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「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

2021.08.27

お気に入りの漫画についてとことん聞いて、Bリーガーの個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。3回目は群馬クレインサンダーズ笠井康平選手が登場! 尽誠学園高校から青山学院大学に進み、卒業後に四国電力へ入社。いったんは社会人バスケを選びますが、2018-19シーズンに名古屋ダイヤモンドドルフィンズに入団し、2020-21シーズンに群馬クレインサンダーズに移籍しました。

今回は、『アオアシ(小林有吾・小学館)』について話を聞きました。アオアシは、Jリーグの高校生ユースチーム『東京シティ・エスペリオンFC』を舞台に、プロになることを前提に鍛錬を重ねる学生の姿が描かれる人気サッカー漫画です。大学バスケの強豪校から一度は社会人の道を選び、その後プロに転向した経歴を持つ笠井選手。アオアシで描かれるシーンに共感する部分もあり、Bリーガーならではの視点で『アオアシ』を語ってくれました!

チームで一番バスケにアツいのは……?

――笠井選手が最も好きなキャラクターは青井葦人(あおいあしと)と聞きました。葦人を好きな理由は?

「どんな漫画でもそうですが、僕は現実にあり得ない必殺技があまり好きではないんです。アオアシは、そもそも現実に近い視点で描かれているのが好きです。葦人は身体能力は無いですが、賢いところが好きです。スポーツをやっている側から読むと、葦人は見た目で“すごい”ということは分からなくても、話を聞いていくと、“あの時間帯にそこまで分かってプレーしていたんだ!”というのがあってすごくかっこいいです。スポーツをやっていると、そういうことがあるんです。“そこまで分かってプレーしていたんだ”というのは、出来そうで出来ないことでもあって、なかなか身につけられるものではない。葦人は賢さがかっこいいし、応援したくなるキャラクターです」

――葦人を、群馬クレインサンダーズの選手に例えると誰でしょうか?

「難しいですね……。ちょっと保留させてください」

――大友栄作はどうですか?

「大友は、(杉本)天昇(すぎもとてんしょう)です。大友は、ユースのセレクションで周りの知らない選手とコミュニケーションをとって試合を成立させますよね。話が進むにつれてだんだんチームのムードメーカーみたいな役割になっていくのですが、そういう部分が天昇に似ています。天昇はオフコートでも好んでコミュニケーションを取るタイプで、口数も多い(笑)。コートに出るまではふわふわしていて明るい雰囲気をまとっていますが、コートに出るとしっかりと仕事をする。天昇のオンコート・オフコートの振る舞いが大友に例えられると思いました」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

――橘総一朗はどうですか? 

「橘もユースセレクションから葦人と一緒ですが、ずっと真面目なキャラクターです。真面目というキーワードで例えると、野本(建吾)さんです。(青山学院)大学で一緒で野本さんが一つ先輩ですが、バスケットに対して真面目な人です。自分の体にきちんと向き合って自炊しているし、ケア用具もいろいろ買って試しているみたいです。見ていてすごく真面目な選手だと思うので橘に例えました」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

――冨樫慶司はどうですか?

「冨樫は元暴走族だけど、サッカーの才能があってスカウトされた選手です。悪そうに見えるけれど、サッカーにはとてもアツい人で、本音でチームメイトにぶつかって喧嘩っぽくなっても気にしないキャラクターです。アツさという共通点で言うと、群馬で一番バスケにアツいのはマイク(マイケル・パーカー)です。マイクの負けず嫌いはすごくて、試合に限らず練習中の5対5や紅白戦でも自分のチームが負けたらチームメイトにアツく意見します。試合中も、“こうしたい”というアイデアや考え方をしっかり伝える選手で、僕はマイクがいてくれたことで、どんな状況でも勝ちにこだわるようになりました」

――昨シーズン、群馬は33連勝のBリーグ記録を出しました。パーカー選手は連勝の原動力になったイメージがあります。

「シーズン中ずっと勝っていたので、中だるみというか……スタートでフワッと入ってしまう試合もありました。その中でもマイクは、“目の前の1試合を大切にしよう”と言ってくれて、マイクと話していくうちに毎週しっかり試合をしようという気持ちになりました。シーズンを通して好成績だったというのは大事ですが、どんな対戦相手でも自分たちがどんな状況でも、毎試合しっかり勝ちにこだわって戦うというマインドを持てたのが昨シーズンの大切なことだったと思います」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

――栗林晴久はどうですか?

「栗林はエスペリオンでもずば抜けた才能があって、高校生でプロ契約をするスターです。群馬で例えるなら、トレイ(ジョーンズ)です。誰から見ても華のあるプレーをするし、プレーや発する言葉にも自信を持っているのが分かります。トレイは、栗林のようにチームの絶対的なメインの選手で周りに夢を与えるような存在だと思います」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

笠井康平選手の“目の前が開けるような”感覚とは?

――漫画の中では、葦人は天性の才能としてコートを俯瞰する目を持っているけれど、才能を生かすための技術が足りず必死に練習して、試合中も考え続けることで困難を越えていきます。どんなスポーツでも、極めようとする過程で葦人と似た経験をするのかもしれないと思いました。

「出来ないことに練習で取り組んでも“出来る”という感覚が持てなかったことが、試合中にふと出来たりすることはあります。試合中に急に周りが見えるようになって、練習で取り組んでいた場面になったときに出来なかったプレーが出来て得点に絡むとか。そういう経験は気持ちいいし、その後の練習は具体的なイメージを持って取り組むことができます」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

「昨シーズンは、マイクがロブ(編註:山なりのパス。ゴール下にいるパーカー選手にロブパスを出すと、アリウープやダンクで得点できる可能性が広がる)を求めていました。自分が何もしていない状態であればパス先を見られるのですが、ドライブしていたり何か仕掛けようとしている時はロブを出せなかったんです。それが、ある試合でマイクがゴール下にスッと入って手で合図しているのが見えて、ロブを出せた時があって、“ああ、マイクが言っていたのはこういうことか”と実感できました。技術的にまだ練習が必要ですが、“こういうシーンでは、あそこが空いているんだ”という意識でコートを見られるようになった。パスの選択肢が一つ増えた感覚です」

――アオアシの中で、中村平がサッカーの才能に限界を感じて引退するシーンがあります。笠井選手は、平とは逆にアマチュアからプロに転向した経歴がありますが、このシーンはどう読みましたか?

「僕も、大学の下級生まではプロになるという夢を持っていました。ただ、大学で一緒にやっていた鵤(誠司・宇都宮ブレックス)と船生(誠也・広島ドラゴンフライズ)が大学をやめてプロの道に進んだんです。大学4年になって自分の力不足を感じていたときに二人がプロでやっていくのを目の当たりにして、バスケをするのがしんどくなった。自分にとってもチームにとってもあまり上手くいかない時期も重なっていて、バスケから離れようというか……そこまでプロにこだわらなくてもいいと思ったんです。今思えば、おそらく当時も根本的にバスケが好きで、高いレベルでやりたいという気持ちは持っていたのですが、自分にとって二人がチームからいなくなったのは大きな出来事でした。結局は、大学卒業後に実業団でバスケをやっていたけれど、中途半端にバスケをやるのは嫌だと思ってプロに挑戦しました」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

――アオアシでは、栗林がトップチームからユースチームに呼び戻されたときに、周囲の期待に応えようとして本来の自分を見失っていると評されるシーンがありました。プロに転向した笠井選手は、ファンやメディアの数に戸惑うことはありましたか? 栗林のとった行動は理解できますか?

「僕は、大学卒業後に実業団にいて2年間トップレベルのバスケから離れていたので、すぐにトップでやれる自信がなかったんです。周りに対して自分を良く見せようというよりも、もっと頑張らないといけないと考えるばかりでした。高いレベルでバスケが出来ているのが楽しかったし、その環境でもっと成功して結果を残さないといけない思いがすごく強かった。周りを意識するほど余裕がないというか……、自分のやるべきことが具体的に分かっていたので、周りが気にならなかったのかもしれません」

――最後に一人残っています。青井葦人は、チーム内で例えると誰でしょうか?

「自分でもいいですか? 僕もそこまで身体能力が高いわけではないけれど、いろいろ考えながらバスケットをしています。その感覚を持っているから、葦人の言動をかっこいいと感じられるのだと思います。葦人と自分が重なる部分があるから、葦人の言動を読んで素直にすごいと思えるんです。たとえば、僕から見てトレイ(ジョーンズ)はすごい選手です。それはたぶん、葦人が栗林を見ている感覚に近いと思うんです」

「葦人は身体能力は無いけれど賢い」群馬クレインサンダーズ笠井康平選手×アオアシ【Bリーガーと漫画VOL.3】

写真提供:群馬クレインサンダーズ

最近お気に入りのスニーカーはナイキSB

――最近買ったプライベートのシューズで、お気に入りを教えてください。

ナイキSBのローカットで、ステファン ジャノスキーのベージュがお気に入りです。学生の時から『ナイキ(NIKE)』のスニーカーはいろいろ買っているのですが、SBのローカットはキレイな服装をする時に合う靴を探していて見つけました。ナイキのスニーカーというとエアーが入ってゴツい印象がありますが、これはスリッポンみたいなシュッとしたかたちをしています。シャツとデニムに合わせたり、トップスとパンツをネイビーの無地で統一して足元をSBのベージュにしてシンプルにまとめたり、キレイな格好をする時に重宝しています。

取材・文:石川歩
取材・写真協力:群馬クレインサンダーズ

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