悲願のB1昇格と小野龍猛選手入団―小さなチームのビッグな挑戦【Bリーグ広報のてまえみそ<信州ブレイブウォリアーズ編>】
昨シーズン、B2中地区で40勝7敗という圧倒的な強さを見せた信州ブレイブウォリアーズ。新型コロナウイルスの影響拡大でリーグは中断しましたが、地区優勝クラブとして今シーズンからB1に昇格しました。
ウォリアーズは2018-19シーズンも48勝12敗で地区優勝、チャンピオンシップを勝ち上がってB2チャンピオンになりましたが、クラブの債務超過でB1財務基準を満たせず昇格できなかった経緯があり、B1昇格はチームとフロントが一丸となって勝ち取った悲願の達成でした。
今回はクラブ創設前からウォリアーズの社員としてチームを支え、現在は広報を務める野本和宏さんに話を聞きました。今までのB1クラブ広報の“てまえみそ”とはちょっと違う、生々しい話も飛び出しました。今までウォリアーズを知らなかった人も、今シーズンはきっと応援したくなるはず!
『神様がくれた1年の準備期間』からB1昇格へ
――今シーズンのウォリアーズのビッグニュースは何といってもB1昇格です。コロナの影響で4月24日のリーグ理事会の決定をもって昇格が決まりましたが、そのとき野本さんはどんな気持ちでしたか?
「ほっとしたの一言につきます。1年前、チームは申し分のない結果を出したのにクラブの財務状況が原因で昇格できなかった。それから1年間は財務改善のために支援していただいた各関係者の皆さん、フロントの一人一人が本当にがんばってきた自負があるので、昇格が決まってほっとしました」
――チームは2018-19シーズンも地区優勝しましたが債務超過でB1に昇格できなかった。そのとき、野本さんの目には選手たちはどんなふうに映っていましたか?
「クラブ代表が、練習終わりにライセンスの結果について選手たちに説明に行きました。落ち込んでいる選手もいる中、アンソニー・マクヘンリー選手が『このままB1に上がっても他クラブと対等に戦えるか分からない。神様がもう1年準備期間をくれたんだ』と話したんです」
「そのとき、B2チャンピオンが目の前にせまっていました。当時在籍していた蒲谷選手、齋藤(崇)選手、石川選手らが『一握りの選手しかチャンピオンの経験はできないし、ブースターのためにも今シーズンはそれを達成してやろう』と伝えて、選手たちは気持ちを切り替えてくれました。特に若い選手は落胆が大きかったようですが、それらの言葉で救われたように見えました」
――選手と近い広報の立場で、当時の野本さんはどんなふうに振る舞っていましたか?
「僕はアウェーにも帯同して、選手たちの昇格へのモチベーションを感じていました。一方で、フロントスタッフの大変さも見ていたので、正直なところどんな言葉をかければいいのか、まったく見つかりませんでした。当時、自分がなにかチームにとって良い発信をできたのかというと、おそらくできていないんです。でも選手たちはあの状況下でがんばってチャンピオンになってくれて、最後はホームコートで信州のブースターさんとジェット風船でお祝いしたんです。その光景を見て、2018-19シーズンのいろんなことが報われました」
「スペースマウンテンに乗れるんですか?」
――オフシーズンのウォリアーズのビッグニュースは、小野龍猛選手の移籍です。野本さんから見て、龍猛選手の入団はチームにどんな影響を与えていますか?
「まずは、SNSのフォロワーが増えました。様々な世界大会で日本代表として戦ってきた選手が初めて入団したので、ブースターの皆さんは楽しみにしてくれています。ウォリアーズは真面目なクラブで、そこに龍猛選手が入って雰囲気をほぐしてくれています。龍猛選手は怖そうな雰囲気もありますが、ディズニーランドが大好きで“隠れミッキー”について詳しく話してくれます。198cmあるので『スペースマウンテンに乗れるんですか?』と声をかけられることもあるそうです(笑)」
『B2イケメンNO.1』大崎裕太選手のイケメンな入団経緯
――今シーズン、ウォリアーズで注目の選手を教えてください。
「大崎裕太選手は昨シーズンのバレンタイン企画でB2の1位になったイケメンで、ウォリアーズに入団した経緯がドラマティックです。もともと大崎選手はU18カテゴリーで、(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)安藤周人選手や海外でプレーしている渡邊雄太選手などと一緒に日本代表で戦っていました」
「その後、大崎選手はBリーグではなく関東の実業団に就職したのですが、プロ選手になりたいという気持ちがありスタッフの縁もあってウォリアーズに来ました。当初、勝久ヘッドコーチは大崎選手のことを知らなかったため練習生として入団したんですが、大崎選手のプレーを見てすぐに本契約を結んだんです。それくらい実力のある選手だったんです。昨シーズンはスターターで出る試合が増えてプレータイムも伸びている。今シーズンの大崎選手の活躍を楽しみにしていてください」
信州ブレイブウォリアーズ、試合中に照明を消しちゃう
――今シーズン、ウォリアーズは日本バスケを代表するビッグクラブと同じ土壌で戦います。B1で戦ううえで野本さんが感じている課題はなんですか?
「それは明らかに資金力です。2018-19シーズンのB1営業収入は上位5クラブが12億円を超えていますが、ウォリアーズは3.2億円とB1で戦える事業規模になれていません。そこはフロントがいかに営業・チケット・グッズなどの収入をがんばるかにかかっています。また、いつでも練習やトレーニングができる環境の充実化にも取り組みはじめています」
――野本さんは広報と兼務で競技運営もしていたので、資金力がチームの強さにダイレクトに関わってくる肌感覚が分かるのですね。とてもリアルな話だし、一朝一夕に解決できるものではないと思います。
「僕はクラブの立ち上げ前からウォリアーズに携わっています。運営会社設立時のスタッフは当時の社長を含めて3人で、支援者・協賛社がなかなか決まらず苦戦した時期を知っているので、資金力の大切さは身に染みています。ただ、立ち上げ前に集まったボランティアメンバーで話していた『信州をバスケで盛り上げよう』という原点は曲げずにここまでやってこれている。それは良いことだと思います」
――準備期間を含めると、野本さんはウォリアーズで11シーズン目をむかえます。いろんな経験をしてきたと思いますが、野本さんの印象に残っている出来事を教えてください。
「パッと思い出したのは、ウォリアーズのホームゲームでは試合終了後に照明を消す演出をしているのですが、ある試合で数秒の時間が残っている段階で当時のスタッフが間違えて照明を消しちゃったんです。ちょうど対戦相手にフリースローを与えたときに照明が消えまして、非常灯と一部の照明だけの薄暗い状態でフリースローをしたことがありました。これは今だから言葉にして話せる内容ですが……」
――いま聞けばチャーミングなエピソードですが、相手チームからしたら、なかなかの嫌がらせですね(笑)。
小さなチームのビッグな挑戦
――野本さんから見て、B1各チームに負けないウォリアーズの強みはなんですか?
「ウォリアーズは声を出す応援がメインで、ハリセン等は使わないんです。ずっと、ブースター一人ひとりの声援をダイレクトに選手に届ける応援方法でやってきました。選手たちもシュートが入ったときのブースターの盛り上がりを感じられてモチベーションが上がると言っています。この応援スタイルやブースターの熱量は絶対に負けていない。B1チームと比べて観客動員数はまだまだですが、ビッグクラブ並みの動員数になったときにウォリアーズの応援はどれだけすごいことになるんだろう。2020-21シーズンは新型コロナウイルスの影響で厳しい面もありますが、今から楽しみで仕方ないです」
「長野県は秋田や沖縄のようにバスケがメジャーな地域ではありませんでしたが、徐々にバスケやウォリアーズの認知度が上がっているのを感じています。路線バスのバス停やマンホールにはウォリアーズのロゴが入っているし、シーズン中は商店街の街灯フラッグがウォリアーズになります。長野市とダブルホームタウンの千曲市は人口58,000人の小さな街ですが、今はこの小さい田舎のチームがビッグクラブへ挑戦して日本一を目指していくのが楽しみです」
――クラブ規模の差はすぐには埋まりませんが、バスケという土壌は同じです。今シーズン、ウォリアーズがビッグクラブに勝つ痛快な試合を見てみたいです!
「B2チャンピオンになったとき、選手達がコート上でヘッドコーチにボトルの水をかけてお祝いしたんです。ヘッドコーチに『シャンパンファイトはないの?』と聞かれたし、僕も選手たちを撮っている間にシャンパンをかけられたい。いざその時がきたら、僕はゴーグルをつけてスタンバイするつもりです(笑)。チャンピオンの次は東アジア・世界……とウォリアーズの挑戦は続きます。何よりも、バスケで信州をもっと元気にしたいんです!」
取材・文:石川歩
取材・写真協力:信州ブレイブウォリアーズ