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「ファッションは芸術みたいなもの」宇都宮ブレックス・渡邉裕規選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.39>

2021.11.08

2009年にパナソニックトライアンズ(JBL)でバスケ選手としてのキャリアをスタートし、2013年から宇都宮ブレックス(当時リンク栃木ブレックス)で戦っている渡邉裕規(わたなべひろのり)選手。Bリーグの中では“話せるBリーガー”として知られており、様々なメディアに出演しています。今回も、私服論からいつも自然体でいる方法、将来の話まで広がりのあるインタビューになりました。どんな質問にも迷わずに、渡邉選手ならではの言葉で答えてくれています。

渡邉裕規選手の私服のモットーは“いじられない”こと

――渡邉選手は、私服にどんなこだわりを持っていますか?

「僕の中で私服というのは、遠くに行く時に着る服のことです。普段の栃木県内を移動する練習とか、コンビニなど近所に行く時はチャンピオンのスウェットとサンダルです。僕の私服のモットーは“いじられない”です。私服でいる時に、いかにいじられないように過ごすか。派手でもなく地味でもなくいることが大事です。奇をてらって『どうですか? 僕はおしゃれでしょう?』というのはキツい。すごい人ならいいんです。たとえばジャスティン・ビーバーとか、あのレベルの人ならば奇をてらったファッションもカッコいいと思います」

――ジャスティン・ビーバーは、レベルが高すぎませんか?

「そのレベルしか履けないですよ。ナイキの限定モノで“靴紐が低いスニーカー”なんて、ジャスティン・ビーバークラスしか履けないっす。(※この時、近くにナイキの限定モノ=エアフォース1 G -DRAGONパラノイズを履いた荒谷選手がいました)」

「ファッションは芸術みたいなもの」宇都宮ブレックス・渡邉裕規選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.39>

「たとえば、こだわってるけどサイズの合わない服があるとして、サイズ直しに3ヶ月待って着たら女性にモテる、というならやりますよ。結局ファッションって、自己満足と異性に対するアピールじゃないですか? こだわった服を着て、『おしゃれだね』と言ってくれるならめちゃくちゃ嬉しいですけど、言われたことがないです」

――多くの渡邉選手ファンが言っていると思います。

「その声、僕のところには届いていないです。もし思ってくれているなら、もっとシェアしてください。逆に、『ダサい』と言われても気にしないです。僕は、良いことしか気にしないです。ファッションは難しいですね。今日の僕の服装を好きだという人もいれば、変えたほうがいいという人もいる。これという正解がなくて、ある意味、芸術に近い。破天荒なファッションでも、顔がどうとかは関係なく全体に雰囲気がある人は似合う。“ファッションが似合う”というキャラクターを持っている人は、何でも似合うのだと思います」

――今日の服はどうやって選びましたか?

「今日は、全てCOOTIE PRODUCTIONSです。後輩のやっているブランドで、体の大きい人が着たほうが似合う服だと思います。僕が服を選ぶときの一番大きな問題は、サイズです。Lサイズを着ても肩がピチピチだし、アウターを探そうとするとさらに大変。知り合いのブランドだと、買う時に相談ができて楽なんです。体の大きさを知ってくれているし、僕の好みも分かっているので、全く知らないお店に行って知らない人と話して買うよりも良い。今は、COOTIE PRODUCTIONSとユニオン通りにあるARKWAXの2店舗で買うことが多いです」

「ファッションは芸術みたいなもの」宇都宮ブレックス・渡邉裕規選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.39>

「靴もCOOTIE PRODUCTIONSです。ナイキのスニーカーも持っていますが、履くのはチャンピオンなどラフな服装をしている時です。試合のバッシュは高校の先輩が送ってくれたもので、(ルカ)ドンチッチが履いていたジョーダン リアクト・エレベーションの黒です。バッシュにこだわりは無くて、カッコよければ履きます」

宇都宮ブレックスの”良い雰囲気”を作り出すもの

――以前、この連載で遠藤祐亮選手に話を聞いた時に、宇都宮ブレックスの良い雰囲気を作っているのは田臥勇太選手と渡邉選手と話していました。

「チームの雰囲気作りで意識してやっていることはありません。田臥さんを筆頭に遠藤が10年、僕も9年目と、長くチームにいる選手が多いので、コミュニケーションで気をつかうことはないです。そして、みんな1シーズン1つずつ歳をとっていくから年上はずっと年上としているわけで、チームのバランスが崩れることは無いです。今シーズンは外国籍選手が変わりますが、昨シーズンからいるジョシュ(スコット)はチームに馴染んでいるし、(鵤)誠司も(竹内)公輔さんも(喜多川)修平さんもいるから、みんながバラバラに違う方向を向いているようなチームにはならない。ただ全く上下関係が無いというわけではなく、良い意味で仲が良く、でも競い合っているのがうちのチームの良いところであり、今後も続いていく部分だと思います。遠藤は優しいからそう言ってくれたと思いますが、田臥さんと僕がいるから作られている雰囲気ではなく、ブレックスはそういうチームだということです」

――渡邉選手は試合中の振る舞いを含めて、視線を送りたくなる華やかさがあります。プロスポーツ選手には必要なものだと思いますが、どうやって培ってきましたか?

「良く言えば、“自分の良さとは何か”を考えてきたと思います。ブレックスに来てからは、“渡邉は勝つためにチームを盛り上げる”というイメージが定着していると思うし、ファンの方も求めていると感じます。例えば僕がシュートを入れたり、試合の流れで欲しいボールを取っても盛り上がらずスカしていることをファンの方は求めていないと思います。昔、佐々(宜央)さんに言われて、“自分というものは何者か?”、“コートに入った時にやることは何なのか?”を考えました。試合中はバスケのスイッチを入れて、ワッと吠えるパフォーマンスをしているのが自分だと思ったので、それを隠す必要はないわけです。今では自然にやっているパフォーマンスなので、それをしないと仕事をしていない気分になります」

「ファッションは芸術みたいなもの」宇都宮ブレックス・渡邉裕規選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.39>

「僕は周りから見たらおちゃらけているお調子者かもしれませんが、そう思ってもらえたらこっちの勝ちです。その中には、“なんか嫌だ”という思いがありますよね。対戦相手のチームのファンの方がそう思ってくれるなら、僕の勝ちです。選手の中にも、僕と対戦して“渡邉は嫌いだ”という人がいると思います。ただ僕としては、試合中とコート外は違うんです。たまに違うチームの選手とばったり会って食事をすると、“渡邉選手は怖い”と言われるのですが、それはちょっと違うと思う。だって、今は今だから。食事中は仲良くしても、試合ではバチバチにやりあう、こういう関係を分かったうえで仲良くしてくれる人が、僕は大好きです」

――オンとオフの切り替えが、はっきりしているのですね。

「ずっとオンでなんて、いられないです。競技のことばかり考えているのがアスリートというのは違うと思います。僕は、やるべき時に現場でやらないと意味がないと思っているので、ミーティング・練習・試合という一連の流れを集中してやり切るようにしています」

どんな時も自然体でいる方法

――様々なメディアに出ている様子を見ても、今日お話をしていても、渡邉選手はいつも自然体でいられる人だと感じます。

「今後、めちゃくちゃ影響力のあるメディアの前でペコペコしていたらどうしよう(笑)。まあ、そんなことはしないですが……たぶん裏表はないと思います。だって、自分が裏表のある態度をされたら嫌だし、やられていい気分になる人は多くないはずですから」

――最近の渡邉選手の発言をみていると、「栃木県が好き」という言葉が多く出ています。コロナ禍で何か気づきがあったのでしょうか?

「僕は一回引退して(※)、本当にいろんなことを経験したけど出来なかったことの方が多かったんです。自分で出来ないことが分かって、たとえば引退後に何か他のことをやりたいと思った時に、基本的にはお金を稼ぐというより楽しくいられるものは何かと考えました。これまで23年間バスケをやってきて、バスケに勝るものは絶対に無いと思います。ブレックスにいて、シュートが入ったらたくさんの人が喜んでくれて、“渡邉選手!”と応援してチヤホヤされるって僕の人生のMAXだと思うし、バスケと同じようなものを他に見つけるのは難しそう。であれば、自分が楽しいと思うことをしたいと考えるようになりました。楽しんで何かをやる土壌として、栃木県は一番だと思っています。取り組んだことが上手くいけば、それが栃木県への恩返しにもなると思っています」

※2016-17シーズン後に引退を発表。その後、2017年11月に復帰した。渡邉選手いわく「辞める・復帰しない詐欺(笑)」

「ファッションは芸術みたいなもの」宇都宮ブレックス・渡邉裕規選手<Bリーグ×ファッションの密な関係Vol.39>

トップス・パンツ・シューズ:COOTIE PRODUCTIONS

取材・文:石川歩
写真:白松清之
取材協力:宇都宮ブレックス

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