「年齢を重ねると、ゴールが変わる」名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 須田侑太郎選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.45>
Bリーグ×ファッション連載45回目は、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(以下名古屋D)の須田侑太郎選手が登場。北海道出身の須田選手は、東海大学卒業後に栃木ブレックス(現宇都宮ブレックス)に入団。琉球ゴールデンキングス、アルバルク東京を経て、現在は名古屋Dに在籍しています。この日は、190cmの身長で全身黒のコーディネートをスマートに着こなしていました。
アシックスの名門感をカジュアルに履きこなす
――今日は、アシックスGEL-PTGを履いています。このスニーカーを選んだ理由は?
僕は『アシックス(asics)』にサポートしていただいているので、今回の取材用に送ってもらいました。昔からある定番スニーカーで、クラシックなシルエットと、おろしたてでも履きやすい機能性の高さが気に入っています。基本的にスニーカーは白を履くことが多いので、今回も白いアシックスストライプを選びました。
――アシックスというと、“日本の名門メーカー”イメージがあります。須田選手は名門感をどう履きこなしているのか、合わせのコツを聞きたいです。
名門感と言われれば、そうですね。アシックスは、子どもの頃に運動をしていたら誰もが通るスニーカーですよね。部活のイメージを持っている人もいるかもしれないけれど、僕は一周まわって今アシックスはおしゃれだと思うんです。シンプルで何にでも合うけれど、よく見るとデザイン性が高くてパッと見てアシックスとわかる。僕の私服はシンプルですが、そこに少しだけ個性を入れたいんです。アシックスって、どんな服装にも合わせてくれる万能感があります。
――今日はトップスがUNDERCOVER、パンツがGUCCIです。
僕は、特定のブランドを着ることがないです。そもそも合うサイズが無いので、ふらっと寄ったお店でサイズがあったら買っておかないと服がなくなる。特にパンツはそうですね、チャンスを逃すとなかなか出会えません。今日はスニーカーに合う服を考えて、シンプルに上下黒だけど、生地とシルエットが変わっているパンツにしました。
――須田選手にとってスニーカーとは何ですか?
なくてはならないもので、1足あれば気分を変えられます。スニーカーで自分の機嫌を取れる。それに、スニーカーはコーディネートの大きなポイントになる重要なアイテムです。
年齢を重ねると、人に喜んでもらうことがゴールになる
――須田選手は、2021年9月に個人のファンクラブ『SDYTR.』(エスディーワイティーアールドット)を始めました。応援グッズのトレーナーが可愛いです!
個人的に、最近ジーンズにハマったんです。それで、ジーンズに合うトップスは何か考えた時に、アメコミっぽい・アメカジっぽいデザインで、ユーズド感があるトレーナーと合わせたら可愛いと思いました。それで、ファンクラブ運営の方と話しながら、自分でデザインしました。脇の縫い方がちょっと変わっていて、スリットが入っているので着た時のシルエットがきれいです。
――須田選手は、なぜファンクラブを始めたのですか?
コロナ禍で無観客で試合をした時に、改めてファンの皆さんの存在の大きさを感じたからです。ファンは、本当に身近にいてくれたのだと感じてファンクラブを立ち上げたら、応援してくれる方たちの顔が見えるようになった。
グッズには、ファンの皆さんに満足してほしい・喜んでほしいという思いを込めています。トレーナーを着て「これ可愛いでしょう?」と自慢してもらえると嬉しいです。それに、ファンクラブは安くないお金を払ってもらっている現実があって、その金額を凌駕する満足や嬉しさを、グッズでも感じてほしいです。
――不特定多数の人に、試合に勝つこと以上の満足感を与えようとすると、須田選手自身にプレッシャーがかかりませんか?
プレッシャーに感じることはないです。ファンクラブのみんなは本当に優しくて、否定的なことを言う人は一人もいない。僕にとって居心地がいい場所です。でも、それに甘えちゃいけないことは分かっています。
今は、バスケのプレーだけして「僕たちと一緒に優勝を目指しましょう。がんばって優勝しました。すごいでしょう? 一緒に喜びましょう」だけの時代ではない。勝つことはもちろん大事ですが、それは当たり前で大前提です。
最近わかってきたのですが、キャリアを積んで年齢を重ねるうちに「人に喜んでもらう」がゴールになってくるんです。僕はファンの方から活力をもらっているし、根底にはみんなに活力を与えたいという思いがある。最も大きな目標は、試合に来てくれて「観に行って良かった! 楽しかった! また1週間がんばろう」と思ってもらうことで、僕たちの存在価値に等しい思う。影響を与えるというと偉そうですが、今の時代はプロ選手として表に立つ人間ならではの活動をしていくことが必要で、ファンクラブはその一つです。それに、こんな活動ができることって、実はとても幸せなことです。
「うわー! バスケットから離れたい!」
――須田選手は、FIBAアジアカップ2022グループステージのシリア戦、33得点の大活躍でチームを勝利に導きました。鮮烈な代表デビュー後、すぐにBリーグの2022-23シーズンに突入しています。休みがない中で、オンとオフをどう切り替えるのですか?
たしかに、今シーズンは休みが無いです。実は、オンとオフの切り替えについて自分自身がしっくりくるようになったのはアルバルク東京(以下A東京)にいた頃です。A東京に在籍して「うわー! バスケットから離れたい!」と思った(笑)。バスケをしていない時間を作らないと自分がもたないと分かりました。
A東京は勝って当たり前、勝つことを義務付けられた特殊なチームです。A東京に行きたい選手はたくさんいて、裏を返せば、僕の代わりはたくさんいるわけです。練習でも良いプレーをしないと使われない危機感を、日々感じていました。それは素晴らしい環境で、本当にいろいろ考えました。ギリギリのところでやってきた経験が、今になって生きていると思います。
ただ、経験が生きたのは、僕に死ぬほど練習した時期があったからです。その時期がないと、日本代表で他国と戦うという良いものには触れられないと思う。死ぬほど練習した経験の後に、休むことの大切さに気づいたのは遠回りではないと思っています。
自信を持つ、とはどういうことか
――代表活動では、須田選手のシュート決定率の高さに期待が集まります。
たぶん、Bリーグにいる誰でもそうだと思うのですが、僕はずっとバスケを続けてシュートを打ってきたから、シュートを入れる力はあると思います。あとはメンタルが大事で、今はシュートが入っても入らなくても一喜一憂しなくなりました。
シーズンを通して、3ポイントシュートがよく入ると言われる選手でも40%を超える程度です。40%ですよ、10本のうち4本しか入らない。もう、入る時は入るし、入らない時は入らない、そうやって割り切れていたのが代表活動です。(決定率の高さは)それが良い方向に向かったと思います。
――日本代表で「入らないものは入らない」と割り切るところに、須田選手のメンタルの強さを感じます。
僕はけっこう気にしいだし、神経質なところもあって、昨季まではシュート確率を気にして一喜一憂した部分があったんです。調子がいい日と悪い日があって、調子がいい日の自分の力を毎回出すにはどうしたらいいのか考えていました。食事に気を付けるのか、技術的に磨く部分があるのか……とか。
これまで僕は、アンダーカテゴリで代表に選ばれることなんてなくて、選考にかすりもしてこなかったんです。極端に言えば、代表活動はダメ元だと開き直ったから「入らないものは入らない」と割り切れたと思います。
――初めての代表選出でもガチガチにならず、シュートを入れられるメンタルが維持できた、ということでしょうか。
代表活動では、自分のベストを尽くすことにフォーカスできました。それでダメなら選考から落ちるだけ。結果がどうであれ、僕の人間の価値が変わるわけではない、というメンタルになれた。良い意味で楽観的になったんです。代表活動はそのメンタルで戦って、結果も出せた。このメンタリティを持てたことが、言い方を変えれば「自信が持てた」ということです。
今は、バスケキャリアに関わらず、どんな時もこのメンタリティを持ち続けられれば、どんどん良くなっていく気がしています。バスケでいえば、今季は僕にとってチャレンジングなシーズンです。代表活動のメンタリティを持ち続けたまま、今シーズンを戦おうと考えています。結果は、シーズンが終わった時に出ると思っています。
取材・文:石川歩
写真:藤原萌
取材協力:名古屋ダイヤモンドドルフィンズ