「きっと蒙恬はオシャレだから……」ファイティングイーグルス名古屋・笹山貴哉選手×キングダム【Bリーガーと漫画VOL.11】
お気に入りの漫画についてとことん聞いて、選手の個性にぐっと迫っていく『Bリーガーと漫画』。11回目はファイティングイーグルス名古屋の笹山貴哉(ささやま・たかや)選手が登場。
語るのは、紀元前の中国、春秋戦国時代を舞台に、主人公の信が天下一の大将軍になる夢を追う『キングダム』(原泰久、集英社、ヤングジャンプ・コミックス)です。
笹山選手が蒙恬に共感する理由
――笹山選手が好きな『キングダム』のキャラクターは蒙恬(もうてん)と聞きました。なぜですか?
蒙恬は、「オレが!」と表に出るキャラクターではないです。蒙恬の同世代に、主人公の信(しん)と王賁(おうほん)がいて、3人は何かと比較されるんだけど、蒙恬は1人だけやる気を見せない。内に秘めたものを持ちつつ、表には出さないキャラクターです。僕も、あまり感情を露わにして進むタイプではないから、共感する部分があります。でも、蒙恬はいざとなったら武も知もある実力派。僕もいろいろ企てているものはありますが、自分の中でやるとき・やらないときのスイッチは持っているほうです。
――蒙恬・信・王賁は同世代でライバル関係にある。将軍・蒙驁(もうごう)は、死ぬ間際に「蒙恬と信と王賁 3人で一緒に高みへ登れ」と伝えます。手を取り合う必要はなく、対立してもいいけど、3人が意識し合えば大きな力を生むと。笹山選手にとっての信と王賁はいますか?
同じポジションで高校の時から戦っていて、プライベートでも仲のいい安藤誓哉(島根スサノオマジック)と藤永佳昭(アルバルク東京)です。2人からは刺激をもらえるし、活躍してほしいと思う気持ちもあります。
――安藤選手と藤永選手、どちらが信に似ていますか?
(安藤)誓哉ですね。いろいろ考えている部分もあるけど、けっこうアホなんで(笑)、面白いです。アキ(藤永佳昭)は様々なシチュエーションでプレーしていて、苦労もしてきた選手です。
誓哉は本当に肝の据わった選手で、初めて一緒にプレーした時のインパクトがすごかったです。U-18アジア選手権で誓哉と2ガードで出してもらったのですが、誓哉は初戦でいきなり多くのシュートを決めた。「こんなヤツがいるんだ」とびっくりして、初めて「自分がシュートを打たなくてもいいんだ」と思ったんです。島根(スサノオマジック)でもクラッチタイムの気持ちの強さが出ていて、誓哉がボールを持つと、何か起きそうな雰囲気が出ますよね。(’19W杯の)日本代表を経験して、さらに覚悟と自信が増しているのはすごいと思います。
――安藤選手の活躍に、笹山選手はどんな影響を受けていますか?
僕は、クラッチの時間帯は選手が最も楽しめるところ、楽しまないといけないところだと思っています。同じシチュエーションになったら、「オレも決めてやろう」と気持ちが掻き立てられるし、クラッチタイムに誓哉の前で決めてやりたいと思いますね。
“流れ”を把握して、“小さなきっかけ”をつくる
――鄴(ぎょう)をめぐる戦いで、蒙恬は「六将とかの類の大将軍ってのは どんな戦局どんな戦況であっても 常に主人公である自分が絶対に戦の中心にいて 全部をぶん回すっていう自分勝手な景色を見てたんだと思うよ(キングダム50巻)」と言います。蒙恬が心に秘める思いの強さが出ているセリフだと思います。
信と王賁はバチバチのライバルで、蒙恬は2人から引いて見ているという読み方があると思います。でも、僕は蒙恬が“大将軍”というキングダムの中でも強烈なワードを出したことで、最も大将軍に対してのプライドを持っているのは蒙恬ではないかと思いました。
――朱海平原で麻鉱が討たれたあとに蒙恬が麻鉱軍を見事に指揮したことで、蒙恬の実力の高さも伝わります。
蒙恬のようなタイプの人間って、すでに分かっている……と言ったらあざといかもしれませんが、指揮を取ることができるし、指揮官に向いていることが自分で分かっていると思うんです。
バスケで例えると、キャプテンが怪我をしてチームから離脱した時、次のキャプテンに選ばれるのは、「この人には任せてもいい」と感じるくらい日常から積み重ねているものがあって、自ら発信しなくても、一緒に戦っているメンバーに伝わっている人。もちろん実力は大切だし、リーダーシップを背中で見せる人・言葉で示す人など様々いますが、そもそも日々の積み重ねが大きい人は、周りが気づく。周り(の麻鉱軍)には、蒙恬の実力の片鱗が見えていたのだと思います。
――攻めの戦略に優れた麻鉱が、戦に大切なのは“流れ”だと言います。バスケットボールも、流れの大切な競技です。
バスケで良い流れの時は、絶対的に波にのっている選手がいるんです。めちゃくちゃシュートが当たっていたり、動きが良かったりする選手を、どれだけ周りが後押しできるかが大切です。良い流れを継続した時間の長さだけ勝利が近づくし、逆にのっていた選手がダメになった時の切り替え方も重要。バスケは良い流れをどう掴んで、掴み続けていくかの勝負で、そこを理解している人の多いチームが強いのだと思います。
――軍師・河了貂(かりょうてん)は、信の性格を把握して戦略を立てます。笹山選手は、何を把握してポイントガードをやっていますか?
コート上にいる選手が当たっているかどうか、息が上がっているかどうか、各選手の性格に加えて、最も大切にしているのはシュートする場所です。この選手はコートのどこでシュートを打つのが最も確率が高いか、右利きか左利きか、どちらからボールを渡したほうが打ちやすいか、最後に打ちやすいところなど、各選手が最大限の力を発揮する場所を計算しています。
――麃公(ひょうこう)は、広い戦場で起きている「小さなきっかけ」を見逃さず、そのきっかけに集中することで戦を攻勢に転じます。バスケで悪い流れの時、笹山選手は「小さなきっかけ」をどうつくりますか?
どんなスポーツも同じだと思いますが、みんなが好きなのは攻撃だと思います。バスケなら、シュートで得点するシーンが光っていると思いますが、実は大切なのは、どれだけやられないか。どんなにシュートが入らなくても、相手の攻撃から守り続ければ0対0のままで負けない。「小さなきっかけ」をつくるには、相手のやりたいことからどれだけ守るかの守備力が大切だと思う。だから、試合の流れが悪いときは、常々「今はディフェンスを頑張ろう」という声がけをしています。
本能型vs.知略型、バスケが強いのはどちらか?
――キングダムには多くの魅力的な軍師が登場します。ポイントガードとしての笹山選手が似ていると思う軍師は?
王翦(おうせん)です。王翦は、勝てない戦をやらないところが賢いです。賢いことが自分の身を守るだけでなく、周りの兵も守ることになる。戦をすると、どうしても犠牲が出るわけです。であれば、自分たちが戦う場所ではないと分かった時は逃げる。「逃げる」というと負けのように感じるけれど、勝てない戦を避けて、何手先も読んで相手の嫌な部分を攻めて、最後に覆して勝つ軍師は賢い。
バスケで言えば40分という時間の中で目先の勝負に勝っていくことも大事ですが、先の先を読みながら戦って、40分後に1点でも勝っていればいいと思う。僕のこういう考え方は、王翦に似ていると思います。
――キングダムの面白さの一つに、知略型軍師vs.本能型軍師の戦いがあります。バスケの場合、知略型と本能型、どちらが強いと思いますか?
本能型のバスケが強いと思います。バスケは一瞬の判断で勝負が決まる競技で、瞬間の判断はその人の本能によるものです。もちろん選択肢は多いほうが良いけど、たくさんある選択肢からうまく選択できなければいけない。コートには5人しかいなくて、1人が瞬間の選択を間違えるとチームとしてうまくいかないことも多い。また、1人のずば抜けた本能型が他の4人の選択外にあるものを選んでうまくいくこともあります。
FE名古屋を『キングダム』の登場人物に例えたら……?
――信をFE名古屋のチームメイトで例えると誰ですか?
中村浩陸です。バスケもプライベートも、信みたいに真っ直ぐにぶつかっていくんです。バスケのスタイルも、相手を切り裂いていくし、プライベートも結構イケイケなタイプです。
――王騎(おうき)は?
石川海斗です。王騎はわりと早いタイミングで亡くなってしまうけど、亡くなった後も裏ボス的に語り継がれていく。海斗さんも、チームの裏ボス的な感じでみんなを牛耳っています。
――蒙武(もうぶ)は?
スクーティー(アンドリュー・ランダル)です。スクーティーもきちんと考えているとは思うんだけど、力が強くて個人能力に長けていて、武の強さが蒙武に似ています。コートにいるスクーティーは、蒙武のように相手を突破していく力があります。
――昌文君(しょうぶんくん)は?
(エヴァンス)ルークです。ルークは帰化選手で、チームになくてはならない存在。縁の下の力持ちの役割を担っていて、コートで目立つ選手たちを支えながら、自分もしっかり結果を残していくタイプです。ルークが帰化選手としてコートに出ることで、チームの強さが増す。昌文君もルークも、チームの基本の基という共通点があります。
――もう1人、挙げるなら?
相馬(卓弥)さんと桓騎(かんき)です。僕は相馬さんとめちゃくちゃ仲がよくて、相馬さんを見ているんですが、悪だくみというか……みんなにちょっかいをかけたりしながら、イケイケでみんなを引っ張ってやろうという雰囲気がある。
クリスマスの試合で相馬さんがMIP賞(ホームゲームで最も印象に残った選手の表彰)になって、インタビューに呼ばれたんです。普通だったら「ありがとうございました。応援のおかげで勝てました」と話すのに、相馬さんは「メリークリスマス!」と叫んで終わったんです(笑)。自分を貫き通すのが相馬スタイルで、桓騎と似ていると思います。
蒙恬と笹山選手のスニーカー事情
――蒙恬が現代にいたら、どんな靴を履いてると思いますか?
蒙恬はオシャレだと思う。アディダスのスタンスミスやニューバランスなど、シンプルなスニーカーを履いていそうです。蒙恬って顔が優しいから、ふわっとした雰囲気のスニーカーが似合うと思う。スタンスミスがコラボして可愛いデザインが出たら、それを選びそう。
――蒙恬は、ナイキを履かないんですね。
ナイキは、王賁が履いてそうです。王賁は顔もスタイルもキリッとしているので、スタイリッシュな靴が似合うと思う。信はナイキとかじゃなくて、ティンバーランドとか履いてそう。ティンバーランドのブーツ履いて、「いえーい!」とか言ってそうです(笑)。
――蒙恬がスタンスミスを履くときは、どんな服装をしていると思いますか?
古着が好きそう。蒙恬は本当にオシャレだと思うから、ファッションは一周まわって古着を選んでいる。一方で、最先端もきちんと見ていて、ディオールのパーカーとか着そうです。蒙恬のサラサラの髪にパーカーって似合いそうですよね? 現代にいたら、ホスト感が出るかもしれないけれど。
――最近の笹山選手のお気に入りスニーカー、コーディネートは?
僕は、ナイキのエアマックスとエアフォースが好きです。今だと、エアフォースで白ベースにちょっとしたアクセントがのっているのが好きです。
パンツは素材と伸縮性を重視していて、最近はシンプルなジョガーパンツを履いています。ジョガーパンツにニットを合わせてロングコートを羽織ったり、パーカーにベストを合わせることもあります。トップスはボッテガ・ヴェネタなどのハイブランドを選ぶことが多いです。ファストファッションが嫌というわけではなくて、僕は良いものを長く着たいタイプだし、スタイルをころころと変えたくないんです。
取材・文:石川歩
取材・写真協力:ファイティングイーグルス名古屋