「オールマイトに『次は君だ』と言われているから」サンロッカーズ渋谷・ベンドラメ礼生選手×僕のヒーローアカデミア【Bリーガーと漫画VOL.9】
お気に入りの漫画についてとことん聞いて、選手の個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。9回目はサンロッカーズ渋谷・ベンドラメ礼生選手が登場。
ベンドラメ選手は1993年生まれ、福岡県出身。東海大学在学中にアーリーエントリーで日立サンロッカーズ(現サンロッカーズ渋谷)に入団し、Bリーグ初代新人王を獲得。東京2020オリンピック競技大会(以下、“東京2020大会”と表記)に男子バスケットボール日本代表として出場しました。語るのは『僕のヒーローアカデミア(堀越耕平、集英社、ジャンプ・コミックス)』です。
「次はベンドラメ礼生だ」
――なぜ『僕のヒーローアカデミア』を選びましたか?
普段からセリフを真似しているのが、僕のヒーローアカデミアです。電話に出る時や待ち合わせで到着した時に、オールマイトの「私が来た」を言って、「何それ?」と聞かれたら説明します。「ちゃんとヒロアカ(僕のヒーローアカデミア)読んでおけよ」って。
――ベンドラメ選手が好きなキャラクターは?
オールマイトです。面白くてかっこいい! みんなのヒーローで平和の象徴として戦う一方で、コメディタッチにも描かれていてボケを挟んでくる。真面目一辺倒じゃないキャラクターが好きです。
オールマイトは、オールフォーワンとの戦いで力を振り絞って全てを使い果たす。その様子が全世界にテレビ中継されていて、体がガリガリになって弱くなったことが世の中にバレてしまう。その状態でカメラを向かずに、テレビ画面越しに「次は君だ」と主人公のデク(緑谷出久)を指すんです。もう……! そのシーンを読んだ時の鳥肌がヤバかったです。次は僕の番だなって、勝手に僕がオールマイトの言葉を受け取りました(笑)。
――オールマイトは平和の象徴であることを自分に課しすぎて、自ら引退を早めてしまったように思います。プロバスケ選手も、シーズン中ずっと勝つことを自分に課す側面はオールマイトに似ていると思いました。
オールマイトは尋常じゃない責任感を自分で抱えていますよね。平和の象徴と言われるたびに重圧は増していく。でも体は限界に近づいていて、重圧に耐えきれない自分になっていくのがしんどかったと思います。
僕も、プロ選手になってから期待される存在であると感じています。プロ選手として歳を重ねるにつれて、期待も責任感も強く感じるようになって、勝たなければいけない重圧はあります。でも、オールマイトに「次は君だ」と言われているから重圧に負けちゃいけないと思うし、みんなの期待を背負って、応えて、期待を超える活躍をするのがプロ選手の仕事だと考えています。
――『僕のヒーローアカデミア』で、共感する部分はありますか?
デクはいつも壁にぶち当たります。でも、前向きにひたむきに一歩ずつ成長して、自分なりの正解を見つけて、なんとか壁を乗り越えていく。そのうちにデクは、オールマイトは一つの目標であって、オールマイトにはならなくてもいい、自分の道を見つけることが大切だと気が付くんです。
そこはアスリートも同じで、目標にする選手がいても、真似だけしていたら行き止まりになる。行き止まりにある壁に向かって小さな一歩でも着実に進んで、自分の成長を噛みしめながら前に進んでいくデクに共感します。
サンロッカーズ渋谷のメンバーを『僕のヒーローアカデミア』で例えると?
――緑谷出久をサンロッカーズ渋谷のチームメイトで例えると、誰ですか?
デク(緑谷出久)は、僕がいいです。デクの常にひたむきに頑張る姿勢がいいし、その姿勢は何をするにも大切だと思うから。
――デクと比較して、いまベンドラメ選手はどのあたりにいますか?
デクはある程度ワン・フォー・オールを扱えるようになって、ようやくヒーローとして活躍できるようになった。そこまでだと一般的な”良いヒーロー”と変わらなくて、この先に経験を積んで自分の色を出して、より多くの人に慕われる平和の象徴になれるかどうかの段階にいます。
僕は年齢的にいろいろ経験を積んできて、良い選手にはなれたと思う。ここからスペシャルな選手になるために、何が必要か見極める段階にいます。今のデクと僕は、ほんの一握りの”スペシャルなヒーロー・スペシャルな選手”になれるかどうかで同時進行していると思います。ただ、デクは1年で一気に成長するからな……アイツ、成長が早いんです。
――爆豪勝己は?
小島元基です。アイツは本当に負けず嫌いで、爆豪っぽいです。シュート勝負をすると、アイツが勝つまで終わらない。勝負する前から終わらないことが分かっているから、真剣にやるんだけど、どっかで僕が負けて「まあ、今日はこれぐらいにしとこう」という決着になる。こういう話をすると、アイツは「お前はオレに1回も勝ってない」と言い始めて、会話が終わらないんです。
――轟焦凍は?
石井(講祐)さんです。二人ともクールな雰囲気を持っていて、戦う時もサラッとしているのに、メチャクチャ強い。内に秘めているものがあって、石井さんも轟も戦いになると絶対負けたくない気持ちが全面に出てくる。石井さんはすごくアツい人です。
――切島鋭児郎は?
関野(剛平)です。勢いがあってイケイケドンドンな感じと、自分の身一つが武器で、小細工なしで戦うところが似ています。関野のプレースタイルは、オフェンスもディフェンスもスピード勝負で、一直線に正面からぶつかっていく。切島の戦い方と似ています。
イレイザーヘッド(相澤消太)は、ライアン(ケリー)です。ライアンは先生っぽいところがあって、おしゃべりではないけれど、メンバーをきちんと見て必要な時に的確な指示をくれます。あと、本当に助けてほしい時に助けてくれる人で、試合でいうと点が欲しいときや流れを変えたい時はライアンが助けてくれます。イレイザーヘッドも、さすが相澤先生というタイミングで登場して助けてくれます。
――スニーカー好きのベンドラメ選手に聞きます。オールマイトに似合うスニーカーは何ですか?
JORDAN7です。JORDAN7の見た目のゴツさ・力強さが、オールマイトに似ていると思います。
「竜青のほうが良くない?」の捉えかた
――『僕のヒーローアカデミア』で、ベンドラメ選手が好きなシーンは?
一番は、オールマイトが画面越しにデクに伝える「次は君だ」のシーンです。(通形)ミリオがオーバーホールと戦うシーンも好きです。デクはミリオに対して、「ワン・フォー・オールをミリオが継承していたら……?」と考えてしまうんです。
僕も東京2020大会で日本代表に選ばれた時に、(川崎ブレイブサンダース・篠山)竜青さんが入っていたら……? と思ったことがあるので。「なぜベンドラメなの?」「竜青のほうが良くない?」という周りの声は結構あったんです。でも、選ばれたのは自分だし、そこで結果を出さないといけない。
――ベンドラメ選手は、周りから聞こえるネガティブな声をどう捉えていたのですか?
一喜一憂しても進まないし、上がる声の分だけ注目してもらっていると捉えていました。そもそも、全員に認めてもらえるわけがない。僕の次の段階は、僕を認めていない人を認めさせること。そこが一つの目標になっています。竜青さんファンにもベンドラメファンになってもらって、「ベンドラメでも良かったな」と言ってもらえたらいいと思います。
――『僕のヒーロアカデミア』で例えるなら、ヒーローを誰もが認めているわけではない状況に似ています。オールマイト引退後は社会的にヒーローの地位が下がりステインに賛同する声もあったけれど、ヒーローたちは粛々とヴィランと戦っています。
ヒロアカの世界でも、ヒーローとして良いことをしても、誰もがヒーロー活動を認めてくれるわけじゃないんですよね。ヴィランがやっているのは破壊なので悪いことですが、ステインが言うことも間違いではなくて理解はできる。どちらの立場にも正義があって、どちらの側にも立てることに気付かされる漫画です。
プロ選手になっている時点で、誰かのヒーローだ
――ベンドラメ選手は2020年に個人のファンクラブ『L.planet』を始めました。ファンとの向き合い方が変わったのですか?
僕は個性が強いけれど、そんな僕の感性を好きでいてくれる人たちと楽しい空間を作りたいと思ったんです。『L.planet』は、僕もみんなも楽しくて、居心地が良くて、誰も悲しくない、そんな惑星みたいな居場所です。個人的には、応援を感じることでプロ選手としての自分の価値を確かめられるし、責任も感じられる。ただお金のためにバスケをやっているわけではないと、再確認できる場です。
ファンクラブをやっていると「調子にのってる」と言われることもありますが、プロスポーツ選手の一つの価値として、誰かを元気にする・笑顔にすることがある。分かりやすく言えば、バスケットボールをするだけで喜んでくれる人がいることは僕の価値です。現役のうちから価値を最大限に生かして、いろんな人に笑顔が行き渡ればいいなと思う。
――『僕のヒーローアカデミア』でもオールマイトは平和の象徴という価値を利用した大きな影響力で、平和を維持していました。
誰かの為になりたくても、実際はなかなかなれない。でも、プロ選手になっている時点で誰かのヒーローでもある。僕は、現役のうちはヒーローの仕事を全うしたいと思います。「次は君だ」とオールマイトに任されちゃっているから。
取材・文:石川歩
写真:白松清之
取材・写真協力:サンロッカーズ渋谷