1のチームでキャプテンにもなりました。今でも、なんとか一泡吹かせてやろうって思っていますから。
「おしゃれでいいやつ」鵤誠司選手と選んだシューズは?
――2020-21シーズン北川選手のバッシュはナイキのカイリーLOWでした。カイリーを選んでいる理由は?
前はナイキのポールジョージを履いていたのですが、今シーズン捻挫をしたんです。僕は今までほとんど練習や試合を休んだことがなかったのに、めちゃくちゃ楽しみにしていた(鵤)誠司(宇都宮ブレックス)との試合を欠場した。僕は験担ぎをするタイプなので、カイリーに変えました。
――プライベートで履くスニーカーは決まっていますか?
今はナイキのエアマックスを履いています。その前はずっとエアフォースワンを履いていました。エアフォースにはエピソードがあって、広島で誠司と同じだったんですが、あいつ「靴を変えたほうがいい」ってめちゃくちゃ言ってくるんですよ(笑)。「なに履いたらいい?」って聞いたらエアフォースを紹介された記憶があります。一緒に買い物に行く予定だったけど当日誠司が行けなくなって、ショップでテレビ電話で教えてもらいながらエアフォースの白を選びました。
誠司はすごくおしゃれで、ファッションに詳しいから財布とかも何がいいか相談します。ただ、あいつは適当なんで、親身になってくれるときと適当に「これでいいんじゃん」というときの差が激しい(笑)。基本的にはいろんな選択肢をくれて、その中で値段や色を相談しながら最後まで付き合ってくれます。誠司はあの顔で(笑)、意外に優しいやつなんです。勘違いされやすい人だと思いますが、本当にいいやつ。それがみんなに伝わってほしいなって思います。