0

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

2025.05.01

Bリーグ×ファッション連載56回目は、シーホース三河須田侑太郎(すだ・ゆうたろう)選手が登場。栃木ブレックス(現宇都宮ブレックス)・琉球ゴールデンキングス・アルバルク東京・名古屋ダイヤモンドドルフィンズを経て、現在はシーホース三河に在籍しています。2021年から日本代表に招集されてワールドカップ予選、アジアカップなどを戦い、そのシュート力が注目されています。

この連載ではVol.45に初登場して、カジュアルでシックな私服姿を見せてくれました。再登場となる今回は、ファッションを入り口に仕事観へと話が展開していきました。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

「80歳で履くオールスターって可愛いですよね」

――前回も全身黒のコーディネートでしたが、今回はさらに洗練された印象です。

今日は靴を中心に考えました。光沢のあるベルベット素材のオールスターで足元をキレイめにした分、パンツはラフな素材のスウェットでバランスをとりました。トップスを革ジャンに決めて、最初はデニムを合わせようと思ったんですが、全体にキマりすぎそうだったので、ラインが可愛いパンツでカジュアルダウンしました。なんでもそうですが、やりすぎは良くないと思っているので、ちょっと珍しいベルベットのオールスターで個性を出しつつ引き算のバランスで組み立てています。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

――もしも、これからの人生の私服で一つのブランドの靴しか履けないとしたら何を履きますか?

VANSと迷うけれど……CONVERSEかな。素材によって足元の雰囲気を変えられるし、ハイカットもあって、色んなコラボレーションモデルもある。コーディネートは靴から考えることもあれば、着たいジャケットから組み立てることもあります。そんなふうに考えていくと、オールスターは万能だなと思います。80歳になってオールスターを履いていたら可愛いですよね。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

――須田選手が好きなブランドのデザイナーになれるとしたら、どんなアイテムを作りますか?

自分のファンクラブ(※SDYTR.[エスディーワイティーアールドット])があるので、そこから展開しますね。自分で作るものって、自分が着たいものから始まるんです。着ていてテンションが上がるものがいいから、生地感は大切にしたいです。誰が手に取っても良いと感じる生地で、シンプルだけど少し個性を感じるようなアイテムを作りたいですね。

――前回のインタビューでは、「SDYTR.」のトレーナーのお話を聞きました。

「SDYTR.」で服を作って感じたのですが、アパレルは本当に片手間でできる仕事じゃないです。僕はまだ入り口に立ったばかりだけど、ブランドとして服を作る大変さを実感したし、本気でやるなら自分の表現を突き詰めないといけない。

僕はバスケットボール選手という肩書があるからファンの方が手に取ってくれます。でも、一般的なブランドってファンがいない状態から始まるから、かなりの努力が必要ですよね。そう考えると僕の広がり方は邪道かもしれないけれど、バスケをきっかけに僕を知ってくれた方が、「SDYTR.」のアイテムを見て「良いな」と思ってくれたらめちゃくちゃ嬉しいです。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

良いものに触れて、自分のスタンダードを上げる

――須田選手の私服を見ると、選んでいるアイテムに質の高さを感じます。500円で服が買える今、ファッションにお金をかける価値はどこにあると考えていますか?

服や靴って毎日身につけるもので、一日を気持ちよく過ごすために欠かせないものだと思うんです。毎日気持ち良く過ごしたいと思った時に、身につけるものの力は大きい。投資というと株や不動産が浮かぶけれど、僕にとって一番の投資対象は自分自身。服や靴などの外的な刺激を取り入れることで気分が整って、一日を前向きに過ごせることは大切だと思います。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

500円の服を適当に着回している人が、たまたま手に取った質の高い服を着たら「今日は気分がいい。この服を着ている自分は好きだ」と感じるかもしれない。そんな経験が重なると、長く着られる良いものを選ぶという世界に自然に近づく気がします。そういう経験を重ねて自分なりの良いものを見極める力がつけば、結果的に500円の服を選んでも満足すると思います。金額じゃなくてモノを見る力ですね。

――須田選手は、自分なりの良いものを見極める力をどうやって磨いてきたんですか?

ファッションやカメラなどに興味が出てきて、それまで知らなかった世界に足を踏み入れることで刺激されました。何をしても学ぶことはあって、たぶん本質は一緒なんです。バスケットボールでも、すごい選手はすごいです。トップにいる選手にはその場所にいるなりの裏付けがあると知ることで学びがあるし、自分が服を作っている時も学べる。だから、日々世の中を見て、できるだけ良いものに触れて、自分の感覚を研ぎ澄ませていたいんです。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

――バスケットボールでいえば、日本代表の活動は大きな学びがありそうです。

日本代表は、コーチ陣や環境を含めてレベルの高い場所にトップレベルの選手が集まっています。Bリーグで戦っているだけではわからない選手のパーソナルな部分が見えてきて、「この選手がトップレベルにいるのは、こんな行動をしているからなのか」と気付かされます。

代表合宿中にレイ・アレン選手(※NBAチャンピオン経験者でバスケットボール殿堂入りした“NBAレジェンド”)から話を聞いたのですが、本物に触れてすごく感化されました。自分のスタンダードが上がると、見えなかったものが見えてくる感覚はありますね。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

「また頑張ろう」と思えるために

――前回のインタビューから2年4ヶ月経ちました。その間に名古屋ダイヤモンドドルフィンズとシーホース三河でキャプテンを務めて、“須田キャプテン”が定着しましたね。

前チーム(※名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)で、プロになって初めてキャプテンを任されました。自分の言動で(チームが)変わっていくのをダイレクトに感じられて、すごく楽しかったんです。キャプテンという役割に没頭するうちに自分の調子の良し悪しを考えなくなっていって、結果的にプレーも良くなりました。そこから自分なりのリーダーシップの形が確立されていった感覚があって、蓋を開けたら「須田は良いリーダーだ」と言ってくれる人が増えていたんです。シーホース三河もリーダーシップを評価して声をかけてくれたところがあるので、もう一度チャレンジして自分の成長にフォーカスしたいと思って移籍を決断しました。

――前回のインタビューで「休むことの大切さに気づいた」と話していましたが、今も全力疾走していますよね。

自分がなりうる最大の自分になることが、一番の目標なんです。それに、自分の性格上、あえて厳しいほうに目を向けて、自分に負荷をかけちゃうんですよね。その状況は苦しいんだけど、今までの経験で、乗り越えた時にすごいものが得られるという蜜の味を知ってしまっているんです。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

――頑張り続けるって、誰でもできることではないです。

僕は一歩一歩上がってきた人間だからわかるのですが、自分が思い描いたものにたどり着きたいなら、その一歩を飛ばしたりはできないんです。バスケなら1日の練習、1回の試合でベストを尽くすことが一番の近道です。でも、自分の気持ちだけでやっていくのは無理なんですよ。だから、いろんな人と話して刺激を受けたり、僕なら服や靴などの外的な要素でモチベーションを上げていく。こんな考え方を全員ができるかどうかわからないけれど、毎日を生きていくってことを考えると「また頑張ろう」と思えることは大事なのかなと思います。

ただ、仕事で受けた傷は、結局のところ仕事でしか癒せないです。仕事がうまくいかなくて落ち込んでも、他のことで気を紛らわすことはできても、本当に立ち直るには仕事で取り返すしかない。そこに向かっていくための“ガソリン”が、人によっては車だったり家具だったりするように、僕にとっては服と靴なんです。

「ファッションは心にエンジンをかけるもの」 シーホース三河・須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.56>

トップス:Lewis Leathers
インナー:The REAL McCOY’S
スニーカー:CONVERSE

取材・文:石川歩
写真:水野由佳
取材協力:シーホース三河