
NBランシューは、モードの時代。アジア限定『509』の物語【ニューバランス担当者がスニーカーを語る】
仕事で日々スニーカーに向き合い、肥えた視点をもつメーカー担当は、あのモデルをどう見ているのか。今回ピックアップするのは、『ニューバランス(New Balance)』の509。2000年代のランニングシューズを洗練させ、ファッションアイテムとして昇華。パーツの組み合わせによる凹凸を極力減らし、かつ、シックなカラー使いで、これまでのニューバランスのランニングシューズにはない、フューチャリスティックなデザインが注目のモデルです。
『509』モデルを企画した株式会社ニューバランスジャパン商品本部の上田さんに、その魅力を語っていただきました。
究極のシンプル。新しさ満載の、言うなれば「未来系」NB
――『509』は、『530』をアップデートしたモデルということですが、どのあたりが変わったのでしょうか。
アッパーがシンプルになって、すっきりとしたデザインになりました。前身の『530』を含めた「2000 Running」と呼ばれる『1906R』や『2002R』は、パーツが多くレイヤーのあるデザイン。一方で『509』はパーツがかなり削ぎ落とされ、ミニマルになりました。
――『530』とは別物のようにフォルムが違いますね。なんだか未来感のあるデザイン!
フロントから見ても、かなりすっきり。『530』は、サイドに「サドル」と呼ばれるパーツがついているのですが、『509』では割愛。タン部分のデザインも控えめで、ロゴも小さめにプリントされています。
――すっきりさせたのは、トレンドを重視した上でのことなのでしょうか。
はい。意識したのは、3つのトレンド要素です。1つ目は、アウトドア要素を日常に取り入れた「ゴープコア」。2つ目は究極のシンプルスタイルである「ノームコア」。3つ目は「モダン」。
これらのトレンドにうまくマッチするように、これまでのニューバランスのランニングシューズの特徴であったいわゆる「テッキー」なルックではなく、『509』は、足元をすっきり見せられるように設計しています。
――色もシンプル。
ニューバランスでは、ライフスタイル系のモデルには少し黄みがかったオフホワイト系の色味を使うことが多いのですが、今回はあえて使用せず、ソリッドな印象のホワイトやブラック、グレーを使っているのも特徴です。そうすることで、よりクリーンなルックになるように意識しています。
素材感もしかり。2000 Runningのモデルは、シンセティックレザーとメッシュのコンビネーションが多いのですが、『509』ではオールシンセテックレザーのカラー展開も作りました。Nロゴ部分のサイドパネルはメッシュっぽく見せて、実は「パーフス」という穴開けとメタリックのエンボスの技術によるもので、かなりこだわっています。
――よく見るとかなり計算されてパーツやカラーが配置されていますよね。
ミニマルでも、立体感が出るように。例えばNロゴも黒で縁取ることで、さりげなく強調。細部までバランスを見つつ、パーツやカラーを組みました。
――『509』は、アジア限定モデルなんですよね?
はい、将来的には全世界で展開していく予定ではありますが、現時点ではアジア限定モデルとなります。その背景には、2000 Runningのモデルが、韓国で爆発的に人気が出たということがあります。今のアジアのファッショントレンドでは、こういったランニングインスパイア系がブーム。2020年あたりからはじまり、5年経った今では、定番になりつつあります。
――ランニング系だけに、走れそうなシュッとしたフォルムですよね。
お客さまから「これで走れますか?」という問い合わせもいただくのですが、残念ながら、ランシューズとしてはあまりオススメできません。とはいえ、『509』はレイヤーが少ないこともあり、軽量化されました(※1)。
さらに「ABZORB(アブゾーブ)」搭載で疲れにくいので、長時間歩くのに向いています。私も『509』を普段愛用しているのですが、丸一日履いても、疲れを感じにくいんですよ。犬を2匹飼っていて、それはもうグイグイあるく子たちなんですけど(笑)。そんな2匹の散歩でも、『509』なら全然、大丈夫!
※1
『509』の重さは、24.5㎝=片足約400g /27.5㎝=片足約500g。(編集部調べ)
――「ABZORB」とは、どんなものなのですか?
優れた衝撃吸収性と反発弾性がある素材です。ニューバランスではいろいろ機能を搭載したソールがありますが、その中でも、2025年は「ABZORB」を推していく予定です。日常で歩くには、かなり歩きやすい仕様になっています。
白タイツ×ミニスカートで履くガールズスタイリングが新鮮!
――上田さんは『509』をご愛用されているとのことですが(取材当日も履いていらっしゃいました)、企画してみてと履いてみてと、違うものですか?
企画している段階ではその見た目からカジュアルな普段使いにするイメージがなかなか湧かずにいたのですが、実際に履いてみると、また雰囲気が変わって。思いのほか、普段のカジュアルスタイリングに取り入れやすく、しっくりと馴染みます。
――どんなスタイリングがおすすめですか?
太めのストレートパンツなど、ワイドシルエットのパンツに合わせても、抜け感が出ていいですよね。とにかくシンプルなルックスなので、例えば色や柄の主張するソックスなどをアクセントにするスタイリングもおすすめです。これから春夏の季節は、男性はハーフパンツに合わせてシューズを主役にしても素敵。女性なら、白いタイツを履いて、ミニスカートで合わせるのも、とても新鮮です。もちろんロングスカートにも合います。そして軽いので、たくさん歩く日にも選んでもらいやすいと思います。
――逆に合わないスタイリングがなさそう。
ビジネスシーンでも、カジュアルならしっくりくると思います。いわゆるハイテク的なゴツさもないですが、ローテクスニーカーでもない。ハイテクとローテクの「いいとこ取り」をしたようなデザインです。
――上田さん流スタイリングを教えてください。
今回は、テーラードパンツもジャケットもニューバランスのもので合わせてみました。全体をシンプルにまとめつつ、靴が際立つスタイリングを意識。『509』はシンプルスタイリングの主役にもなるし、主張の強いスタイリングならすんなり馴染む存在に。スタイリングによって、いろいろな顔を見せてくれるモデルだと思います。普段のコーディネートも、全体をシンプルにまとめつつ、アクセや小物で遊びをプラスするのが好み。帽子やバッグをワンポイントに合わせてもいいですよね。
当時を思いながら、違う感じ方ができる。それがアーカイブのよさ
――スニーカー界では過去モデルのリバイバルが昨今よく見られますが、そういったアーカイブモデルのよさはどんなところにあると考えますか?
時代を超えて、オリジナルのよさを表現しているところです。当時を知らない若い方にも新鮮に映るところが、こういうアーカイブ商品のよさかなと思います。私自身も「当時あったな、懐かしいな」と思うところと、月日が経つにつれ知識量も増え、いろいろ人生経験も経た上でまた履くと「こういうところもあったんだ!」みたいな気づきもあり、当時とは見方が変わったりして。そういうのも、おもしろいですよね。それが、ライフスタイル系モデルの醍醐味だと思います。
――「ライフスタイル系モデルの醍醐味」というのは?
ランニングシューズでアーカイブを出す場合、当時はワークしていた機能も、今に即さないということがあります。パフォーマンス系モデルは、常にアップデートを繰り返していくものなので、当時のままアーカイブ化するのは、なかなか難しい。それに対して、ライフスタイル系モデルは、アップデートする部分がありつつも、当時のテクノロジーをそのまま使用する。それが、いいですよね。
――その頃の思い出が甦りつつ、新しさも感じられるっていいですね。
昔流行ったものが再燃しても、なにか変わる部分もあったりして。そこもおもしろいですよね。前身の『530』がいわゆるランニングシューズとして売られていたときは、機能をたくさん搭載した「サポートティブ」なものが流行っていました。そこからだんだんと、新しいアプローチの「ライトウェイト」が注目されはじめ、どんどん機能を削ぎ落としてすっきりしたものがトレンドとなり。さらにそれが、ライフスタイル寄りになり……。という、2000年代ぐらいのブームがあったのですが、その流れが今も来ているのではないかと思います。トレンドって、やっぱり一周するんですよね。
『530』の登場は、男性だけでなく女性がランニングシューズをファッションに取り入れる火付け役ともなりました。『509』は、そんな『530』を既に愛用している方がさらに新鮮に楽しめるデザインになっていると思います。ぜひ手に取って、実際にスタイリングしてみてほしいですね。